#18 危機意識
「起きたら治ってた。……けど跡は残っちゃったか」
鏡を見て顔の傷を確認するが、跡が残っている以外は問題なし。
昨晩の悪魔との邂逅、そして受けた傷は一晩にして完治していた。
夜中とはいえ街中だったからこそ、すぐに駆け付けることができたのは、不幸中の幸いだっただろう。
そして考えさせられることも増えた。
「曰くあれは悪魔らしいけど、刃物は通る相手には通る。魔術師っぽかったせいかな。ゴリゴリ戦士系の、肉体ガチガチなやつとかは無理だと思うし、相性だよなあ」
ナイフをベッドに置いて、まじまじと眺める。
これまで隙を見てトレーニングをし、時間停止する度助ける人の元まで走り、モンスターを切ったりしてきたが、まだまだこれ以上重い武器を扱えるとも思えない。
レベルによる、強化の恩恵にあずかれないというのは、想像以上に厳しいらしい。
「スキルも昨日の夜は間一髪だったし……」
いきなり悪魔が振りむいて、こちらに攻撃してきたのはめちゃくちゃびびった。
反射的に時間停止をしたが、わずかでも遅れていたら、きっと頬だけでは済んでいなかった。
レベルで強化された冒険者や、強いモンスターを目で追えない、反応できない速さでの攻撃に対処しきれないのは、時間停止の明確な弱点だろう。
ここではあくまで不意打ちメインにしかなり得ない。
こういうところをレベルで補えれば盤石と言えるのだろうが、残念ながらその手は使えない。
勇者であることが露見するリスクが大きすぎる。
「キスされたことは……まあ治療の一環だろうし、忘れよう。あと装備」
顔を覆うマスクのようなものがあれば、今回のような負傷は防げ……いや、相手次第にはなるか。
強い攻撃に店売りのマスクで耐えられるわけもないと思うが、ないよりはマシだろう。
思い立ったが吉日とばかりに、すぐに街へ駆り出す。
大通りから裏通りまで適当に店を見て回るが、ちょうどいいものは見当たらない。
「やっぱり装備品扱いか」
仕方ないので、ローブを買った店で頼んでみることにした。
しかし入ってみれば店主がいなかったので、呼び掛けてみる。
「すみませーん」
「あいよー。って、こないだ来た新人じゃないか。どうだ、冒険者生活は順調か?」
「ええまあ、それなりに。ところで、顔を覆えるマスクのようなものとかあったり……」
「あったりするね。ちょっと待ってな」
マスクマスクと呟きながら、裏で何やら探していた店主が戻ってきて、恒例なのだろうか、仮面を4つほど並べてきた。
「それぞれ高いものから、白、灰、茶、黒色だ。白には状態異常を無効にする効果もある」
白いものは金で縁取られており、何やら神聖な雰囲気だ。
灰色はいたって普通、少し頑丈そうだ。
茶色は少し古びており、使い古されてそうだ。
黒いものはなにやら禍々しく、曰く付きという言葉がふさわしい。
デザインはどれも似たようで、目の部分に穴が開いている。
少し迷ってから、俺は灰色のものを指さした。
「今回は少しお高めで」
「ほう、その心は?」
「顔を保護するものだから、少し出してもいいかなと」
「ははーんその頬の傷だね。まあそれだけで済んだなら、学習料としては安い方だろうさ。持ってきな」
納得したような店主を尻目に、お金を支払って仮面をしまい、店を後にする。
さて、このままギルドに情報収集に行くのも悪くはないが、少し気になって教会に立ち寄ってみることにした。
シスターがいいと言うので、悪魔は置いてきたけど大丈夫だろうか。
そんなことを考えていたが、それは杞憂に終わった。
着いて見れば、昨夜悪魔の死体と血があったとは思えないほど、元通りの綺麗になっていた。
心なしか、また通っている人が増えているような。
「まあ、せっかく立ち寄ったんだし、祈っていくか」
昨夜と同じような位置で祈ってみる。
「この世界から帰れますように」
時間停止という、チートもかくやという力を持ちながら、有効に活かすことができない状況。
平和な現代日本が恋しくなってくるところだ。
せめて冒険者登録してレベルさえ上げられればと、どうしても考えてしまう。
しかし同時に、それは最終手段としても理解しているため、もどかしいところだ。
祈りを終えて立ち上がると、シスターが暗がりから静かに、こちらに微笑んでいた。
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