クランリーダー
翌日から俺たちはフィンデンスタインの街へ向けて出発した。
サンクトスに来た時と同じように行商の馬車を捕まえて同乗させてもらう。
フィンデンスタインまでは、馬を休憩させつつ2日ほどで到着する。
(移動についても課題が残るな...)
街間を毎回行商人を捕まえて同乗させてもらうのもいいのだが、行商用の馬車の速度には限界があるので有事には使えない。
今後、海を挟んだ大陸間の移動も検討するとなると独自の移動手段を得る必要があった。
ハインヴィアには空力機関の概念がある。
中堅以上のプレイヤーは個人単位で移動用に所持していることがほとんどだったが、どうやらこの世界では個人所有の飛空艇は夢物語のようで、せいぜい大都市が公共用の移動手段として所持しているくらいのようだ。
実は、飛空艇製作のレシピもインベントリに残っているし、鍛冶レベルも製作に問題ないところまで上がっているのだが、やはり引き継がれなかった素材が足りない。
しかも飛空艇クラスになると要求量もそれなりなので、しばらくこの問題に関しては保留になりそうだ。
したがって、次にやることとしては
「今度は錬金に手を出すつもりなの?」
「ああ、消耗アイテムも自分で作れたほうが何かと便利だ。物によっては店売りは高いし、必要なものが欲しい時に購入できるとは限らないからな。」
「ほんとに多才ね。そろそろ驚くことにも疲れてきたわ。」
「俺とパーティーを組んでいる間は、なろうと思えばルーシィも人並み以上に多才になれるぞ?」
他人事のように言う彼女を尻目に戦闘用ポーションの作成を行う。
今はまだ下級の物しか作成できないが、最終的には最上級ポーションが量産できるようにならなくてはならない。
予想が正しければ、この世界で強力な武具や効果が高い消耗アイテムを必要十分量手に入れるためには、クラフタースキルを上げて自分で作成する必要があるだろう。
なぜなら、こちらではゲーム時代におけるプレイヤー間でのアイテムの売買と武具の作成代行というものが存在しない。
さらに、この世界の住人はクラフターとしての熟練度がいささか低い傾向にある。
一般的に考えれば、一歩間違えれば死に直結するモンスターの素材集めが必要になる中級以上のアイテムや武具の作成はそうそう行えるものではない。
素材アイテムの入手性と高等級アイテムの作成効率が見合わなければ、相対的に熟練のクラフターは希少なものになってしまうはずだ。
ならば、俺がクラフターもやればいい。
自分と身内の強力な武具の作成は優先度が高いプロセスの1つであるし、最上級ポーションもガンガン使っていくつもりだ。
話は戻るが、錬金スキルには“錬成”と“付与”の2種類がある。
錬成は素材から別のアイテムを作り出すスキルで、付与は特定の武具やアイテムに特殊効果を持たせるスキルである。
以前にルーシィに教えた“魔導付与”とは別の、“術式付与”が錬金術師の付与スキルだ。
ルーシィが戦闘で使用している“魔導付与”とは異なり、“術式付与”は対象となるアイテムに半永久的に特殊効果を加える必要があるため、必要な魔力も多く時間もかかる。
だが、その分高い効果が見込めるのが“術式付与”の特徴だ。武具の攻撃力や耐性を上昇させたり、属性攻撃に乏しくなりがちな近接職の武器に属性を持たせたりするといった具合だ。
どちらも将来的には必須になるスキルであるため、移動の時間も最大限有効活用するべく錬金を進める。
下級のHP回復ポーションを作成し、回復力上昇の魔法を付与することで、両方のスキルの熟練度を獲得する。
思えば、ゲームをプレイしていた時にプレイヤーから購入したポーションには漏れなく回復力向上の付与効果が付いていたが、熟練度稼ぎのためだったのかと自分がクラフターも目指すようになって知ることとなった。
「ねぇ、昨日の続きを教えて頂戴。別の世界にいた時のフィルの話。」
「...以前の俺たちにとってハインヴィアの世界は、仮の自分を生み出して別の世界を楽しむ娯楽の一環だった。ルーシィにとっては複雑かもしれないが、それを前提として聞いてくれるなら話そう。」
「かまわないわ。それに今のフィルは、このハインヴィアを楽しむために冒険しているんでしょう?」
「そうだな。つまらない前置きをして悪かった。」
当時、俺は“グラディウス”というエクストラジョブについていた。
素早さが高く剣術を得意とする近接ジョブだ。
俺たちのクランは“速戦即決”が好きなプレイヤーが多かったため、レイド戦にしてもクラン戦にしても積極的に参加し、短期決戦を行うプレイスタイルに重きを置いていた。
戦闘経験のない相手と戦うときに勝敗を左右する大きな要因を作り出す役割は、斥候だ。
小規模の防衛網なら突破し得る戦闘力を持ち、かつ相手の戦力を可能な限り味方陣営に伝え、可能であれば本隊合流後も前線の戦力に加わる。この精度が高ければ高いほど味方陣営の被害は減る。
クランを預かるものとして、身内の被害は最大限抑えたい。
そんな思いからその役割を引き受け、戦闘では常に最前線に立っていた。
幸い、いい結果を残せることが多く俺たちのクランは徐々に有名になっていった。
次第にメンバーも増え、ランク1位のクランになってからはその座を守るのに必死だった。
順位変動がかかった試合の度に夜が眠れなかった程に。
だが、それでも最高の日々だったのは間違いない。
気を許せる仲間と共に、次の試合に勝つための方法を試行錯誤し、死に物狂いで素材を集めてお互いの武具を作った。
それが、俺にとってはたまらなく楽しかった。
「10年近く前の話だ。俺がこっちに転生する時には、クランには誰も残っていなかった。時間が経つにつれてみんな引退していってしまった。」
「引退?」
「冒険者をやめるってことさ。最初にも言った通り、ハインヴィアは俺たちにとってあくまでゲームで、エンターテイメントには必ず終わりが来る。」
「フィルは、寂しかった?」
「当然だ。送別会を開いたり、最後のクエストに同行したりもしたし、みんながみんな笑顔で去っていった訳じゃない。ハインヴィアをやめたくなくて、涙を流しながらいなくなった人だっている。そんな仲間達をたくさん見送ってきた。」
「フィルはどうして引退しなかったの?」
「なんでだろうな、俺自身よく分かっていないがあえて言うなら... 漠然としてるが、ハインヴィアは俺の全てだった。もしかしたらそれが、俺がこの世界に転生した理由なのかもしれないな。」
その後、転生してマルトゥスの街に到着しルーシィと出会うところまで話して、俺の昔話は終了した。
「さて、ちょうどフィンデンスタインが見えてきたようだ。」
「大きな外壁ね。」
「マルトゥスの様な港町じゃなく内陸の都市で、東西南北どこから出てもダンジョンが存在する街のようだからな。強固な外壁に囲われた造りになっているんだろう。」
「街についたら最初にどこへ向かう?」
「レギオンに向かう。建売りや借家の斡旋をしているのも、レギオンの管轄だからな。」
「了解よ。」




