その20
のんびり不定期連載です。
「それでは、次はその魔力を全身に回して循環していきましょう。右手の指先から動かして、そのまま右足の先まで、次に左足に行き、左手の指先へ」
「は、はい」
立ったまま目を閉じて集中しているミルフィ様、この様子ですと、すぐにでも身体強化は出来るようになりそうですね。まぁ魔力量が少ないから短い時間なんでしょうけど、危機回避用の切り札と言うならば一瞬だけでも効果はありますからね。
「今やった魔力の循環は、これから毎日朝と夜、それぞれ10分ずつくらい続けて下さいね。これは基礎中の基礎ですので、今後何をするにしても役に立つでしょう」
「はい!」
「それでは、せっかくなので魔法を一つ教えましょう」
「お願いします!」
「それでは、今から私が魔法で霧を出します、その霧を魔力を使って集めてください。集め方としては、先ほどやった循環を、手の先まで延長させるつもりで放出する感じです。放出した魔力を操作して霧を集めます」
水の系譜である魔法によって霧を発生させる、とは言っても自然発生するような大々的な物ではなく、加湿器のようにシュワーっと出る程度の物だ。
ミルフィ様は右手を突き出して集中しているようですが、まぁいきなりやれと言われても普通であれば難しいんですよね。
何事も取っ掛かりを掴むまでがとても地味で大変な作業なのです。ですが、その取っ掛かりさえ分かってしまえば後はどうにでもなる物です。 魔法は考えるもの… 魔力の存在を掴み、操作できるようになれば、後は創造力で応用していけばいいのです。
「うまくいきません…」
ええわかってます、こんないきなりうまくいくはずはないんです。ただこれは、取っ掛かりを掴むための作業なので、コレを毎日続けてもらおうと… まぁ宿題というやつですね。
「では、これからお風呂に入るたびに10分ほど訓練してくださいね、お風呂だと湯気があるのでわかりやすいですよね? いずれは何も見えない空気を集める事を出来るようになってもらいます。 それができるようになれば、水を生成できるようになります」
「水を…ですか」
「そうです、水は生きて行くために必ず必要になる物。覚えておいて損はありませんよ? それを改良したのが先ほどの水鉄砲なのです」
「あの、ストロー様を攻撃していた水の魔法ですね?」
「そうです、あの魔法を使いこなすには順序が必要なのです」
「わかりました!がんばります!」
胸の前で拳を握り気合いを入れるポーズを決めるミルフィ様、やはりあざといですね!
魔力の訓練をした事が今まで無かったようなので、今日はこのくらいにしておきましょう。これから毎日朝晩の魔力循環、お風呂のたびに魔力操作を訓練していけば、近い内に魔法を使う事が出来るんじゃないでしょうかね。
そろそろお昼になりますので、私は宿に戻って昼食を頂くとしましょうか。その後はベッドでごろごろと…
「それでは、私は宿に戻りますね。訓練は必ず朝と晩、それからお風呂での10分のみですからね、やりすぎは却ってうまくいかない原因になります」
「宿に戻られてしまうのですか? もうお昼ですので昼食を食べてからでも… もういっそ宿を引き払って我が家に滞在すればいいのですよ!」
「せっかくですがお断りさせていただきます。創造神様にお祈りしたりと(普段は全然やってませんが)1人の時間が必要なんです、わかってくださいね」
「うう…わかりました」
うん、素直でいい子ですね。まぁ創造神様をネタに出されれば断れないですよね、使えるものは創造神様でも使います!
うまい事理由を付けて、代官様の屋敷を出る事に成功しました。やはりよそ様のお宅では、本気でダラけられないですからね。 やはり宿のお部屋で魔法障壁を張らないと落ち着いてぐーたら出来ません。
人間息抜きは必要なのです、個人的に言えば… もう貴族の生活になんて絶対に戻りたくありませんからね。
馬車で送ると言われましたが固辞し、トコトコと徒歩で宿までの道を歩きます。この町も門から宿までの道しか歩いていませんから、どこに何があるかわからないんですよ。なので、散策を兼ねての徒歩移動です。市場があれば寄っていきますけどね…
まぁ、代官様のお屋敷から一等地と思われる高級宿までの間に市場なんてある訳もなく、特に何もないまま宿に到着。そのまま食堂へと足を運び、優雅にランチといたしましょう。
─城塞都市ビター、郊外─
「ようやくここまで辿り着いたか、後はうまく事を運ばなければな」
「ボジョレー殿下、一国の第3王子殿下に声をかけられて断る者などいませんよ」
「そうか? 召喚された当日に兄上を言い負かした相手だが?」
「それは… アレク様があまりにも無礼な言葉を吐いたから…でしょう」
「まぁな、僕はあのように愚かな兄とは違うからな」
「その通りでございます、ビターについたらまずは宿をとって情報収集いたしましょう」
「宿を取るのか? 代官の屋敷に行けばいいだろう」
「王城で聞いた話だと、この地の領主であるレクタングル辺境伯が滞在しているそうですので、こちらの動きを見せない方が良いと思われます」
「そうか、それでは些事は任せるぞ」
「はっ、お任せください」
ロゼ王による王命で、ガトー王国に続いてショコラ王国の王宛ての文書を届けた第3王子であるボジョレー、ショコラ王国の王都での用事を済ませて帰路の途中であった。
その足で寄り道をするために、わざわざ遠回りにもかかわらずビターの町に立ち寄ったのだ。2番目の兄であるブルゴーニュの令を受けて、異世界より召喚された使徒をお迎えするためだった。
「ふふん、アレク兄様はすでに脱落しているし、ブルゴ兄様も… 僕が使徒を娶ればローズ姉様をも差し置いて王位に届くだろう。普段からブルゴ兄様に従順なフリをしていたおかげで良い仕事が回ってきたものだ、感謝しないといけないな」
馬車の窓から遠くを眺めながら黒い笑みを浮かべる。
元々アレクが王位を継いだ場合、ローズやブルゴーニュと共同で反旗を翻す約束はしていたが、勝手に自滅したのでこれは無くなったと見て問題ないだろう。その他の兄弟姉妹はまだまだ小さいので問題にならないが、王位に就くにはローズとブルゴーニュが邪魔だったのだ。
「これさえうまくいけば、ロゼ王国は僕の物だ」
馬車はまもなく城塞都市ビターに着こうとしていた。




