襲撃
今後もドロッセア湖蝕洞にデッドリーパイソンの変異種が現れる可能性がある事をレギオンに報告した俺たちは、新たなクエストを受注するためにクエスト受注端末を操作していた。
「めぼしいクエストは今のところないわね。」
「レイド級のクエストはそうそう発生するもんじゃないからな。今日は手ごろなのをいくつか受けて帰ろう。」
クエスト完了で得ることが出来る経験値も、円滑なレベルアップに繋げるための需要なソースだ。
しかしながら、現状俺たちが必要なのはどちらかと言えばそれぞれのジョブと装備の熟練度を上げることが目標である。
残念ながら熟練度は戦闘を行うことによってのみ上昇するので、クエスト完了による恩恵は得られない。
「しばらくは、お互いの熟練度上げに専念するとするか。」
帰り道にルーシィにそう言って、今後の方針を決定した。
魔導銃士は強力なジョブだが、その真価は多彩なアビリティを習得して初めて発揮する。
今のところ、ルーシィが覚えているアビリティは
【双銃使い】
両手に銃を装備可能になる。
【トランスキャリバー】
口径の異なる銃弾を、同一の銃で発射することが可能になる。
【タクティカルポーチ】
インベントリとは異なる、銃弾用の魔法収納領域が使用可能になる。
以上の3つだが、まだまだ有用なアビリティがたくさんある。
しばらくはジョブと装備の熟練度上げに専念して、覚えてもらった方がいいだろう。
俺の方も、“グラディウス”の開放に本腰を入れたい。
“グラディウス”の解放条件は、「近接系の派生もしくは複合ジョブを3種以上開放した上で、“剣聖”のジョブ熟練度を一定値以上まで上げる」だ。
“パラディン”、“アサルトナイト”、“剣聖”と前提条件の1つはクリアしているため、残りは熟練度を上げるだけだ。
「そういえば、マルトゥスまでの輸送馬車の道中警護の依頼あったよな?ついでに受けて教会に顔を出してきたらどうだ?」
「フィルは一緒に行かないの?」
「ちょっとクラフトしておきたい装備品があるんでな。それに、水入らず過ごすなら1人の方がいいんじゃないか?」
「町の英雄さんを紹介するいい機会だと思うけど... まぁいいわ、ならお言葉に甘えて行ってこようかしら。」
「あぁ、首都に新居を構えたことを報告してくるといい。」
考えてみれば、初の別行動になるが問題ないだろう。
今のルーシィなら、ここからマルトゥスまでに出現するモンスターならまず遅れを取ることはないだろう。
その日の午後、ルーシィはマルトゥスに向かって出発していった。
1日で行って帰ってこれる距離ではないため、ルーシィが戻るのは2~3日後になるだろう。
その間に、クラフトしておきたいアイテムと言うのは、ルーシィの装備品だ。
防具には汎用とジョブ専用の2種類があり、ジョブ専用の防具は店売りで陳列してあることが少ない。
ターゲットが限られるため、販売できるかどうかが運頼みになってしまうためだ。
そのため、オーダーメイドで頼むことになるのだが、素材の入手はハンターが行い、製作はクラフターが行うことになる関係上、作成時のミスが許されない。
よって、高レベルのクラフターが担当することがほとんどになるが、相対的にクラフト費用が高くなる。
この世界で、ジョブ専用の防具を装備しているハンターが少ない理由がそこにあると俺は考えた。
さらに言えば、そもそも認知されていない魔導銃士専用の防具の作成方法を一般の人間が知っているわけがない。
そこで、いまだに魔法使い向けの汎用防具を装備しているルーシィに防具をクラフトしようと思い立った。
せっかくならサプライズで渡したいので、多少無理やりだが長い間別行動を取るように流れを持っていきたかった。
まだ若干素材が足りていないので、今日は残りの素材を取りに行き、明日には完成させなくてはならないが、何とかなるだろう。
ルーシィを見送った後、街には戻らずにダンジョンへ向かう。
フィンデンスタイン南側の街道から外れてしばらく進むと“グローミーヴェイル”という森林地帯が広がっている。
ここに、目的の素材を持つモンスター“ブランディア”が生息している。
白色の鹿のようなモンスターで好戦的でもないので、入手は容易だ。
のはずなのだが、少し様子が違った。
ブランディアを見つけるや否や、襲い掛かって来た。
戦闘能力自体は低いモンスターなので苦戦することはないが、群れで行動するモンスターなのでかなり鬱陶しい。
面倒くさいので素材が必要量集まった時点で引き揚げて街に戻ることにした。
フィンデンスタインの南門まで戻った時に、門の警護を行うハンター達が慌ただしく行き来しているのを見かけ、声を掛けた。
「随分と忙しそうだけど、何かあったのか?」
「今日はやけに門を襲撃してくるモンスターが多くてな。駐在のハンターだけじゃ手が足りなくてレギオンに依頼してクエストとして貼り出してもらったんだ。あんたもハンターなら受注して手伝ってくれると助かる。」
「なるほどな。準備ができたらレギオンに行ってみるよ、ありがとう。」
理由は分からないが周辺のモンスターが狂暴化しているようだ。
ホームから最寄りの門が多忙とあってはクラフトどころではないな。
ある程度準備をしたらレギオンに行って話を聞いてみるとしよう。
すでに夕刻近い時間ではあったが、ポーション等を準備しレギオンへ出発する。
気持ちハンターの数が増えているようなレギオン内部のクエストカウンターで見慣れた女性の職員に話を聞く。
「今朝から、南側地区のモンスターが狂暴化して襲撃している事案が発生しているみたいです。普段はフィールドの一定のテリトリーやダンジョンから出ないモンスターも出没しているようで、駐屯所に派遣しているハンターだけでは対処できなくなってしまって、クエスト依頼が出されました。」
「モンスターの襲撃頻度はどのくらいなんだ?」
「断続的に続いているようです。交代制で各ハンターが対処していますが、このままだと夜間も続く見通しです。調査に特化したハンターが原因を調べていますが、今のところ原因と考えられるようなものは見つかっておりません。」
「状況は分かった、ありがとう。俺もクエストを受注する。ついでで悪いが、受注の手続きも頼む」
「かしこまりました。フィルさんが参加してくれるなら心強いですね!」
「君に名乗った覚えはないんだが?」
「私はアメリアと言います。ルードさんやルイーズさんから、大変お強いハンターだとお伺いしてますから!」
「そういうことか、よろしく頼む。」
「はい、今後ともよろしくお願いします!」
レギオンの人間に知った顔ができるのはいいことだ。
ルードやルイーズとも仲が良さそうだし、思わぬ収穫である。
レギオンを後にした足で、そのまま南門のハンター駐屯所まで向かう。
素材集めから帰って来た時に話したおっさんが、くたびれた様子で休憩していた。
「首尾はどうだ?」
「おお、あんたか。来てくれて助かるよ、猫の手も借りたいくらいだ。モンスターの強さは大したことないんだが、奴ら定期的に襲撃してきやがる。いつ来るか警戒しなくちゃいけない以上、こっちが休む暇がねぇんだ。」
「確かにしんどいな。クエスト受注者が増えてある程度ローテーションが固まって、調査団が原因を突き止めるまでは持久戦だな。俺も行ってくるよ。」
「あぁ、気を付けてな。」
フィールドに出ると、数組のハンターとモンスターが既に交戦していた。
おっさんの言う通り、襲撃してくるモンスターは個々の強さはさほど強くない個体ばかりだ。
だが、ハンター側も長期戦を見越して消費の少ないスキルや魔法を使用して戦っているため、通常より殲滅に時間がかかっている様子だ。
「さて、長い夜になりそうだな。」
門へ向かってくるモンスターへ駆け出しながらつぶやく。
その晩、首都で起きることになる事件に、俺は身を投じることになる。




