その38
誤字報告いつもありがとうございます。
─SIDE:テネシー・ダニエル─
ギルドの仕事をそっちのけで案を練っている、1階層の不人気エリアにセーフゾーンを作るためのマップも書いた。私も夫も普通の農家育ちなので、家族を避難させるとしても大した人数にならない、2人合わせてせいぜい15人程だ。しかも、それぞれがまとまっているために手紙の数も2通で済む。
「1階層のコカトリス部屋のマップは書けた? ブラックと同じ部屋はダメよ?」
「わかっている、討伐の難易度が違うからな。しかし本当に新しい部屋が作れると思うか?」
「過去の記録には載っていないけど、そういった噂は結構あるのよ。ただ、最大の広さは決まっているらしいから、最悪1階層は半分くらい潰すつもりでいるわ」
ボンボンの迷宮の1階層はスライムがうろつくエリアだ。そのおかげか、この階層で狩りをする者は非常に少ないのだ。噂の通りであれば無駄に広いエリアを縮小し、コカトリスのエリアと家族を匿うためのセーフゾーンのために活用させてもらおう。
セーフゾーンは用が済んだらギルドの倉庫として使ったっていいからね、50階層のコアのある部屋のような仕掛けを使う事が出来れば、人間に対しての安全性も高まる。
都合良く利用しようとしているのは分かってる、だけどこのままじゃ迷宮都市ボンボンは寂れていくだけだ。この町を人の溢れる大きな都市にするにはコカトリスを狩りやすくするか、もしくはきちんと安定的に流通させるしか手は無いと思っている。
1階層に新たに作るコカトリスの部屋をギルドで独占して、肉だけ流通させても町は栄えると思うし、肉を取るために30階層を目指す冒険者が増えてくれれば尚良い。
「本来ならアンケートでも取って、不人気の階層を無くしたりできれば無駄が無くていいんだろうけど、それをやれば… 間違いなく干渉してくる貴族が出てくるわよね」
「それは間違いないな、コカトリスの利権ごと持っていかれて終わりだな」
しかし、私がコアの所有者になれば話は別だ。多少時間がかかっても自分で調査できるからだ、不人気階層での冒険者の動向を調査して、ただ素通りしていくようなら通路だけを残して他を変えたりとかできるだろう。
正直言って夢が膨らむ話だ、だからコアの事は諦められない。
しかし、一瞬とはいえブラックコカトリスを討伐する使徒アリシアを見たけど… はっきりいってアレは規格外も良い所だ。あんなのに勝てる人間など存在しないだろう、近づく事すらできないまま、あの時放っていた光の矢に撃ち殺されるだろう。
「ホント、使徒というのは人間なのかしらね」
「さぁな、本人に聞いてみるか?」
「止めておくわ、うっかり怒らせたら困るもの。敵に回すような言動はしない方がいいわ」
ホント、コアの権利… 譲ってくれないかしら。
─ボンボン迷宮、49階層─
じゅわぁ~
敵の出ない一本道のど真ん中で1人バーベキューを始めていた。芋とカボチャはスライスされ、タマネギは輪切りにされて網の上で煙を上げていた。
「はぁ~、どのお野菜も新鮮そのもの! これだけで生きていけますよ」
これはアレですね、宿の料理長にサンドイッチについていたソースのレシピをなにがなんでも聞きださなければいけませんね。あのソースを使えば、きっとこのカボチャも輝くでしょう。
夕食前のおやつのつもりでしたが、ちょっと多く焼きすぎてしまいました。もったいないので全部食べますけど…
今では情報過多による頭痛もすっかり収まり、普段通りの良い調子に戻っています。ちょうどいいので、食べながら情報を整理しておきましょうか。
迷宮コア所有者として実行できる事として、やはり最大のメリットは迷宮内部の改造ですね。
これは魔物の配置や通路や部屋に至るまでの変更も含む、やる気になれば1階層から50階層までの全てをコカトリスに変える事も出来る。
しかし、ここで残念な情報があります。金色コカトリスなんですけれど… アレは守護者としてでしか出す事が出来ないという事。
一度倒されてしまえば、再度出現させるのに最低でも1~2か月かかるそうで、本当に残念です。
まだ試していませんが、水場… 川や池、沼から海まで再現できるようです。当然そこに生息する魔物を出現させる事が出来、お魚やイカもタコも、果ては貝の魔物まで出す事が出来るのです。
これは一言で言って… 素晴らしい!
迷宮を攻略できるほどの力量があるのなら、完全に外の世界から独立して生活する事が出来ますよね。
そしてデメリットというべきは、迷宮内部を運営するためには専用の力が必要だという事。力…というのは、人間を含む外部から侵入してくる者の生命力… と言ったらいいでしょうか、侵入してきた者から流れ出るそういった力を吸収して蓄積していくようです。
1人1人からは本当に微量で、それこそ大勢の冒険者で賑わうくらいでないと自由に改造は出来ないみたいですね。
後は… 迷宮内で亡くなった方の遺体ですか、あれも迷宮が吸収して糧としているようです。
ここの迷宮は長い事探索されていたので、結構な力が蓄積されていましたが、使い切ってしまうと魔物を出す事すらできなくなってしまうようです。
確かに所有者になったとしても、完全に独占してしまうとたちまち行き詰る事になりますね。しかもこの情報は、すぐに理解できないように拡散されていましたから、アホな貴族であれば、すぐに封鎖して独占し、力を使い切ってしまうのでしょう。
このデメリットの部分、本当に詳しく調べて考えないと理解できないようになっていましたからね。
権利の譲渡は簡単にできるみたいですね、制御室のコアに権利を持つ者と、譲渡を受けるものが一定時間触れていればいいそうです。
確かにこれなら、知らないうちに勝手に奪われた…なんて起きないでしょうね。
「有効活用するためには人の出入りが必須… という事ですが、うーん」
これは確かに悩みどころですね、テネシー様が言っていたようにコカトリスを狩りやすくするというのは正解なのかもしれません。もちろん狩るだけの力を持ってないと話になりませんが、やはり鮮度を考えるともう少し浅い階層で出した方が良いかもしれませんね。
「よし、あまり悩んでも仕方がないので一度迷宮を出ましょう。ソースを手に入れなければいけませんからねっ!」
制御室と行き来できる、所有者専用の転移陣を早速作り出す。1階層の入り口近くに新たな小部屋を用意して、転移で戻ります。
この転移陣は所有者専用という事で、無関係の人には見えないし使う事も出来ないみたいなので、安心して放置できますね。
それでは宿に戻って料理長を買収しましょうか…




