その17
のんびり不定期連載です。
─城塞都市ビター、ガナシュ邸─
「おい、アレは放っておいていいのか?」
レクタングル辺境伯の目線の先には、いまだに放心状態のタルト家嫡男ストローがいた。
「地元では相当女遊びをしていたそうで、まさか自分が袖にされるとは思っていなかったんでしょう。我が娘との見合いをするためにこの地へ来ておきながら、即座に使徒殿を口説こうとするとは… この件について断る口実が手に入って僥倖ですよ。 娘はまだまだ嫁に出しません」
「お前も親バカが過ぎるの…」
代官邸での食事会はどうやらお開きになるようだ。
─城塞都市ビター、高級宿─
朝です、おはようございます。
夜明けとともに目が覚めてしまう日頃の習慣が恨めしい今日この頃です。もう少しゆっくり…とも思いましたが、時間が惜しいと考えてしまうのは貧乏性なんでしょうかね。
「あふ…」
あくびをしながら体を伸ばします、まぁ身体的には全然疲れていませんから平気なんですが、気疲れの方はどうにもいきません。 本当に疲れてしまいますよね、具体的に言うとストロー様とかストロー様とかストロー様です。
顔を洗って朝食をいただきましょうかね。
「おはようございます!アリシア様!」
「ミルフィ様? おはようございます。 このような早朝から如何なされましたか?」
食事を頂くために階下にある食堂に向かっていたら、なんとロビーにミルフィ様が待っていたのです。確かに会う約束はしていましたし、時間も決めてはいませんでしたが…それにしても早すぎではないでしょうか。
「楽しみすぎて待ちきれなくなってしまいました」
「そ、そうですか…」
意外とパワフルなんですね、この方は…
「私は朝食をいただいてきますので、ごゆるりとしていて下さい」
「あっそれでしたら私もいただきたいです! そういえば朝食を取っていませんでした」
「そうでしたか、それではご一緒しましょうか」
まぁまだ夜が明けてから大して時間も経っていませんし、そうだろうとは思いましたが… まぁ朝食くらいなら私が奢りましょう。この町一番の高級宿というのは伊達ではなく、設備も食事も相応のレベルでしたので期待も高まります。
とはいえ、朝食から豪華な品揃えがある訳でもなく、普通にパンとサラダ、スープだったんですが、どれも美味しくてグッドでした。
「それでは馬車を待たせておりますので、我が家へ行きましょう。昼食はお任せください」
ミルフィ様に誘われるがまま、馬車に乗り込み代官様の屋敷へと向かいました。
そんな訳で、貴族令嬢とのお茶会が始まってしまった訳ですが、正直こういった事は久しぶりでしたが十分楽しめるものでした。 公爵令嬢時代、それも王太子の婚約者だった頃にもお茶会へは多々出席していましたが、普通に楽しめる場は少なかったので嬉しいですね。 あの頃は妬みの視線ばかり感じていて、本当に面倒で嫌だったのですけど、楽しいお茶会ならば大歓迎ですね。
「それで、タルト家のストロー様とのお見合いをしたんですが、あの嫌らしい視線がどうにも我慢できなかったんです。そこへ昨日のマナー違反とアリシア様を口説こうとしていた姿を見て、お父様がきっぱりとお断りする方向で話を進めると言っていました。本当にうれしいです」
「そうだったのですか… 確かにあの方は、そうですね… 嫡男でああいった行動をしているのなら、将来必ず隠し子が現れて、後継者問題で騒動が起きますよね」
「全くです、タルト家の未来はとても暗いですね」
とても暗いとニッコリしながら言い放つ当たり、本当に嫌いなんでしょうね。確かにいちいちドヤ顔しながら話しかけられると、うっかり殴ってしまいたくなりますもんね。 ああ実際には殴りませんよ? 触れたくありませんから凶器攻撃なら考えます。
やはりアレですね、ガーナ王国の王妃様が持っていた扇… もういっそ鉄扇を持ち歩いて、無礼な輩がいたらそれで叩いてしまえばいいのではないでしょうか。 鉄扇だと重いので、ハクに頼んでミスリルでも掘って来てもらって作ってしまいましょう。 しかしそうなると装飾をどうするか… おっと脱線していますね、ミルフィ様のお話に耳を傾けましょう。
「ストロー様は一応客人として我が家に滞在しているので、食事の時間をずらしたり、わざと外出などをして顔を合わせないようにしていたんです。 でも、今日中にお見合いの話はお断りするとお父様が言っていたので、近い内にタルト家領地に帰ると思います」
「なるほど、それであんなに朝早くから行動していたのですね?」
「いえいえ、今朝の早起きは本当にアリシア様とお話がしたくて待ちきれなかったのです。辺境の地に住んでいますから、あまり交友とかありませんので… こうして楽しくお話しできる時間があまり無くて」
うんうん、可愛いじゃないですか! 昨日はあざと加減が結構出ていましたから、そういった事に慣れている役者さんかと思いましたが、いいですね! 仲の良い妹がいたらこんな感じだったのでしょうね… 私と実際に血のつながった妹はあんなにも意地の悪い権力主義者だったので、妹に良い感情はありませんでしたが、ミルフィ様なら妹として可愛がれますよ。
その時、廊下の方から何やら声が聞こえてきました。 なにやら喧騒とした感じですが…
「何か騒がしいですね、どうしたんでしょうか?」
ミルフィ様の問いに、ドアの横で待機していたメイドさんが外の様子を確認しようと扉を開けて見に行こうとしました。
「おや、開けてくれたという事は迎え入れてくれたという事ですね? それではお邪魔しますよ」
「お待ちください、この部屋はミルフィ様の私室でございます」
男性の声が… んん? この声って
「ストロー様…」
デスヨネー 何をしに来たんでしょう、美少女との語らいの邪魔をしないで欲しいのですが。
「やあやあ、アリシア嬢にミルフィ嬢。美しいお二人が揃っているなんて、良いタイミングだったようですね」
「ストロー様? 今はお客様をお招きしている所なんです、申し訳ありませんが退室してもらえませんか?」
「何を言っているんだい?ミルフィ嬢。たかが子爵家の次男で、代官風情の娘程度が伯爵家の嫡男であるこのストローに意見できる立場だと思っているのかい?」
ピキッ
あ… 今、自分のこめかみに青筋が立ったのが分かりましたよ…




