Like a exile
(さて、どうしたもんか...)
ぴくりとも動かなくなったデッドリーパイソンの前に、息を切らせて勝利の余韻に浸るルードとルイーズを見ながら考えていた。
クランに所属するハンターには星1つから3つまで、今までの功績に応じてクラス分けされる。
クエストを受けるためには指定されたグレードを満たしている必要があるのだが、実はこのグレード自体上げるのはそこまで難しくない。
それこそ何回か失敗もリタイアもせずに順当にクエストをクリアすればすぐに星3つになってしまうくらいに。
そのため、この世界におけるハンター、あるいはクランの知名度というのはレギオンの評価ではなく同職同士の評判で判断される。
例えば、習得しているジョブが希有なものであったり、レベル不相応の強さを有していたりといった具合に。
つまり、何が言いたいのかと言うと...
「フィルとルーシィ、あんたたち一体何者なの?」
「僕も気になるね。そのレベルで僕たちが苦戦する相手を顔色も変えずに一蹴する戦闘力。」
(まぁ、そうなるよなぁ)
結論から言うと、俺は今の段階でハンターとして名を上げるのは時期尚早と考えている。
デッドリーパイソンに余裕で勝てる程度では、俺が満足する強さの基準にはまだ程遠い。
残酷な話だが、プレイヤーキルに制限がないこの世界では、モンスターだけが敵とは限らない。
だから、まだ名を馳せるつもりの無い俺としては、今回のレイドクエストでも俺の能力とルーシィの特殊弾丸については秘匿にしておくつもりだった。
だが、決断が遅ければ1人2人は死傷者が出ていたのは間違いない。
「分かっているとは思うが、俺たちはもともと首都でハンター活動をしていたパーティーじゃない。越してきたのもつい数日前だ。」
「それは分かるわ。あたしもルードも、何年も首都で活動してるけど、あんた達の存在は今まで見聞きもしなかったもの。」
「元はもっと遠方の土地でハンターをしていたんだが、とある事情があって拠点を変える必要に迫られてな。その理由ってのが...」
「剣聖のジョブ持ちと、不可思議なガンナーのアビリティが関係してるってことかな?」
「まぁ、そんなところだ。俺のジョブはともかく、弾丸の方は条件さえ整えればガンナーなら誰でも運用出来る。もうある程度分かるだろ?」
「運用方法を知るために、つけ狙われる事態が発生したってこと?」
「そうゆうことだ。“フラワー”のように、人に使用するには躊躇われるような代物がまだあるからな。だから、俺たちが特異な力を有していることは、秘密にしてくれると助かる。」
ルーシィは黙って俺の作り話に付き合ってくれている。
時折うなずくようにリアクションを取るあたり、演技の才能は充分だ。
「事情は分かったわ。私は面倒ごとが嫌いだから他言するつもりはないわ。」
「僕も、秘密を破ってまで危ないところを助けてもらったからね。その恩を反故にする気は無いよ。」
「理解が早くて助かる。事情を知ってる同僚がいるといろいろ助かりそうだ。」
別の国から逃げてきた云々に関してはもちろん作り話だが、俺たちの技術が他者に盗まれるリスクを危惧している部分は本当だ。
嘘には半分事実を混ぜろとはよく言ったものである。
多少リスキーではあるが、首都で活躍しているハンターの一部にコネクションが出来たと考えることにしよう。
ルードとルイーズの口の堅さがどれほどのものか定かではないが、彼らの実力については申し分ないレベルだ。
「討伐報告をする必要があるから、ミステリードールズのリーダーには今日の事を説明してもいいかしら?もともと口数が多い人じゃないから、秘密に関しては大丈夫だと思うけど。」
「構わない。そもそも露見する可能性がありながらレイドクエストに参加したのは俺達の判断だ。仮に君たちが発端で首都に噂が広まったとしても、最初から責めるつもりはないさ。」
「そうなったらまた別の街に行ってしまうんだろう?僕としては、今後もいろいろと協力して欲しいからフィル達には全面的に協力するつもりだよ。そうでしょ、ルイーズ?」
「...まぁ、イネスの危ないところを助けてくれたのは事実だし、リーダーにも私からフィル達の能力のことは他言無用って言っておくつもりよ。」
「相変わらず素直じゃないね。」
やれやれと手を上げるルードと、ふんっと腕を組んで視線を逸らすルイーズを見て、少しだけ笑みが零れる。
世界が変わっても、こうゆうやりとりは嫌いじゃない。
その後、レギオンに戻りそれぞれの報酬をもらい、レイドパーティーは解散となった。
その際に聞いた話で、“俊傑のカリスマ”のルードと“冷淡賢哲”のルイーズと呼ばれる有名なハンター達であったことが判明した。
帰りにジェイドの店に立ち寄り、レイドクエストで銃弾が活躍した事を報告した。
「ガッハッハ、結局人前で使っちまったのかよ!」
「目の前で人が死ぬのを見過ごす訳にもいかないだろ?」
「でもよ、使わなくたっておめぇなら何とかできたんじゃねぇのか?」
「そうかもしれないが、温存した上で確実に助けられた保証はない。保守と出し惜しみは別物だ。」
「まぁ、フィルがいいなら別に何でも構わねぇさ。」
「銃弾は最高の出来だったと、アッシュに伝えといてくれ。」
そう言い残して、ジェイドの店を後にした。
「今日のフィル、生き生きしていたわよ?」
夕食の準備をしながら、ルーシィが俺に向かって言ってきた。
「大人数で挑むコンテンツってのは楽しいもんだ。ルーシィも似たようなもんだろ?」
「新しい戦い方は私にとって新感覚の連続よ、楽しくない訳がないわ。新しい技も試すことが出来たしね。」
腰に下げたポーチから、弾丸を1つ取り出してこちらに見せながらルーシィは言った。
「くどいようだが、原則人目があるところでの使用は控えるようにな。まだ在庫に余裕がある訳じゃないから、通常時の使用もほどほどに頼む。」
「分かってるわよ。」
うれしそうに弾丸を仕舞うと、また夕食の支度の続きに戻った。
ルーシィの夕食を待っている間に俺は、変異種の素材を使用したちょっとしたクラフトを試していた。
「変異種の素材は、通常種の素材と同じように使用できるのか。その場合、完成するクラフト品には通常種の素材で作成した場合にはない特殊効果が付くと...」
「何ぶつぶつ言ってるの?」
「クラフトの高みがまた見えてきたのさ。変異種の素材で作ったクラフト品は、普通よりいいものができるみたいだ。」
「へぇー、デッドリーパイソンだとどんなのが出来るの?」
「ほとんどルードとルイーズにあげちまって皮しか残ってなかったんだが、試しに財布を作ってみたら麻痺耐性が付いたぞ?」
「...あんまりいらないわね。」
耐性効果は装備して初めて効果を発揮するが、貴重品はインベントリに入れて持ち歩くこの世界では役に立たない。
2人で微妙な顔になった。
「麻痺耐性が付くってことは、あの変異種が麻痺の状態異常も使用してきたことに関係あるのかしらね?」
「可能性は高いな。だとしたら、通常種が本来持っていない特性を、クラフト品にした際に効果として得られるかもしれない。」
「毒と麻痺のコンボは厄介だったわね。耐久力も高かったけど、2種類の状態異常を使うように変異するなんて、何があったんでしょうね?」
「生体濃縮って言ってな、特定の物質が特定の生物の体内で蓄積されると毒素に置き換わる場合がある。麻痺は言い換えれば“神経毒”だ。ドロッセア湖蝕洞内の環境は、デッドリーパイソンに通常とは異なる毒を生成させる条件が整ってるってことだな。」
「なるほどねぇ、物理も魔法も効きづらかったのは何故か分かる。」
「おそらくだが...毒を持つ生物は、自らの毒に侵されないように細胞の作りが特殊な構造をしている場合がある。デッドリーパイソンの物理防御の高さは外皮を覆う鱗によるものだが、通常種と異なる表皮細胞が魔法耐も向上させていたのかもしれない。」
「奥が深いわねぇ。」
「あくまで仮設だが、別途レギオンに報告する必要があるな。ドロッセア湖蝕洞で成体化したバイソンイマーチャーは、少なからず変異種になる可能性があるってことだ。生態調査を改めてする必要があるだろう。」
「物理も魔法も効きづらくて、状態異常も使うモンスターなんて気軽に表れていいものじゃないですものね。」




