#13 ギルドの酒場にて
その日も飽きずにギルドの酒場で、地獄耳で冒険者の会話を盗聴しながら、一人会議をしていた。
モンスターを不意打ちする中で、見えてきた課題を見つめなおす。
報酬分配の問題で、何やらギルドの建物内で冒険者同士の乱闘が始まっているが、それは置いておこう。
「今まで戦ってきたのは、全部ナイフの通る人型相手。まあスライムは違うけど、コアさえ壊せば倒せたし」
相手があまり強くなくとも、ナイフの通らない硬い鱗に覆われたモンスターや、水や風で構成されているエレメンタルの種族など、そういった相手にも自衛の策を持っておきたい。
もちろん時間停止をすれば逃げることは容易だが、持っておいて損はないという話だ。
「地獄耳で聞く限り、使い捨ての薬液か、魔石あたりが一般的か」
魔法店や、物によっては雑貨屋で手に入る、使い捨てのアイテム。
薬液はかかるだけで特定の反応を発揮するもので、瓶が割れるように敵に投げつけて使用する。
魔石は砕くことで、内包されている魔法を一度だけ使えるようになる代物で、これは勇者であっても例外ではないらしい。
強い魔法は魔石に込められないらしいが、強い敵には挑まなければいいし、最悪複数個を同時に使えば誤魔化せるかもしれない。
軽いものなら重量で動きを阻害することもないし、いくつか持っておいていいかもしれない。
「店には後で行くとして、他には移動の問題がなあ」
時間停止は時間を停止するだけで、移動は自分で走らなければならず、どうしても移動が大変という欠点がある。
そして誰かの元に行く際、詳細な位置の特定に地獄耳を使っている都合で、数回ほど時間停止を切る必要がある。
というのも、地獄耳で見える波については、時間停止をしても止まらないのだ。
誰かが喋ることで発生する波の位置から、人がどこにいるのかを特定しているため、ある程度近づいたら時間停止を切って、もう一度波がどこから発生しているのかを確認する。
それを繰り返して、人のいる位置を探っているのだ。
助けを求める声に気づいてから、何回か喋ってもらった後で、到着するという仕組みだ。
もし複雑に入り組んだ場所であれば、さらに遅れることになる。
「地獄耳の波はスキルによるもの。魔道具とかで補助できるとも思えないし」
地獄耳で探る限り、やはりギルドでも異世界の勇者しか使えない、スキルについての話は聞こえてこない。
スキルについての情報は、他の勇者や関係者でも探らない限り得られなそうだ。
これは後回しにするほかないか。
少し落胆してため息をついていると、突然額に何かがぶつかった。
「いだっ」
視界がチカチカする中で、額に手をやるとドロッとした血が出ていた。
周囲を確認すれば、恐らく飛んできたであろうジョッキが転がっていた。
ここの酒場から持ち出していたものだろう。
少しでも油断すれば、これだけの怪我では済まない世界だ。
より一層気を引き締めて行こう。
「おう、グラス、大丈夫か?」
「なんとかな。奥で誰かが乱闘してるからカイル先輩も気をつけてな」
「なるほどな。ご忠告感謝するぜ」
ちょうどギルドに入ってきたカイルと入れ違うように、俺はギルドを出たのだった。
血を拭いて額を手当てした後、教会に来ていた。
「なんか、日本にいたころは神とか信じてなかったのになあ」
あちらでは神はいるかもしれないだけで、人によるが少なくとも自分には縋るほどのものではなかった。
だがこちらでは異世界人にスキルを与える、推定神と思しき存在がいるのは確かだ。
異世界で拠り所もなく、お祈りもしておきたくなるというもの。
扉を潜れば、他にも数人ほど座って祈っている人の後ろ姿があった。
今回は俺もそれに倣って、こんどは手近な席に座って祈る。
「元の世界に戻れますように」
両手を合わせて祈り、席を立つ。
そうして教会を出る際、暗がりからシスターがにこりと微笑んでいたのが見えた。
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