その47
誤字報告いつもありがとうございます。
「こちらでございます、すぐに料理をお持ちしますね」
「はい、お願いします」
案内された個室、4人掛けのテーブルが収まる程度の広さですが、さすがに1人で使うとなると広く感じます。ちょっと収まりが悪く、そわそわしながら料理を待ちます。
「お待たせしました」
給仕の方を引き連れて料理長さんが料理を運んできました。
「ありがとうございます。それで一つお願いがあるのですが、聞いてはいただけないでしょうか?」
「お願いですか? 出来る事であればいいのですが」
「あのですね、ドリアードのりんごを使ってアップルパイを作って頂ければと思いまして」
「ほほぅ! 確かにあのりんごは美味しかったですよね! もちろん引き受けさせてもらいます!」
「本当ですか? それでしたらりんごを10個置いていきますので、私の分を1人前、残りは皆さんで召し上がってください」
「ぜひやらせていただきます!」
どうやら交渉は成立のようですね。やはり美味しいは正義なのです!
やはりプロの料理人が作ると素材の良さが光りますね、本当に美味しいです! この宿にして良かったと本気で思いました。
先ほどお願いしたアップルパイは、生地を練り込んだりと時間がかかるはずなので、恐らく明日以降になると思います。完成が待ち遠しいですね!
お風呂も夕食も済みましたし、明日に備えて休むとしましょう。
魔物を狩るためのモチベーションはすっかり回復しましたし、ドリアードのりんごをメインに狩り倒しましょう。昼食はネギマで良いですよね、美味しいですし。
ベッドに潜り込み、目を閉じたのだった。
─迷宮都市ボンボン、冒険者ギルド─
「さて、今回仕入れたブラックコカトリスの肉10個… どう売り捌くかを考えましょう!」
夕刻を過ぎてギルドの業務が終了し、冒険者の出入りが無くなった所でサブマスターであるテネシーは声を張り上げた。通常のコカトリスであれば、価格も決まっているためすぐに捌けるのだが、ブラックコカトリスについては世間に認知されていないのだ。
実際に食べてみたので味については文句は無いが、いかに高値で売るかが勝負どころと言った感じだ。今後流通するようになってから困らないように、先手を打っておかないといけないからだ。
「一塊を最低でも金貨4枚欲しい所ね、この町の財政では買い取ってくれる所は無いでしょうから、町の外に出るしかないわね」
集められたギルド職員は黙って説明を聞いていたのだが、その中の1人が声をあげた。
「金貨4枚で売れるほどの味なんでしょうか?」
「そうよ、コカトリスの上位種というのは伊達ではないわ。そうね… 1個をギルドで買い取った事にして、一度全員で食べてみるといいわ。そうでなければ売り込みも出来ないでしょうから」
「「「うおおおお!」」」
ギルド内に歓声が上がった。通常のコカトリスですら希少な高級食材なのに、その上位種を味見できるとなれば当然なのだろう。
「それじゃあ調理の方は… どうしようかしら」
肉そのものの味を知るためなのだから、下手に色々と調味料をつける訳にはいかない。やはり普通であり、鉄板である塩焼きが良いだろう。
一部の受付を残し、ギルド内に併設してある訓練場へと移動する。そこでブラックコカトリスの肉を一口大に切り分け、塩をまぶしながら揉んでいく。
別の職員が火をおこし、いつでも焼けるよう準備を進め、網を置く。
ジュワー
肉を網に置いた直後に訪れる殺人級の香り、口を開けて見つめる者、ごくりと唾を飲み込む者とさまざまだが、全員が期待の眼差しを向けている事だけは確かだった。
「どう? 匂いだけでもヤバいでしょう?」
網の上で焼かれている肉から目を逸らさずに、全員が頷く。肉から立ち昇る煙と共に、訓練場いっぱいに広がるブラックコカトリスの焼ける匂い。冒険者がいる中でこんなことをすれば、恐らく暴動が起こるのではないかとさえ思ってしまう良い匂い。
「そ、そろそろいいんじゃないでしょうか?」
「サブマス、焼く係を変わりましょうか?」
「ちょっと待ちなさいって、ちゃんと全員に試食させてあげるから」
段々職員たちの目の色が変わってしまった感じがする、これ以上引っ張ると私が危険かも?
「よし、ちょっと早い気もするけど試食を始めよう! それじゃあ順番に並んでね」
ビシっと軍隊のように整列する職員たち13名、早く焼き上がるように小さく切り分けたのが良かったようで、ちゃんと火が通っているようだ。
1人頭2個の肉を皿に乗せて配っていく。
「うっ…」
「うまーい! なんだこれ!」
直後に大歓声が響き渡り、ブラックコカトリスの味を噛み締めている。
熱いうちにと受付に残っている2人にも届けてあげないといけない、他の職員たちが浸っている内に確保し、受付へと移動する。
「はいこれ、味見の分ね」
「ありがとうございます! なんか大歓声が聞こえてきたから待ち遠しかったです!」
受付の2人も熱々の肉を口の中に放り込んだ。
「ん~~~~っ」
「おいしっ なにこれ美味しい!」
ふと気づくと、食べ終わっていた職員たちが受付に戻ってきていた。火の始末はしたんだろうか… 後で確認しなきゃね。
「どう? 金貨4枚… 何か不満でもある?」
「「「ありません!」」」
「でしょう? さぁ販路を考えるわよ! 言っておくけど金貨4枚って言うのは最低価格だからね?」
こうして職員達は、この町にいる商人や商家、近隣の町の情報を集め出したのだった。
─ボンボン高級宿─
いつもの通り夜明けとともに目を覚まし、朝の支度を始める。
「今日も良い朝ですね、天気も良さそうです。まぁ迷宮に入るので関係は無いのですが」
ベッドと全身にクリーンの魔法をかけ、いつもの冒険者服に着替える。あまり目立たないように地味な色合いの服だけど、丈夫な布で作ってあるため綻んだりしないので重宝している。
テクテクと食堂に向かい朝食をいただく。
「アリシア様おはようございます。お弁当の用意も済んでいますので」
「まぁ、ありがとうございます。 美味しいので楽しみですよ」
「アップルパイなのですが、今日の夕食にはお出しできると思います」
「本当ですか? それは夕食も楽しみですね」
ふっふっふ、今夜のデザートはアップルパイですよ! 非常に楽しみですね。今日は頑張って早めに戻って来ることにしましょう、アップルパイの邪魔をする者がいたら… ふふっ、お仕置きしちゃうかもしれませんね。




