表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

#17 襲撃された教会

 シスターとして働き、何の変哲もない平和な一日が終わるころ、それは現れました。


「ここが人間拠点の教会ってので合ってんだよな? いやにビリビリするんだがな」


 掃除と祈りを終えて、壁の燭台の蝋燭を消そうとしたところで、黒い肌に豪奢な衣装の悪魔が、閉じられた教会の扉を開けて、堂々と侵入してきました。

 結界を突破してきたあたり、普通ではなさそうです。

 胸元にかけた十字架を握り、ひとまず会話に応じます。


「その通りですが、あなたも只者ではありませんね。高位の悪魔とお見受けしますが」


「ははあ、なるほど。こりゃ誰しも手をこまねいて苦労させられるわけだ。おっと、挨拶が遅れたな。ゼルヴァルスと名乗れば、どの程度か理解できるかな?」


「……魔法に精通し、聖属性にも耐性を持つ強大な悪魔。そう聞き及んでいます」


「嬉しいね、俺の名は人間界にまで轟いているらしい」


 ゼルヴァルス、魔法の真髄にたどり着き、悪魔の中でも上から数えた方が早いであろう存在。

 海を割り、山を崩し、その伝説は途方もないものばかり。

 並大抵の悪魔では突破できない結界に侵入しているあたり、嘘ということもないでしょう。

 できれば敵対したくはないですが……。

 月明かりの差し込むステンドグラスを背後に、悪魔に問います。


「わざわざ教会に足を運ぶとは……。内容次第では交渉に応じます、何をお求めでしょうか」


「いいや、それには及ばない。なぜなら俺の目的は、結界が展開されている場所、つまりこの教会を破壊することだからだ」


 喋りながら悪魔を中心に、急速に魔力が膨らんでいくのがわかりました。

 咄嗟に握りしめた十字架を掲げ、祈ります。

 直後、雷、炎、風といった属性の異なる強力な魔法が放たれましたが、それらは展開した小型の防御結界に阻まれ、霧散しました。


「なるほど、いかにも普通のシスターで下っ端みたいな恰好だが、お前がここの主だったワケだ。じゃあ交渉だ、お前に死んでもらえれば、それ以上の用事はない。結界はお前のものだろう、大人しく命を差し出してもらおうか」


「お断りします。そんなことをすれば、あなたが去ったとしても、他の悪魔が押し寄せてくることでしょう」


「その通りだが、無駄な抵抗はよせ。こうして話をしている間も、反撃をしてこないあたり、防御にリソースを割かないと防ぎきれないのだろう。持久戦ならば無尽蔵の魔力を持つこちらに分がある。だが久しく見なかったぞ、俺の魔法を耐えられる者などいつぶりだろう。そして、いつまで耐えられるか見ものだな」


「神よ、どうか私共をお助けください……」


 そこから情け容赦のない魔法の波状攻撃が始まりました。

 炎、氷、混沌、闇、大地、様々な属性の強力な魔法が、絶えず眼前の結界を揺らします。

 悪魔の予想通り、防御結界をフルに機能させなければ、すぐにでも消滅させられていることでしょう。

 交渉で追い返すことは叶わず、悪魔に有利な場所ですら劣勢、タイミング悪く夜間でギルドに誰もいないため、冒険者を呼びに行くこともできない。


「神よ、どうかお慈悲を……」


「ふふふ……まさか俺の攻撃をこれほどまでに受けていられるとは! 燃えて来たぞ! ペースを上げるぞ! へばってくれるなよ!」


「神よ……」


 教会の結界の中であるため、悪魔も消耗してるはずですが、聖属性耐性のせいか、あまり堪えている様子はありません。

 この至近距離では感知の鈍化や命中精度への影響も、意味をなさないことでしょう。

 結界にヒビが入る中、十字架を握りしめるほかに、できることはありませんでした。


「神よ……お助けください……」


「俺の猛攻を前に耐えられたのは、お前が数百年ぶりだ。まあ何にせよ、楽しめたぞ、娘よ。殺すのは少し惜しいが、これも必要なことなんでな」


「神よ……」


 悪魔の手元に、砂礫が舞い、一本の槍が形成されていく。

 一見普通の土くれだが、途方もない魔力が練り込められている。

 恐らく結界ごと私を貫き、街の外まで立ち並ぶもの全てを塵と化していくでしょう。


「ぐふっ」


 十字架に縋り、握りしめれば、直後槍が崩壊して砂となり、床に落ちていました。

 そして、悪魔の胸元から突き出た刃物。

 刃物を引き抜かれ、傷から血を流す悪魔。

 悪魔が背後に爪を振るい、爪の先から血が飛び散った後、首からも盛大に血を噴いて、床を深紅に染めながら崩れ落ちました。

 いつからかそこに立っていたのは、全身ローブ、片手にナイフを持った人物。

 振りむいて気軽に語り掛けてきました。


「いったぁ……。生憎、神じゃあないけどいいかな」


「あなたは一体……」


「月の綺麗な夜だから、お祈りに来たんだよね。いいかな?」


「はい、もちろんです」


 全身を隠し、ナイフを収めたその人は、膝をついて祈りを始めました。

 よく見れば、その人のフードから覗く口元は歪み、頬がぱっくりと切れ、血が流れていました。


「あの、血が出ています」


「大丈夫、かすり傷だから」


「いいえ。助けていただいたお礼です、手当をさせてください」


 明らかに無理をするその人を抑え込み、清潔な布で血を拭い、傷に口づけをします。

 じっくり数十秒、動揺するその人を抱きしめて抑え込み、付け加えます。


「悪魔から受けた傷です。跡は残ってしまうかもしれませんが、通常の処置よりは効果があるはず。それでも何か異常を感じたら、すぐに私の元を訪ねてください」


「悪魔ね、なるほど。何かあったら頼らせてもらうね」


 立ち上がり、ちらと倒れた悪魔を一瞥し、問うてきた。


「これ、どっか捨ててきた方がいいかな」


「いえ。そこまでお手を煩わせるわけにはいきません。処理はお任せください」


 親切な人。

 それにとても強い。

 何者なのでしょう。


「あの、お名前を……」


「名乗るほどの者ではないさ。また来たときはよろしくね」


 そう答えて、風の吹き抜ける教会の扉をくぐり、その者は去って行ってしまいました。

評価やリアクションなどいただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ