逃亡者救出劇〈ハチワレ〉
この二人、地下廃墟ではぐれてしまった。
仲間割れはテストでは、マイナス要素だ。
僕はこれ見よがしにこの試験に介入することは出来ないよ。
これは彼らの素の行動を知るテストだから。
どうしよう‥‥‥
お兄さん、おねーさんを探してどっちに行けばいいか迷ってる。ここ、めちゃ広いからね。崩れてるがゆえに先が見えにくいし。
早く見つけて仲直りしてよ!
おーい、おねーさんはこっちだよー。そこの改札を抜けて地下鉄ホームに下りたんだ。
小さな声で『にゃーん』と一声だけ鳴いてみた。
この画面を今共有してるのは、幹部のジンジャーさん。彼に合格を貰えたら、最終的にお父さん‥‥じゃなくって、『マリス総統』が判断する。
ジンジャーさんに今の助太刀はバレてないよね? まあ、ジンジャーさんなら多目にみてくれるさ。
なぜなら────
ジンジャーさんにはエイルさんって言う弟がいるそうなんだけど、戦争で行方知れずになってるんだって。
だけど、目星ついてて、エイルさんはどこかの奴隷宿舎に収容されてると見てる。はやいとこ弟を捜し出して回収したい、といつも嘆いてる。
───僕らの最終計画実行の前に。
ミディカン中枢は、独立させたネットワークシステムを組んでいるから、内部情報を探るのには難航してる。
ジンジャーさんは独自に救出のためのテロを計画してるみたいだけど、いくつもある奴隷宿舎のどこにエイルさんがいるのか不明だそうで。
だから、このサイという奴隷の男には内心期待して接触したがってると思う。だから入団希望の奴隷だって聞いて、忙しいのに自ら試験官を買って出たんだよね?
──やった! 僕の鳴き声に反応してくれたのかも。お兄さんこっちに来てくれた! 足もと、気をつけてね。階段使って。そのエスカレーターに乗ったら崩壊して転落するよ。
お兄さん、トンネル内の線路が川になってるから驚いてる。だよね。僕だって最初は驚いた。
もともとこの地は、地下水が豊富で堀割の町だったらしいからね。治水のポンプが止まってしまったんだから、仕方がないよ。
───アッ!!
嘘だろ? あいつら、いつの間に侵入してたんだ!!
向こう側のホームにショットガンを持った二人組がいる!!
なんて不運なんだ! 夜にこんな地下に降りてまで警邏するミディカン兵なんていないのに。何でだ?
この二人を追って? なぜ、ここがわかったんだろう?
このままじゃ、お兄さんおねーさんが!!
これでも僕は黙って見てなきゃダメなの? ううん、仲間に引き入れるかどうかなんてもう関係ないよ。捕まったら殺されちゃうかもなのに、見過ごすわけにはいかないよ!
だけど、僕はただの偵察ロボット。武力はないニャ!
───どうしよう‥‥‥
僕は、ミディカン兵が潜むこの男女とは反対側ホームへ、足音も立てずにガレキをものともせずに走る。
このホームの壁の下に空いてるいくつもの穴の奥はネズミの巣なんだよ。
小さな僕なら潜り込める。
よーし、どぶネズミどもを起こして夜中のパーティーだ!
巣穴を次々襲撃して、ネズミどもをパニックにしてやれ! ネズミの集団をけしかけてミディカン兵の気をそらそう。
バーーーン!!
鼓膜に響く音。
発砲音が響いた! ほぼ同時にコンクリートに当たった音がした。
待ってよ! 展開早すぎないッ? 音量下げなきゃ鼓膜が痛い。
振り向くと!
ヤバい! 銃口が、おねーさんを狙ってる。
バーーーン!
おねーさんの肩から血と肉片の飛沫が飛んだ。
止まったまま上半身がグラグラしてる。ヤバい、水路に落ちる!!
兵士はとどめの3発目、狙いを定めてる!! お兄さん、この人をとめて!!
バーーーン!
お兄さんが反撃して一発撃ってから、暗い流れに落ちる寸前のおねーさんに手を伸ばした。
「ミキーーーーーーーッ!」
間に合わない!!
おねーさんは水路に落ちて、バッサーンって水しぶきが上がった。
バーーーン!
今度はお兄さんの脚から血しぶきが飛んだ。
お兄さんは水に飛び込んだ。けど、水の底はほの暗いし、表面は緩やかでも下の方の流は速いんだ。地下水は驚くほど冷たいはず。
すぐに二人とも見えなくなった。
早く助けなきゃ二人とも死んじゃうよ!!!
僕があわあわしてる間に、ジンジャーさんが動いてた!
次の駅からこちらに向かって川を遡って彼らを救出できるって。
救助部隊を緊急要請してくれた。
なら、僕はこのミディカン兵たちを足止めして、彼らの発信も阻止しなきゃね。今の出来事が外部に漏れるのを遅らせないと二人の救出に支障をきたす。
先ほどの発砲音で、計らずもネズミたちはビックリしてみんな起きたようだ。
キーキー鳴きながら巣から出て、落ち着き無くチョロチョロ動き出した。
ここで僕があと一押しして追い立てたらどうなると思う? あいつら、同方向へ一斉に移動しがちなんだよね。それにここはホームだから、一直線に進む。そう、ミディカン兵の方へ。
ネズミが動けば辺りに潜んでいるたくさんのGが慌てて逃げ出すだろう。そして夜行性の僕の仲間のネコたちはネズミを追って‥‥‥
風が吹けば桶屋は儲かるのさ。
───僕が風を起こす!
にゃーご、にゃーご、にゃーご!! にゃーご、にゃーご、にゃーご!!
みんな集まれ~!! ご馳走を用意したよー!! いっそげー!!
ここは食物連鎖の阿鼻叫喚、パーティー会場になる。
二人のミディカン兵がぶつぶつ言ってる。
「ちっ、何だか野良猫がうっさいな‥‥。で、どうする? 流されちまったけど。これじゃ誰だったか確認出来ない。今夜SR13宿舎から逃げ出した奴隷男女各1名だって間違いはないはずだけど」
「荷物が残されてるはずだから、探して回収すればわかる」
「どうやらあいつら完全流されちまったみたいだな‥‥全く見えない。男の方はすぐ使うから確保しろって指令来てたけど、しくったな‥‥‥」
「仕方ないって。自ら飛び込んだんだ。俺らのせいじゃない。けど、そんな言い訳通じないよな。ったくさ、急に出動命令で何かと思ったら奴隷の脱走とか、マジくそ迷惑な野郎だな。あいつら、死んで当然だぜ!」
「俺ら、減点されるよな‥‥。っち‥‥‥とにかく状況を連絡しなければ‥‥」
───敵さん、用意はいいかい?
IP無線機を取り出したミディカン兵の袖に一匹のGがふっと止まった。
「ちっ! G野郎が、ウザッ」
払い落として踏みつぶす。白い体液がにゅっとはみ出た。
「‥‥ん? また来たぞ、おい?」
「うわっ、ホントだ。ウッゼ! それより早く本部に連絡を‥‥‥あ? ウワーーーーーッッ!!」
「ギャーーーッッッ!! ナニコレっ!!」
Gはね、切羽詰まると飛ぶし、壁から飛び降りてもどこに止まればいいか考えてないから、ここで立ってる人間は格好の着地目標だよ。ついでに噛みつく。地味に痛いんだよ、これが。
ふっふっふ‥‥‥
あっという間に、ここは人間の領域じゃ無くなったね。
天井でぶら下がってたコウモリさんたちも緊急参戦!
足下と壁はパニックではい回るG。Gを追い始めるネズミと、ネコから逃げ回るネズミ。目を輝かせてる本領発揮の夜のネコたち。
ミディカン兵は、Gの着地目標とされるだけじゃ済まないよ。
逃げ場を求めてミディカン兵の足元からタッタカ背中をよじ登るネズミ。その背中に飛びかかるネコ。
うわぁ‥‥‥
生き物の躍動感半端ない‥‥‥生命の乱舞だね‥‥‥絵面はあんま美しいとは、言えないけど‥‥‥
僕はこの隙にミディカン兵の無線機を奪って水に落とす。
僕の業務、遂行完了!
これでおねーさんたち救助までの時間は稼げるね。生きてるといいけど。
僕たちは出来るだけのことはしてあげた。後は運命に任せるしかない。
──じゃ、みんな楽しんでね。僕は、これにて退散だ!
あと僕はお兄さんとおねーさんの荷物と銃の回収を要請っと。リュック2個とレミントン1丁だったよね。位置は‥‥‥カチャカチャ‥‥‥Enter 、小指でポンっと‥‥‥送信、カチッ‥‥よし、OK。
終わったーー!
あー、今夜の見回りは格別だったな。
***
ジンジャーさんの素早い救出作戦のお陰で、ミキさんとサイさんを回収する事が出来た。
サイさんは朦朧としてたけど、ミキさんは気丈にしてて、サイさんを仰向けで抱えて浮いて流れて来たとかで、すぐに発見された。
お父さ‥‥じゃなくて、マリス総統は、このミキさんをスッゴく気に入ってさ。このサバイバルを乗り切る能力が素晴らしいって。
サイさんはマリス総統からはいまいち評価だった。だけど、ジンジャーさんは彼をやたら推した。
ということで、二人とも晴れて『PURE VENOM』の仲間になった。
よって、我らの工作員により、二人の死は身代わりの遺体を使って偽装された。
どうせ奴隷が死んだところで、ミディカンはいちいちDNA鑑定なんてしないよ。状況証拠だけで十分だから。
死体なんて、簡単に手に入る。
今は物騒な世の中になってるからね。死人も多いんだ。引き取りのない焼却待ちの死体が闇で流されてる。嫌な世の中だよなー。
ジンジャーさんはサイさんにはすごく感謝してる。
なんたって、弟エイルさんのこと知ってたんだから。同じ宿舎にいたんだって。お陰でエイルさんが派遣されてた工事現場も見当がついたし、宿舎内の情報も色々教えてくれたしね。
お陰で派手なテロ無しで、こっそりエイルさんを奪還出来た。
ついでになぜかエイルさんの年下のお友だちのリクっていう筋肉マンまでくっついて来た。
リクさんはサイさんの知り合いでもあって、二人ともまさかここで会うなんてってビックリしてた。
さてさて。
ミキさんとサイさんが地下でミディカン兵に襲われた理由は───
二人が乗ってきた自転車のサドルの下にはGPSが仕込まれていたらしいね。
あとでミキさんに聞いたらさ、GPSはベルの中だと思い込んでいて、ベルだけ外して置いて来たって。
甘いよね。いくら焦ってたってベル開いて確かめなきゃダメだってば。僕だったら必ずそうする。
まあ、傷も良くなったらここで訓練して頭も体も鍛えればいいさ。ここでは1人1人の役割は大きい。精鋭主義だから。
───そして、あれから季節は巡り、夏が過ぎ秋になった。
二人は傷もすっかり癒えて、それぞれ与えられた任務を果たしてる。
ミキさんはミディカン語文書翻訳兼看護師として、サイさんはエイルさん取材の広報発行の編集者兼、電気施設メンテナンス助手として。
そうだ! サイさんはついにミキさんにプロポーズしたよ。ミキさんの答えは速攻、YES!
ウエディングドレスもブーケもないけれど、幸せそうに微笑むミキさんは、ますます美しい。
交わされた誓いの口づけ。マリス総統が二人の誓いの証人となった。
こうやって人は未来へ歩いて行くだね。こんな苦難の時代でも────
***
僕たちには大切な作戦が控えている。
僕たち、世間ではテロリスト集団と呼ばれているレジスタンス組織『PURE VENOM』
侵略された我が国を取り戻すため、地下に潜みて爪を研ぐ────
終わり(仮)
ありがとうございました m(_ _)m ハッピーエンド編はここにて終わりです。
次、最終1話。




