その40
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─ショコラ王国王城、SIDE:タルト伯爵─
開かれた扉からは、ショコラ王国の宰相と騎士団長が続き、国王陛下が入ってきた。 最後に陛下の後を追うように20名ほどの騎士が入って来て扉は閉められた。
伯爵家の者は頭を垂れているので、視界の片隅に写る足下と、鎧を着ている騎士達が出す金属音しか得られる情報は無い。
「面を上げよ」
不機嫌そうな陛下の声が響き、タルト家の面々は顔を上げた。騎士団長が持ってきたと思われる椅子に腰を掛ける陛下、なぜか睨みつけるように見てくる宰相と騎士団長。
「緊急の召集との事で参上いたしました、一体どのような要件でございましょう?」
「どのような要件だと? お前は本気でそのような事を抜かすのか?」
「は?」
陛下の口からは、怒気に溢れた言葉だった。
「貴様の息子、そこにいるストローだったか。そ奴が何をしたのか聞いてはいないのか?」
陛下の言葉に驚きつつも息子であるストローを見る。ストローも何の事を言われているか分かっていない様子だ。
「ストローよ、貴様は異世界より来たりて我が国を救ってくれた使徒殿に対し、散々無礼を働いたうえで、タルト家として宣戦布告をしたらしいな! それとガナシュ家の娘にも。 レクタングル辺境伯も貴様らを討つために戦の準備をしておるわ」
「は? それは我がタルト家としての意見ではありません! 何卒詳しく調査されるようお願いいたします」
「ふん、調査も何も… ビターの代官であるガナシュ家とレクタングル辺境伯が連名で報告しに来たぞ。ストローよ、お前は使徒殿本人から直接叱咤を受けた事すら忘れたのか?」
唖然として息子の方を見る、もしこれが本当であれば… 国家どころか世界の恩人に対しての宣戦布告などしたのであれば、まさに世界が敵になってしまう。
「他にも証人はおるのだ、貴様らの馬鹿さ加減についていけなくなった従者達からも報告が上がっておる! 今更調査も何も無いわ! タルト家は本日をもって取り潰しとする! タルト家の領地や財産は全て没収の上で国外追放とする! 騎士達よ、この者らを引っ立てて、大罪人として王都を引き回してから国境の外に放り出すのだ!」
「陛下!お待ちくd オブッ!」
詰め寄った騎士に殴られ、それ以上口を開くことは出来なかった。取り押さえられて縛られていく… 視界に写った家族達も同様に扱われている、ストローめ… よりにもよって使徒に手を出していたのか。
その後、鉄格子を組まれた荷車に乗せられて城下町の中を晒し者にされ、騎士が罪状を読み上げるたびに民どもが石を投げつけてきた。
「ぐっ、ストロー…貴様のせいで」
「父上、俺は悪くないんです! 俺に口説かれているのに満足に反応しない使徒とミルフィが悪いんだ! アイツラのせいで俺は!」
色々と悪どい手を使い、ようやっと手に入れた伯爵の爵位。隠し鉱山で築き上げた財産で、他家からも一目置かれる地位を手に入れていたのに、全てコイツのせいで失ってしまうのか。
いや、まだだ。まだ終わってはおらん! 処刑というのならばもう終わりだが、国外追放であるならばまだ巻き返せるはずだ。 その為にはこのボンクラ息子をどうにかしてやらんといけないな…
組まれている鉄格子のおかげで、石を投げられても中まで入ってくる石は少ないのが幸いだ。儂の相棒として長年連れ添ってきた妻たちの目もまだ死んではおらんな。ストローはボンクラだが、剣の訓練をしているため、俺が襲い掛かっても無傷で殺す事は難しいだろう。正妻はストローを溺愛しているから協力を得る事は難しいだろうが、第2夫人であれば喜んで手を貸してくるだろう。
まずは、無傷で王都を、この国を出なければ話にならん。口惜しいが静かに機会を待つ事にしようか…
こうして王都内を晒された後、西側の隣国、ワーショク王国に向けて馬車は街道を走り出したのだった。 御者が2名、護衛をする騎士が… 騎乗する騎士が4名と、移動中の水や食事を積んだ馬車が1台。途中の町で補給をしながら隣国へと旅立った。
その経路にはボンボンの町があったりするのだが…
─迷宮都市ボンボン、高級宿─
「冒険者ギルドのテネシーだけど、アリシアさんに面会を頼むわ。取り次いでちょうだい」
「あの、アリシア様は先ほど浴場に行かれまして… お会いになるのは難しいと思います」
「え? またお風呂?」
「アリシア様はお風呂が好きなようで、泊まられる日は必ず入っていますね」
「そ、そう… ちなみにいつもはどのくらいの時間入っているの?」
「いつもは2時間ほどですかね」
「わかったわ、2時間後にまた来るから、私が来たという事だけ伝えてちょうだい」
入り口ロビーでそんなやり取りが行われていた事など全く知らず、湯船に身を沈めて溶け切っていた。
「はぁ~、このまま眠りたいですね。お風呂から上がったら、レシピを頂いて研究しないといけませんね。明日は迷宮産のお野菜につけて食べなければいけません、在庫を蓄えるために乱獲も」
お野菜の素焼きも、普通の野菜炒めも塩胡椒だけでは飽きてしまいますからね、新たな調味料が手に入るのは素直にうれしいです。元の世界に帰っても作れるような素材であれば尚良いですね。
のんびりのんびりとお風呂を楽しみ、ようやく満足して体を拭いて浴場を出た。おやつとして食べた物もだいぶ消化できたようで、これであれば夕食も普通にいただけますね。
元々太りにくい体質ですし、迷宮に入れば運動量も多いし魔力の消費量も激しいので、多少多く食べた所で太ったりしませんよ!
トコトコと廊下を歩いて食堂へと足を向ける、ここの料理長さんとはじっくり話がしたい所ですが、さすがにお仕事の邪魔をするのは悪いので我慢しましょう。 今日の所はレシピだけで…
「あ、アリシア様、先ほどギルドの方が来られたんですが」
「え?ギルドの方ですか?」
看板娘であろう受付のお姉さんが話しかけてきた。しかしギルドの行動の中々速いですね、出入り口にいた職員さんが連絡したのでしょうか。
「それで、6時頃にいらっしゃいまして、2時間後にまた来ると」
そう言われて時計を見ると、もうすぐ8時になります。なんて事でしょう、食事の時間が…
「そうですか、まぁ来たら教えてください、食堂にいますので」
「はい、承りました」
面倒事の予感を感じつつ、食堂に入っていくのでした。




