その39
誤字報告いつもありがとうございます。
1階層に戻って出入り口から外に出ると、いつもの職員さんと目が合った。
「お疲れ様です、今日は戻りですか?」
「ええ、宿に戻って休みます。それではまた」
軽く挨拶を済ませて宿へと急ぐ、あのソース… 秘伝とかじゃないと良いですね、秘伝であれば教えてもらえないかもしれませんから。
宿に着いた時点で時計を確認、5時を過ぎた所ですね。さすがに野菜バーベキューをやったおかげでお腹が空いていません、夕食はもう少し後ですね。それよりも…
「料理長さんはいらっしゃいますか? 少しばかりお話があるのですが」
「はい、少しお待ちください」
受付をしていた若い女性が奥へと消えていく、時間的に夕食の準備で忙しかったでしょうか… しかし抑えきれません!
「お帰りなさいませ、サンドイッチはいかがだったでしょう?」
「とても美味しかったです、ありがとうございました。忙しい時間なのでしょうが、少しばかりお願いがありまして…」
「…? なんでしょうか?」
「あのサンドイッチで使われていたソースなんですけど、アレのレシピを教えていただく事は出来ますか? もちろんその対価として、ブラックコカトリスのお肉を用意しています」
「ブラック… ですか? それは聞いた事が無いですね」
「迷宮の40階層以降で出現する、コカトリスの上位種です。ギルドには報告済みですので、近い内に情報が開示されると思います」
「ほほぅ! コカトリスの上位種なんですか!」
「ええ、私はすでに食べましたが、上位種と呼ぶにふさわしいお肉でした。一応試食という事で、少しばかりお分けしますので、ご自身で確かめてください」
「わかりました! あのソースはオリジナルなので、他者には公表しないという条件を付けてもらえるのならば、教えても構いません」
「ありがとうございます! では、報酬としてブラックコカトリスのお肉を2個置いていきます。これの値段はギルドマスターさんが今頃考えていると思うので、後日確認をした方が良いでしょう」
取引は大成功でした。料理長さんはレシピと製造方法を紙に書いてくれるという事で約束し、夕食は遅めでと伝えて部屋に上がりました。
「ふふふ、あの少ししょっぱいソースに製造過程で砂糖を入れて甘みを出せば、テリヤキソースのような味になると思います、今からとても楽しみですね。お昼にも入りましたが、お風呂は何度入ってもいいので、もう一度入ってきましょう」
部屋着に着替えて浴場に向かう、ここの高級宿はそれなりに宿泊客はいるのですが、どうも女性客は少ないみたいで鉢合わせをすることはありません。広いお風呂に1人でのんびり入れるのが大変素敵です。ゆっくりと堪能しましょう。
─冒険者ギルドボンボン支部─
「サブマス! アリシアさんが迷宮から戻ってきました」
「戻ったのね? それで、どっちの方向に行ったか分かる?」
「恐らく宿の方かと、なにやら機嫌は良さそうでした」
「わかったわ、ご苦労様」
迷宮の出入り口に常駐している職員からの報告に覚悟を決める、まだまだ案は纏めきれていないが、知らないうちに町から出ていったとなってはどうしようもなくなる。
「機嫌が良いみたいだから宿まで行ってくるわ、後はお願い」
「わかったが、意気込みすぎるなよ? 食いつきすぎると引かれるぞ?」
「大丈夫よ! なんだか燃えてきたわ!」
「燃えるのはいいが、こっちもまだまだ纏まっていないんだ。功を焦らずに約束だけ取ってくる感じで十分だからな?」
「わかってるわ」
ささっと身支度をして宿へと向かうサブマスターだった。
─ショコラ王国王都─
一方その頃、ショコラ王により呼び出しを喰らっていたタルト伯爵家の面々が王都に到着していた。メンバーは家族全員、当主と夫人、第2夫人、嫡男のストロー、次男に長女。第2夫人の子も2人揃っていて、合計8人に従者を引き連れての登城となった。
「しかし、一族全員で来いとは一体何用なのか… ストロー、お前まさかどこかの令嬢に何かしたのではないだろうな?」
「いえそんな」
「それに、ガナシュ家の娘とは見合いそのものが立ち消えになっているのだ。レクタングル辺境伯に何か不興を買った訳ではないだろうな」
「そ、それは… 確かに少しばかり強引に迫りましたが、俺に迫られて嫌がる令嬢などおりませんよ」
「だが、このタイミングで登城せよとなれば、他に思い当たる節が無いのだ。まぁ他の貴族家の陰謀かもしれんが、我が家に直接文句を言える家など少ないからな。ただの嫌がらせの可能性もあるか…」
城に入って待機するための部屋に案内される、この時点で従者達とは別れ、従者達はそのままタルト家の王都邸へと向かって行った。
案内人に通された部屋は、飾り気のない無骨な大部屋だった。部屋の片隅にソファーが2組置かれ、それを挟むようにテーブルがあるだけだった。
「なんとも質素な部屋に案内されたもんだ、やはりこれは他家からの嫌がらせなのかもしれぬな。陛下と謁見した時に報告しなければいかんな」
「全くです、我がタルト家に対してこの扱い… 許せるものではありません」
憤る当主に乗るように声をあげるストロー。しかしここは王城なので、あまり騒ぎ立てることは出来ない。
城に勤務している侍女が運んできたお茶を飲みながら、謁見の日程の報告が来るのを待つ。今日王都に着いたばかりなので、今頃陛下に連絡が入った頃だろう。これから調整して謁見の日程が決まるのだが、通常であれば、短くても2~3日、長ければ10日ほど待たなければいけないところだが、タルト家は成金貴族であるが地位もあるので、それ程待つ事にはならないだろう。
領地から馬車で4日の道のり、要所要所で宿を取って休んではいたものの、それでも疲れは出てくるものだ。謁見の前に少しでも体を休めておこうと、ソファーに体を預けた時に部屋に訪れた者がいた。
「タルト伯爵家の皆様、国王陛下が至急お話したい事があるとの事。ただいまこちらに向かわれておりますので、姿勢を正してお待ちください」
「む? 陛下がこちらに来られるというのか? 言っていただければいつでもお伺いするのだが」
「陛下が決められた事です」
「う、うむ、承知した」
王宮付きの侍女が扉の前に待機したのですぐに来られるのだろう。
「お前達、陛下に失礼の無いようにな」
先頭に当主、その後列に夫人と子供達が並び膝をついて国王陛下の到着を待つ。そしてノックの音が響き、侍女が扉を開けたのだった。




