小話
むしゃくしゃして書いた、後悔は…ちょっとだけ
これは、孤児院の院長であるアリシアが姿を消し、創造神フローラによって行方を明らかにされた後のお話である。
「それでは緊急会議を始めます」
第一声を放ったのは副院長のエミリア、そして会議の席には元冒険者ギルドの職員であり、現在は孤児院の防衛部門とギルドとの橋渡しを担当しているキャシー。元ギルド職員で現在は資産運用と商業ギルドとの橋渡しを担当しているマーラ。そして、アリシアと縁があった『赤き咆哮』の3人、リーダーで剣士のカレン、エルフの魔法使いのサーシャ、斥侯のエリカ。王都孤児院だった頃のエミリアの部下だった4人の職員が席についていた。
「えー、この孤児院の運営が始まってから2年半が過ぎましたが、実は大変な事が決まっていませんでした。開設されて以降、『アリシア様の孤児院』や、『使徒様の孤児院』などと呼ばれてきて、冒険者ギルドや商業ギルドの書類にまでそのように書かれていますが… 実はこの孤児院、名前が決まっていません!」
10人しかいない会議室にざわざわと喧騒が走る。
「それで、以前私は気になって院長に聞いてみた事はあったんですが、「名前は気にしなくてもいいのでは?」と返されてしまいまして、現在に至る訳です」
1人立ち上がって説明を続ける副院長のエミリア、ここまで来てようやくキャシーが手をあげた。
「それで、今日の緊急会議の議題は一体何ですか?」
「今日皆様に集まってもらったのはですね、院長がいるとまず決まらないこの孤児院の正式名称を考えるためです! どうですかみなさん?何かいい案はありますか?」
またしてもざわざわと隣近所で会話が繰り広げられる。 そこで…
「普通にアリシア孤児院でいんじゃない?」
赤き咆哮のリーダーであるカレンが口を開いた。
「何を言っているんですか?アナタは。そんな普通の名称では院長の尊さが伝わらないじゃないですか!もう少し考えてから物を言ってください」
即座に辛辣に返したのはキャシーだった。エミリアほど崇拝している訳ではないが、キャシーもアリシアに就職の件で救われた身であり、そのおかげで前ギルドマスターの犯罪にも巻き込まれずに済んだことに感謝をしていたのだ。そして… 個人的にアリシアのファンだったのだ。
「そんな安直な名称ではアリシア院長の素晴らしさは到底伝わりません」
「じゃあキャシーは何か案はあるのか?」
カレンに言い返されたキャシーは、ふふんと胸を張った
「もちろんです、私も名称についてはずっと考えていたんです。ただ、院長が乗り気じゃないみたいだったから黙っていただけで」
その言葉を聞いたマーラが突っ込みを入れる。
「前振りは良いから早く言いなさいよ」
「ほほーぅ?いいの?言っちゃうよ?」
冒険者ギルド時代からの同僚であり友人の2人は、場の空気を顧みずにやり取りを交わす。
「では行きます、私が考えた最強の孤児院の名前は… 『聖スーパーウルトラデラックスアリシア会館』です!」
静寂が訪れる会議室、皆が唖然と呆ける中、特に重症なのはエミリアだった。石化したのではないかと疑う程固まっているのだった
「ちょっとキャシー、アンタはギャグのセンス皆無なんだからボケなくてもいいのよ?」
「ボケてないよ!もう真剣なんだけど!」
手を振りながらあしらうマーラに腹を立てたのか、キャシーはテーブルに手をついて立ち上がる。
「いいじゃない!スーパーでウルトラなんだよ?さらに豪華にデラックスまで付いてるって言うのに何が不満なの?」
「「「不満しかないわっ!」」」
「ええー…」
キャシー以外の全員が声をあげる、「ないわー」と。
「じゃ、じゃあ他の皆は何かあるって言うの?ホラ、聞かせてみなさいよ」
「アンタ言葉使いが雑になってるよ」
マーラの突っ込みに思わず手で口元を隠すキャシー。
「コホン、それでは、皆様は他に何かいい案はあるのですか?」
「言い直すんかい!」
今日もマーラの突っ込みが冴えわたる、その内キャシーのおでこを平手で叩きそうな勢いだ。
「で、でも… スーパーやウルトラはともかく、聖というのは良い響きですね」
気を持ち直したエミリアがなんとか仕切り直しを図ってきた。
「ですよね? ほら見なさい、分かる人には分かるんです!」
「いや、聖以外否定されてる事に気づきなさいよ?」
「マーラは文句ばかりだけど、人に文句を言えるだけの案は当然あるんでしょうね? まさか無いとは言わないわよね~」
「む? ちょっと馬鹿にしないでくれる?」
「自分は何も案を出さないけれど、文句を言うだけの簡単なお仕事中なんですよね~?」
「コイツは…」
マーラは立ち上がり、隣で立っていたキャシーに掴みかかる。
「都合が悪くなるとすぐに手を出すんですよね~マーラは」
お互い掴みながら力比べが始まった。スリムに見える2人だが、伊達にCランクを持っている訳ではない。身体強化をかけつつ、握り合ったお互いの手を握り潰すかの勢いでグイグイと押し合っている。
「この2人っていつもこうなの?」
エルフの魔法使いサーシャがエミリアに問いかける。
「そうですね、こんな感じで仲が良いんですよ」
「まぁこれだけ言い合える仲ってのは中々無いわよね」
結局このまま会議は中断となり、孤児院の名前が決まる事は無かったのである。




