42話
そろそろクライマックス。
ガーナ王国フェブリー公爵領、領都
「公爵を引きずり出せ!馬車も壊してしまえ!」
「さっさと出てこいおらぁ!」
「旦那様、これはまずいです、すでに逃げ道もありません」
「ぐっ、この平民風情がぁ! お前達、誰に向かってそのような口を利いているつもりだ!この俺は創造神の使徒アリシアの父親だぞ!」
「本気でそんなこと言ってんのか?それが本当ならば魔法を使ってみろよ!見捨てられてないんだったら使えるはずだろ?」
「そうだそうだ!みんなで取り押さえようぜ!」
あっという間に馬車から引きずり出され、暴行を受けながら簀巻きのように縛られていった。
そしてその日の内に城の牢から公爵夫人と次女も引っ張り出されて、町の中心部にある広場に磔にされたのだった。
なぜか老執事だけは従者という事で、公爵家とは関係なしと見られて領都からそのまま追放されていた。護衛を務めていた冒険者も武器を取られたまま一緒に町から出され、無傷で逃げ出せた事に安堵していた。
広場に磔にされた公爵家の3人の足元には大量の木材に油が塗られていて、松明を持った男が数人横で待機していた。
「貴様ら、公爵である我が家に楯突くなど無礼であろう!今すぐにこの鎖を解け!そうすれば許してやるぞ?機会は今しかないぞ?さぁ外せ!」
顔をボコボコに腫らせていながらも、強気な言葉を繰り出す公爵に対して、すでに喋る気力も無くなっている夫人と次女。食事も与えられずに今日まで生きながらえていたが、すでに限界に達しているようだった。
「この国に巣食う害虫どもに罰を!火を放て!」
「「「火を放て!」」」
「ぎゃあああああ、やめろおおおぉぉぉ」
油が塗られていた木材に火が着くと、瞬く間に燃え上がり3人を包んだ。
ガーナ王国に長い間公爵として君臨していたフェブリー家は、たった今その歴史を閉じたのだった。
ガーナ王国王都
ガーナ王国王都でも民衆の動きは活発化していた。王城を中心とした高位貴族の邸宅がある地域は入場門が固く閉じられて、貴族達はそれぞれの家が貯蔵していた食料を持ち寄り城へと避難していた。
王都内にいる民衆の騒ぎが大きくなるにつれ、籠城している貴族達は少しずつ疲弊していき、王城内でも小競り合いが起きるまでになっていた。
「そろそろ限界かもしれんのぅ、持ち寄った食料も長くはもたんだろうし、決断の時かもしれん」
「陛下、いかがなされるのですか?」
ガーナ王国の王と王妃、そして王太子である第2王子と2人の娘。王家のみで会議が行われていた。
「王家のみに伝わる緊急避難用の地下通路から脱出をしようと考えているのだが、食料や金貨を運ぶ人員をどれだけ用意すれば足りるか…」
「父上、その人選は非常に難しいのではありませんか?」
「そうなのだ、連れていったはいいが、金貨や食料を持ち逃げされたり裏切られたりすると面倒な事になる。加護を失った貴族連中じゃ荷物を運ぶこともできんだろうしな」
「平民から登用した騎士を数名選びましょうか」
「それも難しいのだ。そやつらの家族は王都にいるからな、間違いなく裏切り、民衆の前に突き出される事だろう」
「我々だけでは運べる量も知れていますしね、どうしましょうか」
「とりあえずこの件は外部に漏れないように徹底する、人選については慎重にやるとしよう。少しの間は行動を自重するように」
「わかりました」
王城内では今後どうするかなどの会議が頻繁に行われているが、解決策は全く出ていない。国庫には長期保存に向いている物しか備蓄は無く、普段から豪勢な食事をとっている貴族達の我慢も限界に近づいていたのだった。
セリカ王国王都
「それでは時機を見てまた訪れる事を約束しましょう」
「うむ、使徒殿も体調の管理には十分に気を付けるのだぞ?ポテチ王国は非常に寒いと聞くからな」
「わかっています、その対策も準備していますので大丈夫です。それではまた」
取引も終わり、セリカ王国を後にしてポテチ王国へ向かおうとしたところ、なんと王様、王妃様、カムリ王国の王妃様まで見送りに来ていただいたのです。王家専用の馬車が王都の外門まで来ているので、民衆や通行人などが驚いた表情を見せながらガン見していきます…これがなかなかキツいんですよね。
アルフィナ様にはフローラ様の言葉をそのまま伝えると、「それならばまだまだ戻れませんね」と、なぜか笑顔で仰っていました。女性軽視の国では居心地は良くないんでしょう、少しでも改善される事を祈りましょう。
そんな盛大に見送られる中、私は多分最後と思われる戦場に向かう事にしました。結局進路は北東に進もうと思っています、聖王グロス教国経由ですね。
まぁ野菜や果物の備蓄は十分なので、道中気が向いたら買い出ししようかと思っています。それ以外は空路で行きます。
一応人前で飛んでいくのはどうかと思い、小走りで王都を離れて飛び立ちましょう。
まぁ距離を考えると、今日中にポテチ王国に入れますが、広い国土の中での索敵にかかる時間と手間…気分的には大変ダルいです… ホワイトドラゴンは特に人里に現れたりとか、どこかで暴れたなんて情報がないのです。なので目撃情報を聞き込みしながらの索敵となるのでどれほど時間がかかる事やら
とはいっても、現在使徒として与えられているお役目はこれで最後なので、今度こそ得られるであろう自由に期待を込めて頑張るとしますか!
夕方、進路がどうとかカムリ王国には行きたくないとか言ってた自分が恥ずかしくなるくらいあっさりとポテチ王国の国土に降り立ちました。
ええ、一度も地上には降りなかったので通過する国なんてまるで関係ありませんでした。
「さて、ここから先は白銀の世界。まるで境界線があるかのように景色が変わりますので、急ぐけれど焦らず、見落としの無いように行きましょう」
突如現れた雪原に向かって歩き始めました。予想通り寒いのです、ならば早速使ってみましょう!
…魔法の名称はどうしましょうかね、二重窓?さすがにそれはダメですよね。今後の課題としましょうか、では発動!
「ほぅ、少し熱い気がしますが、この先はきっとここよりも冷えているのでしょうし、良しとしましょう」
外側の魔法障壁が地吹雪を防いでくれるので、雪に塗れるという事が無いのは良い事です。ただしかし、足元が非常に歩き難いのが難点ですね。
「最悪は少しだけ浮いて進むようにしましょうかね。魔力消費しそうですが」
こうしてポテチ王国の凍土地帯に入るのだった




