#20 謎のローブを追うA級
「た、助けて~」
ギルドで聞いた情報によれば、奴は困っている者の元に現れると。
別に窮地に陥っているわけではないが、近場の森で手を抜いてオーガと戦い、それっぽく振る舞う。
次の瞬間オーガの首筋が切り裂かれ、血を噴き絶命していた。
突然すぎて早業とも思えない、一体どんなトリックだ。
それと同時に、背後から何者かの声が聞こえてくる。
「あれ? えっと、前にどこかで会ったっけ」
「ようやく来たな!!」
振りむけば、そこには見覚えのあるローブ姿。
フードの下には、前にはなかった仮面こそ付けているが、あんなぼろいローブにナイフを持った人物だ、見間違えるはずなどない。
何度か助けを求める演技をして、現れた目的の人物。
「そうだ、覚えてないかもしれないが、ミレイスと名乗れば思い出せるか?」
「ああ……そういえば前に会ったような。何か用?」
仮面の顎部分をさすりながら、記憶を探る様子を見せるローブ男。
そう、私はこの男に言いたいことがあるのだ。
「何か用? じゃない! お前の流した噂についてだ!」
「噂って? 何のこと?」
あくまで白を切るつもりか、本当に心当たりがないのか。
こちらの秘密の依頼に勘づかれている可能性もある。
ともかく真相は確かめなければ。
「恐らくだがお前がやっていることが、全て私がやったことになっているんだ!」
「へえそうなんだ……。なんで?」
「それは私が聞きたい!」
「別に噂を流したとかはないんだけど……。じゃあ逆に聞くけど、その噂を流してこっちにメリットがあるように思える? 何ならそれは自分じゃないって、否定すればよくない?」
仮面の下から響く声音は、少し困ったもののように聞こえる。
メリットは考えられなくもないが、本当に何もしていないのだろうか。
「否定しようにも、なぜか事実が混じっていて否定しても聞き入れられないんだ……。お前が助けた少年が、私について調べたらしくて、そこから信憑性が強まってしまった……」
「少年って。ああ、あの時のミレイスさんか!」
ようやく思い出したかのように、手をぽんと叩くローブ男。
もんもんとする感情を抑え込み、続ける。
「なぜおまえは男の声だというのに、女の私がやったことになっているんだ……! 私が男の声も出せるとか、尾ひれ背びれってレベルじゃなく、色々ついてしまっている……」
「うーん困ったね、こっちには本当に心当たりがないが……。ちなみに俺じゃないとして、他に噂の出処とか聞いてる?」
「私が考えているのはお前だが、巷では出処がA級冒険者なせいで余計に信じられている……。カイルとデメルという冒険者だ。それと、アリアとかいうC級の冒険者が、私であると推理したとかなんとか」
「カイルとデメルとアリアね……」
「別に私は怒っているわけではない。まあ困ってはいるが、噂ひとつでお前の功績を奪ってしまっているのも問題だ。冒険者とは力を示して信頼を勝ち取ってこそでもある、姿を隠しているのには理由があるのだろう? あの噂が正されることで、得られるコネクションは多い。お前の助けにもなるかもしれない」
「コネか……」
考える素振りを見せて、改めて私に向き直り、人差し指を立てるローブ男。
何かわかったのだろうか。
「恐らくアリアの推理が間違っているせいだろうが、俺にはそれを咎めることはできない。すまないが大人しく噂の人物になっていてほしい……」
「それってどういう……」
話は済んだとばかりに、踵を返すローブ男。
「ま、待て! 逃げるつもりか!」
「大丈夫! 噂があなたにとって不都合でも、俺はあなたについて何も知らないし、悪いようにはならないから! ただ噂の人物になるだけだから!」
それだけ言って、すたこらさっさと走り出すローブ男。
その足は速くはないが、逃がすわけにはいかない。
「お待ちなさい」
追いかけて捕まえようと足を踏み出したところで、突然近くの茂みからシスター姿の女が現れた。
この人は確か街の教会で見たような。
「何か用? 今急いでるの。後で相手してあげるから……」
「彼を追ってはいけません」
「はあ?」
「彼は世界を救う……というと大げさかもしれません。今のところは、このザルドレ近辺を救う者。邪な考えは見られません。どうか私に免じて、彼をそのままに……」
なぜ街のシスターが近場とはいえ、モンスターの出てくる森にいるのかはわからないが、これもローブ男の差し金だろうか。
それならば逆に怪しくなってくるが。
そう考えていると、シスターが一言。
「私を殺してでもというのなら、どうしても追うというのなら、相手になります。が、彼は悪魔ゼルヴァルスを退けた者。もし追えたとしても、あなたに勝ち目はありませんよ」
「悪魔ゼルヴァルスって、まさか!」
「そのまさかですよ」
大層な伝説、おとぎ話としても語られる、最強の一角と呼べる悪魔。
それを倒したというのか……。
にわかには信じがたいが、シスターがわざわざ嘘を吐くこともないだろう。
一旦この件は、様子を見る必要があるか。
ため息とともに、森の木々の間から仰ぎ見た空は、どこまでも青く広がっていた。
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