第2のホーム
フィンデンスタインは、いわゆるモンスター産業によって首都の都市収入を支えている。
モンスター由来の素材を使用して作られた日用品は高価だが、それに見合うだけの性能を有する。
高価になる理由は純粋に素材の入手難度に起因し、冒険者は高値で売買できる素材の取引で生計を立てる場合が多い。
フィンデンスタインは四方をダンジョンで囲まれた都市であり、さまざまなモンスターの素材を入手することが可能だ。
結果、冒険者が集まることで、各種商店や宿屋の需要が高まり、モンスターの素材が安定して供給され、民間施設の設備が向上する。
モンスターを中心とした経済循環を体現した街である。
そのため、圧倒的に冒険者の数が多く、レギオンの規模も広大だ。
そのレギオンの一角の斡旋所で、俺たちが希望する物件を探すべく受付で話を聞いていた。
「冒険者様のご希望に沿うものをピックアップしてご紹介しますので、どのような条件がご所望か簡単でも教えていただけますか?」
斡旋の担当の職員にそう言われ、俺とルーシィは各々の意見を答えた。
「最大で3~4人が快適に生活できる規模で、錬金や鍛冶を行う拠点としても使用する予定だから、工房か地下室が設置してある物件で頼む。」
「銃の練習をしたいから、広いお庭が欲しいわねぇ。広い脱衣所があって、キッチンとリビングは一体になってるほうがいいわ、2階建て以上にして頂戴、平屋はダメよ? それから...」
「あの、あまり絞られると該当する物件がなくなってしまいます...」
ルーシィのマイホーム理想論に付き合うとキリがないので、最低限、庭があって2階建て以上の物件で妥協することとなった。
それでも条件に合う物件は1つになってしまったのだが、この物件が非常に好条件だ。
木造の2階建てで、広い庭があり、錬金と鍛冶両方の設備が整った工房が設置されている。
幸いなことに、広い脱衣所もありキッチンとリビングも一体型だ。
過去に、クラフターだけで集ったクランが、専用の拠点として使用していた物件のようで、現在はそれぞれ独立して各地へ開業することとなったため売りに出されたらしい。
冒険者が使用していた拠点ではないので、人死の話がないのもグッドだ。
これだけ好条件の物件に買い手がつかないのは、首都中央部から離れた南側の郊外に立地しているからだと斡旋の担当官は言う。
南地区の郊外は、外壁に囲まれた首都の中でも自然が残された地区になっている。
都市内の一部緑化計画として、意図的に木々や小川が残されており、整備されていない道路がほとんどだ。
つまり、中央部との荷物のやり取りのアクセスが悪く、商業的な施設の数も少ないため、売りに出された物件の買い手も付きにくいと担当官は嘆いていた。
「この家にしよう。環境も物件も最高だ。」
「とてもいいお家だけど、中央部まで行きづらいのは、やっぱり不便じゃない?」
「それについては考えがある。それに、孤立した一軒家なら銃の練習や鍛冶をしても、周りからクレームを言われる心配もないしな。」
「確かに、そういう事なら私も賛成よ。木漏れ日が差し込むようなナチュラリズムな生活。素敵だわ。」
「それでは、レギオンに戻って譲渡の手続きを致しましょう。」
レギオンに戻り売買契約の取引を済ませるころにはすでに夕刻近くなっていたので、新たに俺たちの拠点となるホームへとそのままとんぼ返りした。
「中央部のレギオンに行って帰ってくるだけで相当時間がかかるな。危うく今晩の寝床も確保できないまま1日が終わるところだった。」
「考えがあるって言ってたわよね?どうするの?。」
「個人用の乗り物をクラフトするつもりだ。この世界じゃ普及していないみたいだが、便利だぞ?」
飛空艇クラスになると作成できるのはまだ先だが、バイクの様な乗り物はすでに作成できる状態であった。
ゲーム時代には、ライドアイテムと呼ばれるフィールド移動時の速度上昇効果のあるアイテムのレシピが存在していた。
主に課金特典やイベント報酬で手に入るもので、もちろんすべて制覇している。
現段階では、中央部とホームを行き来するためには駅馬車か鉄道を使う必要があるが、どちらも、運航ダイヤが決められている、自分たちの目的地以外を経由するというデメリットがある。
バイククラスのライドアイテムなら作成にそこまで手間もかからないので、俺とルーシィの分くらいなら早々に作成することにしよう。
ホームに到着した後は、俺は工房の設備の確認、ルーシィは間取りを再確認しつつ必要な家具をリストアップすることとなった。
ファンタジー小説によくある、長年使用されていなく至る所が埃とクモの巣まみれということはなく、いつ買い手がついてもいいようにということでレギオンが定期的に管理しているため、室内は殺風景だがきれいな状態である。
ゲーム時代のクランホームに使用していない家具がインベントリに引き継ぎで残っているのだが、大半が大規模ホーム用の大サイズなものばかりで設置できなかった。
それでも、ソファとベッドは何とか確保することが出来た。
「何とか、第一目標はクリアできたな。俺たちの新たな生活拠点を確保だ。」
「私たちの家って響きだけで、心躍るわね。どこに何を置こうかって考えるだけでワクワクするわ。」
今のところソファしかないリビングで、俺たちは自分たちのホームを手に入れた余韻に浸りながら、今後の予定を話すことにした。
「明日は、また中央部に行って家具選びをしよう。まずは、ホームの内装を整えるところからスタートだ。」
「そうね、フィルなら買った家具をインベントリに収納できるし、せっかく共同生活がスタートするんだから家具は一緒に選ばないとね。」
この世界の住人は全員インベントリを所有しているが、その収納量には個人差がある。
DEXの能力値に比例して、収納許容量も増加するようになっているため、弓使いや盗賊などのDEXが伸びやすいジョブほど、携行可能なアイテムが多いことになる。
収納可能な量は、個数ではなく重量と大きさを基準にしているようで、イメージとしては、各個人が別の空間に重量制限のある収納スペースを持っていて、そこに収まる分ならアイテムを出し入れできるようなもののようだ。
ところが、俺の場合はインベントリへの収納は純粋に個数を参照する。
これは、ゲーム時代の仕様のままで、アイテムの重さ・大きさに関わらず1個とカウントして1つの項を使用するという具合となり、同アイテムなら99個までスタックすることが出来る。
引き継ぎ特典で、”項数“に当たる部分を増やしてもらったので、インベントリが埋め尽くされるようなことは今後よっぽどのことがない限り無いだろう。
「そうだな、熟練のアーチャーでも家具クラスは複数収納することは出来ない。本来なら配送を依頼して運んでもらうものだ。インベントリから出せば設置も楽だしな。」
「ホームがひと段落したら、その後はどうするつもりなの?」
「俺は早速ライドアイテムの作成に取り掛かる。その間に、ルーシィはホーム周辺の立地や近隣の施設を見て回ってくれないか?ご近所付き合いは大事だぞ?」
「その時は、夫婦で越してきた者ですって自己紹介していいのよね?」
「...ほどほどに頼む。」




