#15 甲殻のモンスターと戦う戦士
何度攻撃してもダメージが通っていない様子なのは、気のせいではないのだろう。
「くそっ、こんなの聞いてないぞ」
吐き捨てて対峙する、黒色のツノが生えた虫のモンスターに攻撃するが、やはり拳は堅い外殻を震わせるのみで、それを貫くことはできない。
意識して同じ場所を殴っているのだが、効果も見込めない。
そして何度繰り返しただろう、虫のモンスターから反撃が繰り出されるが、これを余裕をもって避ける。
「千日手ってやつか……」
お互いに攻撃が効かない状態なら、普通は一旦退くべきではある。
しかしこちらは昇級試験として依頼を受けてきている以上、それもできない。
俺の拳は今まで相手にしてきたモンスターを、全て貫いてきた。
いや昇級試験なら、現状の俺より強い相手が出てきてもおかしくはないか。
「こんな時どうすれば……」
全て敵対するものは拳で黙らせてきた以上、拳が通らない場合の解決方法がわからない。
そういう状況を解決できてこそ昇級できるということなのか。
つまり、昇級は失敗……。
「いいや、まだ何か!」
「無駄だよ、そこまでにしておくんだ」
ひとりごとに答えた謎の声、振り向いてみれば、いつの間にか全身をローブで隠した人物が立っていた。
「無駄ってどういうことだよ」
「先ほどから君の戦いを観察していたが、君も理解している通り、そのモンスターには君の拳じゃダメージを与えられない。あれを貫く火力か、あるいは工夫をする必要がある。やってもいいかな?」
「……ああ、頼む」
「賢明だ」
もはやどうすればいいかわからなかった俺は下がり、ローブの人物に任せることにした。
入れ替わるようにローブの人物が前に出た直後、虫のモンスターが燃え上がり、ギギギと耳障りな悲鳴をあげて、のたうち回り始めた。
「奴はケラスセクト、防御に関しては目を見張るものがあり、全身を覆う甲殻を貫くには、A級冒険者が必要と言われるほどだ。しかし攻撃は弱い上、魔法にも耐性がない」
「なっ、そんな奴をE級昇級試験にしたってのか。ギルドの連中は」
「君が事前に情報収集をして、魔法が使えないなら魔石を準備するか、あるいは別の解決手段を用意するか。そういった成長を期待していたのだろう。ここに来るまで、こいつのことを調べたか?」
「いや、調べてない……」
そうだ、少し強いやつくらいならねじ伏せられるから問題ないと、そのまま来た結果がこのザマだ。
そうして断末魔を上げて、絶命したモンスターに歩み寄るローブの人物。
腕や足の関節部にナイフを突き刺し、そのままあっさりと切断していた。
「一応抜け道はあった。こういった殻の頑丈なモンスターは、内部にダメージさえ通ればいい。基本関節部までは覆いきれてないから、そこを破壊できれば君一人でも勝機はあった」
そうだ。言われてみれば、頭の部分を集中して狙っていたが、別の弱点を探せばよかったのか……。
「俺はまだD級には相応しくないってことか……」
「そう気を落とすな。今回は残念だったが、準備不足で命を落とすよりよっぽどいい。これを機に、猪突猛進だけじゃなく、いろいろ調べてみるといい」
そう言い残して、すたすたと歩き去る謎の人物。
はは、井の中の蛙とはこのことか。
しかしそうだ、早くに自分が増長していただけという事実に気が付けたのだ。
死ぬような事態になる前に、躓いて学ぶことができたのだ。
ギルドは突破できるならよし、失敗して成長することも織り込み済みで、この依頼を用意したのだろう。
「ふふふ……。まだまだだったんだな」
昇級こそ失敗に終わったが、不思議と晴れやかな気分だった。
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