今夜の見回り〈ハチワレ〉
物語の時期は『欲望と身近な対象〈サイ〉』と同時進行です。
今夜も僕は街を見回りだ。
ベリーキュートな僕のリアルアバター『ハチワレ』で。
白黒のハチワレの子猫は、僕の代わりに夜の廃墟を歩く。
二つの目に仕込んだ暗視カメラは、僕らが開発した瞬間特殊画像補正で、太陽光の下の撮影に近く、カラーで見やすい。
音声レコーダーも人の声拾うモードに特化させてる。動きもなめらか。とてもニセモノ子猫だなんて思えないよ。
ただ、持ったら重たいし、コアは硬いからね。バレる。今んとこ大丈夫だけど。
本物の野良猫がたくさん住んでるから、紛れてる。
僕のハチワレならミディカンの警邏兵に見られても大丈夫だ。
‥‥って言っても追いかけられたことあるけどね。
すわ、ロボットだってバレたのかと思って焦ったけど、やつらの中には街中のネコやハトを狩って食べちゃう人もいるんだよな。うーん、文化の違いだねぇ‥‥
───あっ!
今『PURE VENOM』ってスペシャルキーワードを誰かが言った声が聞こえたから、僕の可愛い分身は反応した。
ハチワレは地下街B1入口偵察中に、若い男と女の声をキャッチした模様!
───どれどれ?
ガレキの穴からそっと覗くと、若い男女が向かい合って立っていた。
横には自転車が2台止まってる。
こんな時間にこんなところにいるのは、ミディカン兵の見回りか、ヤバいヤツか、ただのバカか、訳ありの逃亡者って相場は決まってる。
このシチュエーションと服装からして、奴隷として捕らえられていた男と、このきれいなおねーさんはその恋人かな?
もしかして、愛の逃避行ってヤツ? そんなことに命を懸けて奴隷宿舎から脱出して来たのなら、スゴい情熱だよね。恋愛中は脳が異常になってるらしいから、大胆な行動になるんだね。僕はまだそういうの知らんけど。
ターゲットに向かいつつ、僕は拾った会話を10秒前テロップモードにしてモニターに映し出す。
男女のライブ映像が、10秒前の会話のテロップと被って僕のパソコン画面に流れるようになった。
『PURE VENOMまでどれくらいあんのかな? 見つかったとしても、俺らを仲間に入れてくれるかなんてわからないよな‥‥‥』
『そうね。イスターン人の『希望の彗星』なんてキャッチコピーまであるし、イスターン人だってわかってもらえれば助けてくれるんじゃない? 私たちはイスターン人が収容されてる奴隷宿舎の多少の内部情報だって持っているし、追加の弾は無いけど、このショットガンだって献上出来るわ』
───この人たち! 僕らの仲間になりたいの!? すぐにお父さんに知らせなきゃ!
お父さん‥‥じゃなくて、『マリス総統』は、若い男女ならきっと喜ぶ。
その前にもうちょっとデータを集めなきゃ。
これだけじゃ仲間には入れらんないだろうし。
会話から推測すると、奴隷宿舎から逃げて来た模様。
どうやら、このおねーさん、見張りのミディカン兵から銃を奪うほどの実力はあるらしい。すごーい! こんなに細いのに。
───もっと近づいて、様子を窺ってみるよ。
この姿なら、見られたって怪しまれることはないもんね!
見てよ、この愛らしい僕のリアルなアバター。
にゃーん、にゃーん
ヤバい! 僕がかわいすぎてこの女の人に抱っこされそうな勢い!
「触んな! ノラだし、どんなウイルスや細菌に汚染されてっかわかんないだろ! 俺たち今病気になったら、それは棺桶に片足突っ込んだってことだぜ?」
男の人の方が止めてくれて助かった。
───はぁ~‥‥ビクッたー‥‥‥‥
人間に近づき過ぎるのはやはり危険だな。
───って!!
今度はいきなりラブシーンが始まった!!!
どっ、どうしよう‥‥‥えっと‥‥‥こういうのダメだって、見たら。
あっ、でも、僕の将来のリアルな参考資料になるし‥‥‥これも人間関係構築のためのテクをゲットするチャンスと言えるし。ある種のスタディ?
うん、そういうこと。
‥‥‥うわぁ‥‥‥やっば‥‥‥ワクワク‥‥‥
大人って密かにこんなことしてるんだ‥‥‥ドキドキ‥‥
‥‥って、なんだろ? 不意に終了して男の人が頭を直角に下げて謝ってる。女の人は怒ってるみたい。
どういうことか僕には不明。
このお兄さんのキスが下手くそで、おねーさんに気に入られなかったのかもしれないね。どうしよう。難しいんだね。僕は将来不安だよ‥‥‥
と、とにかく、僕は急いでお父さん‥‥じゃなかった、マリス総統にこのお兄さんとおねーさんのことを伝えよう。
ちょっと待っててね。
***
やった! お父さんは、アクトテストを仕掛けて観察して、幹部の推薦を受けられれば検討してくれるって言った! よーし、すぐに試験官になってくれる幹部をつかまえなきゃ!
幹部たちに緊急一斉メール。誰か僕に応えてよ。
僕らの資源は少ないから、仲間は多ければいいってものじゃない。役に立たない人は、申し訳ないけど入れらんない。僕らの、『侵略者と国賊を排除し、国土を取り戻す』という壮大な計画の邪魔になるから。
──あ、ジンジャーさんから反応だ! 早速、画面共有。見ててね。
あれ? お兄さんの方がいなくなった。まあ、いいや。僕としてはこのおねーさんの方が来てくれれば。
にゃーご、にゃーご‥‥‥
───こっちに来て! おねーさん! まずは地下廃墟での簡単なテスト。
この程度の空間にびびって入れないとか、入っても探索すらしないで逃げ出すなら、『PURE VENOM』には一歩も近づけない。
あ、お兄さんも戻って来たんだ! 若い男の人はお父さんが欲しがってるし、二人ともがんばって!
僕は先ほどうっかり覗き見してしまった失礼をお詫びしようと思って、非常灯をうっすら点灯サービスしておいたよ。
──この人たちを組織に迎えられるかな?
噂では僕らの本拠地はもっと西の廃墟ってことになっているけど、それはフェイクだ。そんな遠くからじゃ、敵の足元はすくえない。
僕らの基地は、実はこの近くに存在してる。
地下宮殿なんだ。
戦前に、豪雨の時の水を一時貯水するための地下空間という名目で作られた、巨大な箱物。
それは一回も使われることはなく使用目的は果たされぬまま、今は僕たちのホームとなった。
僕たちはそこを密かにそこを占拠して改造して仲間と暮らしてる。
食料、医療品、生活用品の備蓄も同志が協力して集めてある。
これらは戦争が始まる数年前から着々と準備してた。この戦争は、時期はともかく誰もが予期していた事態だからね。
打ち捨てられてた、荒れ地とか、山あいの太陽光発電パネル施設を修復して、電気を作り、地下でまだ生きてたケーブルに繋いでここまで送電してる。
何ヵ所かから送電されてるけれど、天気に左右されるから安定とは言えない。電力は機械類へが優先だし、人間はわりと寒さは我慢だね。けど、地下だから、夏は涼しいよ。
ハチワレが送ってくれるモニター画像。
お兄さんとおねーさんの調子はまずまず。
───あれあれ? 虫三昧もクリアして、今のとこ順調だったのに。
どうしたんだろ? 二人、なんか深刻な顔‥‥‥
またケンカ?
ちょっと離れてるから声は拾えてなかった。もう少し近くへ行こうかな。
───あ、どこに行くの? おねーさん待って!!
いきなり1人で奥へ走って行く!
僕は足音も無く追跡する。
お兄さんも早く追ってよ! はぐれちゃうよ!
───僕、まさかこの直後にミディカン兵がB2まで来るなんて、思いもしなかったんだ。
夜の警邏が、わざわざ地下にまで来るなんて、今まで無かったから。
ハッピーエンドがお好きな方は次回最終話になります。1話残しますが、特に問題なく終われると思います。
後、残り2話。今回は最初から胸くそなストーリーを書こうと決めてたので、最後もバッド。




