39話
のんびり不定期連載です
「これはこれはカノン様、お久しぶりでございます」
「陛下からの書状でございます、お受け取りください」
封蝋された書状を受け取り、その場で確認をする。中には明後日に謁見が可能だという旨と、時間はいつでも可能という事がかかれていた。
「まぁ、明後日には謁見が可能なのですか、委細承知しました。それでは午前10時に伺わせていただく旨を国王陛下にお伝えくださいませ」
「承知しました、間違いなくお伝えすると約束しましょう。10時に登城なさるという事であれば、9時前には迎えの馬車を寄こすよう手配します」
「いえ、迎えは不要です。こちらから伺いますのでお気になさらず」
そんなやり取りを済ませてカノン様が帰られたので、その足で食堂に向かう事にした。
セリカ王国王都
「ふぅ、緊張しましたね。前回お会いになった時の使徒様は機嫌が悪そうでしたが、今日はそうでもなかったみたいですね」
「お疲れ様でございました。私は初めてお目にかかりましたが、若い騎士を殴り倒したとか冒険者風の男達を蹴り倒したなどと聞いていたため、どのような方かと思っていましたが、美しい方なのですね」
王都を走る馬車の中で、つい先ほどセリカ王国の使者としてアリシアに陛下からの書状を手渡していたカノンと護衛の騎士が話をしていた
「あのような若さ、そして小柄な体型なのにすでに3体ものドラゴンを討伐なさるとは、しかも最初の討伐から2か月程度しか経っていません。どのように戦っているのでしょうね」
「恐らくは魔法でしょうが、通常であればドラゴンの鱗は魔法すら弾くと聞いた事があります」
「使徒としての力…という事なのでしょうか。聞いた話ではガーナ王国の公爵家出身だとか、礼儀作法も全く問題ありませんでしたし、不思議な方ですね」
3人を乗せた馬車は王城へと向かい走っていくのだった。
鳳凰の宿木
今日は登城する日、昨日は一日ぐーたらして過ごしましたアリシアです。朝から夕方までの飛行の疲れなのか、全く動く気になれずにベッドで過ごしていました。休日にしたのですからいいですよね!
一応宿代は明日の分まで支払っていますが、王様との交渉次第では延長する事もあり得るので、とりあえずそのままにしてお城へ向かいます。
「ドラゴンの素材なんて私には不要ですからね、売れる分だけささっと交渉してしまいましょう。血液だけは上級ポーションに錬金できるらしいので、多少は確保しておいた方が良いかもしれませんね」
お城の門に着き、王様からの書状を見せると慌しいながらも騎士が先導して中に入る事が出来ました。相変わらず迷路のような城内の通路、防衛のためには仕方のない処置なんでしょうが、ただの通行人である私にとっては面倒な回り道になっています。
そんな中で案内されたのは、前回会談した会議室でした。機密保持の都合上ここが一番だと言っていましたね、別に私は今回の事は外部に漏れても問題は無いと思っているので気にしてませんが、王様は気にしているようです。
「ようこそおいでくださった使徒殿、グリーンドラゴンの討伐お疲れであった」
王様が来ました、女性を2人連れて…
「紹介しよう、こちらが我が妻で、その隣が我が妹でありカムリ王国の王妃をしておる」
「セリカ王国王妃、セリーナと申します。使徒様にお会いできる日を楽しみにしていました」
「本日はカムリ王国の王妃として挨拶させていただきます、アルフィナと申します」
「カムリ王国ですか…」
カムリ王国と聞いて、先日蹴り倒した訳の分からない人たちの事を思い出し、ついついげっそりとした顔をしてしまいました。
「やはり…何かありましたのですね?」
「ええまぁ、確か嫁に選ばれたから光栄に思って尽くせ…とか言われたので蹴ってしまいました。そして逃げました」
「はぁ…まったくもう」
その後、カムリ王国の王妃アルフィナ様から事の経緯を伺いました。カムリ王国も選民意識が強い国らしく、国で一番偉い国王の妻に娶られるのが女性にとって最高の誉れだと本気で思っているようで、何度苦言を申し上げても聞く耳持たなかったそうな。
それで間違いなく神罰が落ちるだろうと実家(お城ですが)に避難してきたとか。
「とりあえず現状被害はそれだけですので特に問題視はしていませんが、今後もそれが続くとなれば、私も本気で抵抗しますし、フローラ様も何かすると思います」
「そうですよね、正直私は政略結婚ですけど、それでもカムリ王国の民には平和に生きてほしいと願っています。もしも神罰をお考えであれば、国王陛下と重鎮のみにしていただきたいのです。あの者達は一度痛い目に遭わないと理解できないでしょうから」
「なるほど、そういった方達なのですね、承知しました。フローラ様にはそのように祈りを捧げておきます」
世間話なのか王妃様の愚痴なのかわかりませんが、この話だけで1時間ほど経っていたので、そろそろ本命の話を進めましょう
「それで本日伺ったのはですね、ドラゴンの素材を買いませんか?という事なんです。なにせ一つ一つが高額な素材なので国家を相手に買い取ってもらおうと思ったのです」
「そうであったか、ドラゴンの素材であればどれほど金をかけても必ず元が取れる貴重な物だ、ぜひ買い取らせてもらおう。ただ、素材を吟味する時間だけ頂きたい」
「それは構いません、ちなみにレッドドラゴンの希少部位はすでに売ってしまっていて無いのですが、ブルーとグリーンは討伐した時のままなので考慮していただければ」
「うむ、これについてはすぐにでも識者を集めて会議するとしよう。ところで使徒殿、間もなく昼になるし、できれば夜に歓待のパーティをしたいのだが、招待を受けてはくれないか?」
「パーティですか、正直この国の民の血税で歓待されるというのは気が引けるのです」
「使徒殿の言いたい事も分かるのだが、現在までに討伐されたドラゴンの功績だけでも十分に税を使う価値はあると思うのだ。ブルードラゴンに関しては我が国にも被害は出ていたわけだし」
「いえ、せっかくのお誘いですがお断りさせていただきます。私も今は家名を持つ貴族ではないですし、それでも王宮で行われるパーティで、他国の貴族を相手に談笑するつもりはありません。そのパーティでかかるはずだった費用を国のために使ってあげてくださいませ」
「むぅ…そうであるか、そこまで言うのであればあきらめるしかないのぅ」
その後、昼食だけ頂いて宿に戻る事にしました。素材については予算との折り合いをつけるために会議して買い取る部位を決めるとの事で、2~3日待つ事になり、私の連休の日数が延びていくのでした




