相変わらずの奴隷宿舎〈リク〉
相変わらずのニワトリのエサのような夕食だ。カサカサのパンにコールスローサラダと薄いハム。バナナ1本。牛乳。
空いてる席を探していると、夕食をトレーに乗せた同じ奴隷の男が話しかけて来た。
このエイルという男は大変おしゃべり好きで、いつも誰かを捕まえてはくっちゃべっている。
壁に向かって設置されてる、お一人様用の細長いテーブルの席を見つけて腰かけると、エイルもついて来て隣に座った。
「なあ、リク、聞いたかよ? 見つかったらしいぜ? 脱走したサイってヤツと看護師のミキ。あいつらがデキてたなんてなー、この俺が気がつかんかったなー。悔しいよなー、ミキちゃんかわいかったし」
サイが消えてからひと月経った。
あの日のこと覚えてる。サイの夕食、俺がもらったんだよな‥‥‥
まさか、あれから事を起こしてたなんて。
「‥‥‥死んだらおしまいだ」
「なーんだ。知ってたのか。愛の逃避行だったのかなあ? お前、サイってやつとわりと仲良かったよな?」
「ああ、そうだな。あの日、ちょっと顔色悪かったのは知ってたけど。まさか脱走しようとしてたなんて思わなかった」
「アララギ川河川敷に引っ掛かってるの、相次いで見つかったらしい。かなりひどい状態だったらしいな。荷物と衣類と、ゲートで奪って所持してた銃のナンバーで判明したとか。余りの臭いに、墓も弔いも無く現場で埋め立て処分されたらしいぜ」
「まあ聞いてるけど‥‥‥」
「なんならウェイ少佐の事件もあいつらの仕業って噂も知ってる?」
「‥‥‥だからってそれは事実かどうかわかんないし、あんま決めつけて言わない方が‥‥‥」
エイルは急に真顔で小声に変わった。
「‥‥‥‥そう言っとかないと‥‥毒盛られるぜ? リク」
へーえ‥‥‥何か裏があるんだ? 何か知ってるらしい。
エイルは戦前はフリーライターだったとか。
仕事柄からかな? このコミュ力駆使して、こうやってさりげなく情報の断片を集めてるんだよな。
パズルは完成してんだ?
じゃあほんとは他に犯人がいるんだね。なら、お偉さん同士の事件簿だったってわけね。少佐殺しはこの宿舎にいて、真相は暴かれてない。くわばらくわばら。
こういうのって、いつの世も変わんないね。
そう、俺らは長いものに巻かれてなきゃ生きられない立場。奴隷だから。
いつ、この労働から解放されるのかも見当がつかない‥‥‥
このまま奴隷として一生ここに縛られるのかもと思うと、意を決したサイとミキさんの度胸が羨ましい。
だからって死んでしまったら元も子もないんだけど。
「‥‥‥なあ、サイとミキさんって。今ごろは仲良く天国に行ってると思う?」
俺、マジで思うんだ。せめてあの世で幸せになっててくれって。もしくは小説みたいに転生してどっかでやり直し人生送っててくれよって。
エイルはハッと俺の方を向いて、食べようと手にしていたバナナをトレーの上に戻した。
俺の目をじーっと真顔で見つめて来た。
なんだか目を反らせない。エイルが聡明な人っぽく見える。
今まで、ただのおしゃべりでゴシップ好きな陽キャだと思ってたけど。
「‥‥‥正直言っていい? 行ってないと思う」
はぁ? コイツ‥‥‥
急に俺の肩に腕を回して、耳元でしゃらっとヒドいこと言うなよ。
「‥‥‥ひっでー言い方だな? 冷たくね?」
ったくさ、かつて同じようなニワトリ部屋に住み、同じ釜のニワトリエサ食ってた仲間じゃんか。
ほら、こういうやつ。
俺はコールスローサラダをガガッと口の中にかき込む。
あー、こんなもの全然食った感じがしねーよ。
パンを割ってハムを挟み、がぶっと食いつく。
お楽しみのバナナは最後に食べるようにとっておこう。
「‥‥‥そっか。なーんだ‥‥‥ま、いいや。わかった。‥‥‥リクってさ、マルチとか、投資詐欺に遭うタイプだよな? そういうボケーっとしたヤツは、スリとかヒッタクリとかにも気をつけろよッ。ごちそうさん。じゃあな!」
「痛ッ!」
エイルは俺の背中をバシッと叩いてから、トレーを下げてささっと去って行く。
なんだよエイルのやつ! 憎くまれ口叩いてから逃げるとは!
こちらも見ずに俺に左手をヒラヒラさせてる後ろ姿が、また憎たらしい。
「はあ? ここにいてどうやって詐欺に遭やいいんだよ? スリだのヒッタクリだのって、なんなら遭わせろよ、ったくよぉー」
───ん!? 俺のバナナが皮になってるッッッ!
エイルさんは海千山千ってことで。




