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#12 街の魔法使い

「はい。これで素材は全部だね」


「うん。助かったよ」


 店で頼んだ素材が詰まった荷車をチェックし、漏れがないことを確認して、店主に代金を支払う。


「代金はしっかり頂いたよ。まいど!」


「それじゃ足りなくなったらまた来るね」


 挨拶のあと、意気揚々と魔法店の中に戻っていく店主を見送り、荷車に向き直る。

 重いからこれだけは嫌なんだよね。


「ストレングス」


 パワー強化の魔法を使って、手を握って深呼吸をする。

 そう、都度素材を買いに行くのが嫌だから、魔法実験の素材は一度に買っているのだが、それが災いして素材を切らす度に、こうして超重い荷車を家まで運ばなければならないのだ。

 魔法を使えればいいのだが、生憎魔力が足りずに素材を運ぶのには不向きで、こうして原始的な方法に頼っているのだ。

 中に入って、取っ手を持ち上げて、力の限り引いていく。


「ふんぬっ! ぬぬぬぬぬぬっ」


 そうしてゆっくりとだが動き始めるニ輪の荷車。

 鍛えていない女の体では、ゆっくりと動かすのが精いっぱいで、これを休憩を挟みながら、数時間ほどかけて運ぶのだ。


「あっ、はあっ。もうほんっと……だれか、助けてほんと」


 周囲からは、またやってるよという知り合いの生暖かい視線や、他所から来た者であろう奇異の視線を感じる。

 まあ仕方ない、いい歳した女が顔真っ赤にして荷車と格闘しているのだ。

 多少は人の目を引いてしまうというもの。

 しかしその日は違うことがあった。


「大変そうだね、一緒に引いてあげよう」


 いつからそこにいたのか、全身茶色にフードを被って顔の見えない男が横に立っていた。

 誰だこの人。


「え、いや。いい。遠慮しとく」


「誰か助けてって言ってなかった?」


「いや、それは言葉の綾で……」


 だって、今までずっとやってきて、この姿を見て助けてと言っても、反応する人なんていなかったし、まさか誰か来るとか……。


「大丈夫。後になって金銭を要求したりとかしないから」


「でもこれ重いよ?」


「大丈夫、二人なら幾分かマシでしょ」


 そう言いつつ、隣に入ってくる男。

 まあ対価を要求しないなら、この際誰でもいいか。

 警戒心を助けてほしさが勝った瞬間だった。


「せーのでいくよ」


「了解」


「せーのっ」


 今度は二人で並んで荷車を引く。

 確かに一人の時より進んでいる気はするが、それは微々たるものでしかなさそうな……。

 隣を見れば、必死に力を入れている男。

 フードから見える口元は歯を食いしばっており、全力を出しているのが窺える。

 助かるのは事実だが、力自慢でもない限りこんなものか。


「ぐぬぬぬぬ……。これを一人で運んでたのか!?」


「そうだよ……。頼れる人もいないし、魔法のバフだけで数時間かけて運んでるのよ」


「正気とは思えないなっ……」


 お互い全力で荷車を引く、とにかく進んだ距離のことは考えないように、人にぶつからないようにだけ注意しつつ、その歩みを進める。

 そんな中フードの男が口を開く。


「冒険者に依頼は出さないのかっ……。あいつらならレベルで強化されてる……こんな苦労せず運んでくれるだろうっ……」


「高いんだよっ……これだとC級までは話にならないだろうし、B以上となると依頼料が高いっ……」


「これ運ぶだけでもか、外に命がけでモンスター駆除しに行くより遥かに安全そうだが……」


「それはっ、モンスターの素材とかが手に入る前提で依頼料をやってる……。そういうとこがほとんどだからっ……。こういう雑務とかはそれより高くなることもあるっ」


 ちなみに私は一度これを依頼して、冒険者をひどい目に遭わせたと噂になり、依頼料を高くしないといけなくなった過去がある。

 なんで運ぶだけなのにこんな目に……。


「それで……おにーさんはなんで、こんな苦行でしかないお手伝いしてるのっ……?」


「詳しくは話せないが、善行を積みたいというのがひとつ……。あと最近は、時間があればトレーニングもしててね……これがいいトレーニングになるんじゃないかと、閃いたんだ」


「善行ねえ……。聖職者とかそんなとこかな、深追いはしないけどもっ」


「実際はトレーニング扱いするにはっ、かなり早かったようだけども……」


 そんなことを話しながら、荷車を引く。

 そこまでスムーズにならなくとも、話相手がいるというだけで、少しは楽になるという収穫はあった。

 気を紛らわすのにちょうどいい。

 そして最初は効果が薄いと思っていたが、気づけば半分ほどの時間で、家までたどり着いていた。

 お互いに汗を拭って、健闘を称え合う。


「ふうっ。すごい助かったよ。ありがと」


「気にしなくていい」


「いや、私は気にする。魔法のことで何かあったらいつでも訪ねて来てよ。あなたなら歓迎するから」


「ではその時は、遠慮なく頼らせてもらうとしよう」


 そう言って立ち去ろうとする彼を呼び止める。


「待って、あなたの名前は?」


「名乗るほどの者ではないが、またいずれ会おう」


 そう言い残して、今度こそ歩き去ってしまった。

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