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#16 窮地に現れる謎の人物の噂

「なあ、カイルさんよ。最近また面白い奴が現れたらしいぜ」


「面白い奴だあ?」


 依頼を品定めしていたところに、肩を叩いて声をかけてきたのは、俺と同じA級冒険者の『不遜』の二つ名を持つデメル。

 粗暴で野蛮を体現した輩だが、実力に裏打ちされた態度でもある。

 普段なら適当にあしらってやるところだが、情報があるのなら聞いておこう。


「ギルドじゃ特に、誰か目立った昇級したりの話はないぞ?」


「ああそうさ。なぜなら、そいつは正体を隠しているからだ。遭遇した誰もが、ローブで全身を隠していて、ギルドにいる人間かすらも知らないんだからなぁ」


「詳しく聞こう、どんな悪事を働いている?」


 ギルドの顔見知りなら、多少やらかしがあったとしても問題ないが、それがギルドと無関係であれば話は別だ。

 王のお膝元ということも相まって、なにかと面倒事に発展しかねないので、事前に追っておく必要がある。


「そう怖い顔しなさんな。正義感の強いそれは、もはや職業病だなお前」


「揶揄うな。いや、そう言うってことは悪事ではないのか」


「むしろ、その真逆だ。正体を隠して、ピンチの冒険者や困っている人の前に現れて助けた上で、お礼を受け取らないどころか、名乗りもせずに去っていくらしい」


「それは……面白いな」


「だろ?」


 基本冒険者というものは信頼関係が大事だが、関係を築くまでには対価を伴った取引や、協力をこなしていくものだ。

 対価を元に動くことで相手は儲けられ、こちらは安心して任せられるといった工程を繰り返し、相手の人となりを知って関係を深めていくのが普通だ。

 それゆえに、助ける場合も金銭をはじめとした対価を要求するのが普通だが、こいつはそれをしていない。

 それどころか冒険者だけでなく、一般人まで助けているという。


「にわかには信じがたいな……」


「それがどっこい。お前も魔法使いのライレインは知ってるな?」


「ああ、屋敷に篭って魔法実験してる変な人だな。魔法で街に貢献したり、重い荷車を一人で引いてるとか聞いてる」


「お前からしたらそんなもんだろうが、市井の奴らからは人気でな。で、そのライレインが引く荷車を、フードの人物が一緒に引いてたらしい。ライレインの名もあって、その噂はあっという間に広まった。信憑性は高い」


「……人気なら、それまで誰か一緒に荷車を引いてやらなかったのか?」


「いや、C級が死ぬような重さの荷車を、依頼で引かされてるのも見てるからな……。人気はさておき、誰もやりたくないんだろう」


 C級ですら苦しむ重さの荷車とは、ライレインも何を運んでいるのやら。

 ともかく、その『面白い奴』は実在するらしい。

 悪事を働いていないのはいいが、その真意が見えないのは気にかかる。

 悪事でないなら冒険者であることを明かした方が、メリットに作用する点は多いだろうし、その者は冒険者ではないのだろうが。

 考えているとデメルが周囲を見回し、近くの冒険者に声をかけた。


「なあ、アリアさんよ。お前も会ったんだろ?」


「ええ、まあ。最近の巣穴依頼で颯爽と現れて、颯爽と去っていきました。手際が良いというレベルで片づけられない人でしたね」


「ほら、期待のC級もこう言ってるぜ」


 アリアを親指で指し、同意を求めてくるデメルに、俺は黙り込むしかなかった。

『瞬行のアリア』という二つ名まで付けられた、登録してからすごい勢いでランクを上げており、すぐにでもBに上がるだろう、一部で話題の渦中にある者すら評価している。

 その『面白い奴』も手練れであることが窺える。


「何やら強力な魔法も使えるなんて噂まで飛び交ってやがる」


「魔法使いか……」


「お前も気にはなるだろ? そこでものは相談なんだが……奴の正体を暴いてみないか?」


「暴く? どうやってだ」


 デメルの思いがけない提案に、何を思ったのかびくりと反応をしたアリア。

 だがそもそも、誰も素性を知らない奴と、どうやって遭遇するのかという問題がある。


「暴く以前に、どこに行けば会えるのかはわかるのか?」


「わからん! だが流れている噂の出処は、全て窮地に陥った冒険者や困った一般人からだ。奴は何かしら、そういった人を探れる力があるんだろう。でないと説明がつかない」


「……つまり、俺たちも追い詰められたフリをすれば、そいつが来るかもしれないと」


「その通りだ。こちらから探さなくとも、向こうを呼び込めばいい」


 なるほど妙案だ。

 相手の行動を逆手に取って来てもらうなら、問題にはならない。

 そんな時、なにか閃いたかのような仕草とともに、アリアが口を挟んできた。


「私、その噂の人の正体に心当たりがあります」


「ほう、心当たりだと?」


「実は同時に、ミレイスさんが初心者パーティに、名前を偽って潜入してるんじゃないか。みたいな噂も流れているんです」


「ミレイスってーと、A級のあいつか」


『戦塵のミレイス』

 立ちはだかるモンスターの尽くを倒し尽くした、二つ名を持つA級冒険者。

 今回の噂はギルドにでも頼まれたのだろうか。


「はい、目的は冒険者になりたての人を助けるためだとか。今気づきましたが、その謎の人の噂はE級やD級の、初心者を中心に助けているらしいんです」


「まあそりゃ、C級以上なら撤退判断もできるだろうし、窮地に陥るってことはないだろうしな」


「もちろんそうですけど、不測の事態に陥ればBやA級であろうとも、助けが必要になるとは思いますが、そういったところを救われたという噂はないんです」


「それもそうだな、D級E級に固まってるってことは、何か事情がありそうだ。ミレイスなら強力な魔法を使えるって条件も、クリアしてるわけだ」


「間違っていないとは言い切れませんが、ここまで状況証拠が揃えば、もはや調べるべくもないと思うのですが」


「あー、それもそうだな」


「ですよねっ」


 確かに、ちょうど謎の人物とミレイスが初心者を助けている噂が重なり、『瞬行』が認めた上強力な魔法を使えるともなれば、そんじゃそこらの輩には真似できるものではないし、偶然とも思えない。


「なるほどな。デメル、さっきのおびき寄せる件はなしでいいな」


「ああ、構わんよ。俺も正体がわかってすっきりしたってもんだ。情報ありがとな、アリア」


 満足げにギルドを去っていくデメル、アリアも謎が解消したからだろうか、ほっとしている様子だ。

 なるほどミレイスが初心者を助けていたか、なら相手を委縮させないよう正体を明かさない、まともに謝礼を払えないであろう初心者に見返りを求めないのも、納得がいく。

 それはそれとして、ギルドの動きも探っておくべきだろう。

 A級に何かしら仕事が回ってくるかもしれないからな。

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