優男の聖騎士と安気な賢者
ドロッセア湖蝕洞
フィンデンスタインの北部にはドロッセア湖と呼ばれる大きな湖が存在し、湖に隣接する崖の一部が浸食されて生まれた洞窟がドロッセア湖蝕洞である。
今回のレイドクエスト受注者は現地で顔合わせということになっているので、ルーシィと共に向かっていた。
ルーシィと出会った時から、俺たちもそれなりに強くなった。
特に、ルーシィの成長が著しい。
俺のアビリティによるステータス向上と、エクストラジョブの補正の相乗効果によって、レベル不相応な能力値を叩き出している。
いまさらだが、俺は再び“グラディウス”のジョブを習得するつもりだ。
一番慣れ親しんだジョブであるし、バランスよく戦える前衛職として申し分ない性能のためだ。
ただ、クラフトに手を掛けたこととルーシィの成長の手伝いに本腰を入れていたこともあり、引き継ぎ恩恵を受けた状態でも未だ解放できずにいる。
それでも、そう遠くないうちに解放できる目途は立っているのだが。
まだ朝と言っていい時間の内に俺たちは湖蝕洞の入口へ到着した。
途中レギオンに寄って聞いた情報だと、今回のレイド参加パーティーは俺たち含めて3組らしい。
すでに5人ほど集まっているところを見ると、俺たちが最後の到着のようだ。
「こんにちは、僕は“潮騒の騎士団”のリーダーのルード。ジョブはクルセイダー、よろしくね。」
「あたしは“ミステリードールズ”のルイーズ。クランリーダーはお留守番で、選抜で2人参加させてもらうわ。」
ルードは見るからに聖騎士といった風貌のハンターで、ルイーズはハロウィンで見るようなマジカルハットを被っているあたり魔法系のジョブなのが見て取れる。
「俺は“シュタイフェ・ブリーゼ”のリーダー、フィルだ。よろしく頼む。」
自己紹介の後、お互いのパーティー構成について情報交換を行った。
ルードのパーティーはクルセイダー・シューター・ウィザードの3人構成で、ルイーズはハイキャスターとグリーマーの2人構成のようだ。
ルードのメンバーは、弓使い系上位ジョブのシューターの男性ベネディクト、魔法使い系上位ジョブのウィザードの女性マリーと言うらしい。
バランスの取れたパーティーだ。
ルイーズ側のもう一人は、プリースト系上位ジョブのグリーマーの女性イネスと言うそうだ。
ハイキャスターが魔術士とプリーストの複合ジョブなので、かなり回復に寄った構成だ。
俺たちが言えた義理ではないが...
ただ、クルセイダーにハイキャスターとそれぞれのパーティーリーダーが複合ジョブ習得者なのは流石と言ったところか。
「今回のレイド攻略の指揮権は誰が取ろうか?」
「あたしは無理かな。詠唱中は指示とか出せなくなっちゃうし。」
「問題なければ、ルードがやってくれないか?レベルもあんたが一番上のようだしな。」
複数パーティーで同一の個体を討伐するレイドクエストは、それぞれの連携を行うために総指揮官を設定するのが普通だ。
場合にもよるが、敵の状態や行動を把握しやすい前衛職が担うのが一般的で、ルイーズが言うように魔法職はジョブ適正上難しい。
俺がやってもいいが、レベルが向こうの方である以上はまずは薦めるべきだろう。
仮にもクランを預かる立場にあるならば、そこらへんはしっかりしていると信じたい。
「じゃあ、僕がレイドリーダーを預からせてもらうね。基本陣形として、僕とフィルが前衛、ルシエールとベネディクトが後衛、その間に入るようにマリーとルイーズとイネスでそれぞれ配置してくれるかな。戦闘中は適時指示を出すから。」
「分かったわ。」
「了解した。」
一通りの作戦会議を終えて、洞窟内に侵攻を始める。
水の浸蝕作用で生まれた洞窟のため、洞窟内部の壁面と床は一般的な洞窟の様なごつごつした岩肌が露出している物とは異なり、鍾乳洞のようにつるつるしたものになっていて神秘的だ。
それでも、ダンジョンであることに変わりはないので水棲系のモンスターがよく出現する。
幸い、レイド参加パーティー全体の平均レベルが高いだけあって道中は苦戦することなく進行していた。
「君のパーティーのルシエールはすごく強いね?まだ60レベルにも満てないのに、僕やベネディクトよりすでに火力が高いなんて。それに、魔術師とガンナーの複合ジョブなんて、初めて聞いたよ。」
「正確にはウィザードとガンナーの複合ジョブだ。それだけが条件じゃないけどな。それに、ベネディクトはともかくお前は純粋な火力職ではないだろ?」
「確かにそうだけど、40近いレベル差を覆すのは難しいと思うよ。」
前衛同士ということもあり、自然とルードと話す機会が多くなる。
俺たち以外はみんなすでにレベルは100近いらしいが、ルードの言うようにルシエールの殲滅力は群を抜いて高かった。
それこそ、前衛が今の様な会話を戦いながらすることが出来るくらいには。
「あんたも、60レベルそこらにしては随分と頑丈じゃない?ここのダンジョンの適正レベル帯は、本来あたしたちくらいのはずなのに、さっきから盾で防御しようとすらしてないじゃない?その大盾は飾りか何かなの?」
ルイーズが後ろから声をかけてきた。
例に漏れず彼女たちもすでに100レベルに近い。
「防御力には自信があるんでな。別に盾受けしなくてもダメージを受けないって途中で分かったから、それなら攻撃に集中した方がいいだろ?」
「そういう問題じゃないと思うけど?まぁ、ボスのタゲをちゃんと取ってくれればそれでいいわ。」
ははは、とリードが乾いた笑いをしながらこちらに顔を向けてきた。
道中いろいろと聞いてみると、リードとルイーズは以前から知った顔のようで、ルイーズはかなりあっさりした性格だからと教えてくれた。
ルシエールも残りのメンバーと楽しそうに会話できているようだ。
もっぱら、ルシエールの珍しいジョブについて質問攻めにあっているようだが。
「そろそろ報告のあった場所に着くよ。各自HPとMPを回復して、支援職が全体にバフを掛け終わったら突入だ。」
号令に合わせて各自がポーションを飲み始め、ルイーズとイネスが強化魔法を唱え始める。
【セイントグロース】ステータス上昇
【コンセントレート】魔法攻撃力上昇
【フィジカルライズ】物理攻撃力上昇
【ディバインヴェール】被ダメージ軽減
【ナチュラルヒーリング】HP継続回復
バフを掛け終えた後、ルードと足並みを合わせて一回り開けた空間へ踏み入る。
「これは、爬虫類が苦手な人が見たら卒倒するだろうな。」
「僕もそんなに得意な方ではないんだけどなぁ。」
「聖騎士様が戦う前から泣き言を言っちゃいけないな。」
己が持つ毒の凶悪さを物語るような深紫に染まった体表のデッドリーパイソンと、それを取り囲むように蠢くパイソンイマーチャーが俺たちを出迎えた。




