その15
のんびり不定期連載です。
「よくぞ来てくれた、我が領地の料理を堪能していってくれ」
レクタングル辺境伯様も当然いらっしゃいますよね、しかし本当に料理を堪能できるのでしょうか? 貴族と思われる方々がかなりいると思いますが、挨拶ラッシュの予感しかありません。
こうなっては仕方ありません、高速移動で料理まで辿り着き、すぐに食べ始めてしまいましょう。食事中に声をかけるのはマナー違反ですからね、少なくとも私の知る貴族の常識では。
辺境伯様の挨拶が終わったのでクルリと振り返り、料理が並んでいるテーブルを見つめます。
肉肉スープ肉… お肉ばかりではないですか! お野菜は? 果物は?
などと、一瞬考え込んでしまったその隙に…
「それでは諸君、食事会を始めようではないか。 使徒アリシア殿の迷惑にならぬよう楽しんでくれ」
辺境伯様が開会を宣言してしまいました… となると、 やはり! 一斉に人が私の方に向かって来てるではないですか!
「使徒殿、この度は我が国の危機に駆けつけて下さり、感謝の言葉もありません。本日は急の事だったので、お礼の品をご用意する事が出来ませんでした、是非とも我が家にも一度立ち寄って頂きたく…」
すっかり回り込まれてしまいました… どうしましょうコレ。
周囲には10人近くのの人垣が形成されており、無理矢理脱出を試みると、間違いなく誰かを吹き飛ばしてしまうでしょう。 こうなれば仕方ありません、必殺の権力を使いましょうか! 効果はきっとあると思います、頼みますよ?
「辺境伯様、食事会との事で、疲れを押して出席したのですが… この様子では食事もままなりません」
「む? 確かにそうだな。皆の者、労いたいのは良くわかるがこれは食事会だ、まずは食べようではないか」
辺境伯様の鶴の一声が効いたのか、人垣はパラパラと散って行きました。 やはり使える権力はなんでも使うべし! ですね。
お肉ばかり並んでいるテーブルを横目に見ながら食べれそうなものを物色していきます、サラダのお皿を発見しました! 突撃しましょう。
やっとサラダと果物を取り、近くにあったテーブル席へと場所を移します。 シャクシャクと野菜を食べながらも、次の獲物を探します。 うん、なかなかおいしいですね。
「お食事中に失礼しますアリシア嬢、僕はタルト伯爵家の嫡男でストローと申します。よろしければ今後の予定などをお聞かせ願いたいのですが」
むぅ、食べている最中だというのにこの男性は… この世界では貴族のルールが違うのでしょうか。 …ごっくん
「予定…と言われますと、特に何も考えてはいませんね。数日はゆっくりと疲れを取るために休もうとは思っていますが」
「そうでしたか、いかがでしょう? 休息は我が領土にお越しくだされば、素晴らしい癒しの時間をお約束いたしましょう。 僕が完璧にエスコートいたします」
えー、もしかして私はナンパされてるのでしょうか? 素晴らしい癒しの時間というのには多少興味はありますけど、この方のエスコートは正直どうでもいいですね。
しかし、ほんの数時間前に神託があったばかりだというのに、アマンダ様のお言葉をどのように解釈したらナンパに繋がるのでしょうね… しかも自信満々のドヤ顔をしていらっしゃるのが気に入りません。私を落とせるとでも思っているのでしょうか? 私を落としたければ可愛らしい女性を連れてくるべきでしたね!
アリシアとして産まれてからもう18年を過ぎましたが、いまだに男性にときめいた事は一度たりともありませんよ!
面倒なのでサクっとお断りしておきましょう。
「せっかくのお誘いですが、お断りさせていただきます。迂闊に場所を移動しますと、私の従魔も困ると思いますので」
「なっ…?」
あらあら、断られるとは思っていなかったのでしょうか? しかし、わざわざ異世界にまで追いかけてきてくれたハクには感謝ですね、使えるものはドラゴンでも使います!
「アリシア様、従魔とは真っ白のドラゴンの事ですよね? 門の前にいた時に見る事が出来ましたが、とても美しい姿で感動してしまいました!」
今度は背後から女性の声が… 振り返ってみると、13~4歳くらいに見える方が立っていました。
「申し遅れました、私はこの地を治める代官、ガナッシュ家の長女になりますミルフィと申します。食事が済みましたら、ぜひ私の部屋にご案内したいのですがいかがでしょうか? 色々とお話を伺いたいのです」
うーん… 少なくともタルトなストロー様より可愛らしい令嬢のミルフィ様の方が良いのは確かですが、今日はもうゆっくりと寝たいんですよね。
「申し訳ありませんミルフィ様、食事の後は宿に戻って休もうと思っておりますので」
「ではでは! 明日ならば如何でしょう?」
両手を胸の前で組んで見つめてきます、これはいいですね! あざと可愛いですよ! どうしましょうか、これは悩んでしまいますね。 ちょっとお話しするくらいならいいでしょうかね?
「あ、あの…ダメでしょうか?」
「え?ああ、明日ならば多少は…」
おかしいですね、自分の中では『この間僅か0.2秒』といったところだったのですが、思いの外長く考え込んでいたようです。なにやら目を潤ませて見つめてきます、この子は役者ですね!
あっと、タルトなストロー様はなにやら放心していますね。 放っておきましょう、きっと話しかけられたくないのでしょう。
その後も後から後から次々と人がやって来て、とてもゆっくり食事をしてられなくなり、この場を辞する事にしました。
「辺境伯様、私のいる世界では食事中に話しかけるのはマナー違反とされているのですが、この世界ではこれが普通なのでしょうか?」
「いや、確かに食事中の者に話しかけるのは良くないとされているのだが… タルト家の者が前例を作ってしまったからなのか、いやいやすまなかった」
「とりあえず、これでは食事もままなりませんので、これにて失礼させていただきます。辺境伯様におかれましては、今後の復興にご尽力くださいませ」
暗に『もう誘わないでくれ』と匂わせて退出しました。
先ほどの控室で元々着ていた服に着替えて、いざベッドへ!




