その名の意味
小さな町とはいえサンクトスにもレギオンの支部は存在する。
そのクエストカウンターで俺とルーシィはランドタートル変異種の討伐報告を行っていた。
クエストの難易度はボードに張り出された依頼書に記載されている星の数によって判断されるのだが、今回の一件で誤った難易度のクエストが張り出される可能性がある事が分かった。
難易度の設定は、依頼主からの依頼内容と、現地調査を行ったレギオン付きのハンターの報告を元に行われる。
そのため、今回のような討伐対象が突然変異種であることを事前に判断できる人間がいなかった場合などに難易度設定の誤断が起こり得る。
仕方ないと言えば仕方ないのだが...
「申し訳ございませんでした...お二人とも無事な上、討伐も完了されて戻られたのは不幸中の幸いです。」
「気にしてないから頭を上げてくれ。こちらとしても追加で報酬をもらえたわけだし、何より勝算があると見て挑んだのはこちらの判断だ。」
深々と頭を下げる受付嬢から謝罪を受けていた。
「本当に大丈夫よ。私たちも得る者がたくさんあったし、ね?」
ルーシィが俺に相槌を求めながらフォローを入れる。
「そう仰っていただけると助かります。お二人の様なハンターが、今回のようなクエストを受けていただけると、レギオンとしてもありがたいんですけどね。」
苦笑いをする受付嬢に挨拶をして、俺たちは宿への帰路についた。
「随分と腰の低い態度だったわね。難易度設定の間違いで命を落とすハンターもいるからしょうがないのかもしれないけど...」
「実際、レギオンの不手際を棚に上げて追加の報酬をふんだくろうとする輩はいるんだろうさ。依頼したハンターが命の危険にさらされた手前、レギオン側も強気には出れないんだろう。」
「そうは言ってもねぇ。」
「言いたいことは分かる。依頼を受けるのが人間なら依頼を出すのも人間だ、必ず間違いは起こる。要は狭量の問題だ、と俺は思っている。そのために、追加報酬制度がある訳だし極端な話無理なら諦めればいい。」
(マルトゥスの時といい、この世界のレギオンは立場が弱い傾向にある気がするのだが、大丈夫なのだろうか...)
一抹の不安を覚えつつ、宿へと向かうのだった。
宿に到着し、早速今回の戦闘で得たルーシィの新しいジョブについての話となった。
「ルーシィは、“エクストラジョブ”について知っているか?」
「“エクストラジョブ”?聞いたことないわ。」
「前提となるいくつかのジョブの熟練度を一定値以上満たした上で、特定のアビリティを習得していると開放されるジョブのことだ。上位ジョブよりも強力なステータスへの補正がかかる上に、ジョブを開放した段階で専用武具が手に入る。インベントリに入ってないか?」
「あるわ、“魔導銃グランバルド”ですって。」
「そいつは、ルーシィがやっている“魔法を付与する核を魔法で作り出す”という動作を、引き金を引くだけで行ってくれる銃だ。逆に実弾を撃つことは出来ないが、任意の魔法を付与するだけで魔法弾を撃つことが出来る。」
「すごいわね、カウリールと使い分ければ実弾と魔法弾両方が運用出来るわ。」
「魔導銃士の固有スキルには【双銃使い】ってのがあってな、2丁持ちが出来るぞ?」
「私がそんなスタイリッシュな戦い方をするなんて、ちょっと恥ずかしいわね。」
グランバルドの利点は、核の生成・魔法付与・射出の一連の動作にかかるタイムラグを無くせること、核の生成にMPを消費しなくていいことにある。
カウリールから魔法が付与された実弾が飛んでくる可能性が残っている以上、対人戦の幅は今まで以上に広がるだろう。
「前から不思議だったのだけど、フィルはなんでこんな事を知っているの?レベルは私と同じくらいだから、何年も前からハンターをやっているわけではないでしょう?」
(ルーシィとの今後の関係性を考えると、これ以上秘密にしておく必要もないな)
「ちょうどいい機会だ、ルーシィには俺の事を詳しく話そう。」
別の世界から来たこと、以前はこの世界をゲームとしてやっていたこと、ゲーム時代には常に環境のトップにいることに全力を尽くしていたことをすべて話した。
「嘘みたいな話だけど、今までの事を考えると信じるしかなさそうね。エクストラジョブの存在なんて、おそらくこの世界では誰も知らないし。」
「そうなのか?」
「認知されているジョブのほとんどは、レギオンで習得条件が開示されているのよ。それに載っていないなら、どこかの誰かが偶然開放して秘匿しない限りは、世に出回っているはずだわ。」
「なるほどな、であれば大いに活用させてもらおう。他人の知らない情報を知っているというのは、それだけでアドバンテージだからな。」
「異世界からの来訪者ねぇ。“踏破者の心得”ってスキル名も合点がいくわね。」
「正直俺の能力については、俺自身未知数に感じているとこがほとんどだ。今回も条件が分からないままアビリティが手に入ったし、既存のアビリティが変化するなんてのも今まではなかったからな。」
「【アーリーシフト】と【マス・コンダクター】でしたっけ?戦闘中の無制限ジョブチェンジに、パーティー時の大幅な能力値上昇と戦闘報酬ボーナスって、どちらも反則的だわ。」
しばらくは少人数で戦闘を行っていかなくてはならない俺たちにとって、【アーリーシフト】の習得は本当にありがたい。
戦闘中のジョブチェンジを行った際のクールタイムは、一人が複数の役割を行う際の足枷になる要因だったが、今後はその心配もなくなりそうだ。
今回の戦闘でルーシィが“魔導銃士”を開放できたのも実のところかなりラッキーだ。
おそらく、【マス・コンダクター】のパーティーメンバーの獲得報酬増加効果がランドタートル撃破時から適用されていたのだろう。
この効果を最大限使って今後の目標を立てることとしよう。
「さて、明日からの行動予定だが、フィンデンスタインに向かう。」
「首都ね、なんとなく予想はしていたわ。」
「当面の俺たちの目標はレベル上げだ。首都近郊は各レベル帯のモンスターが出現するダンジョンが豊富に存在するから、段階的にレベルを上げるのに最適だ。強力な能力を持っていると言っても、俺たちのレベルはまだ駆け出しに毛が生えた程度だからな。」
「今度はどのくらい滞在するの?」
「決めていない。が、宿ではなく借家を借りるか場合によっては一戸建てを買う予定でいる。今度の滞在は、ハンターとしての実力を申し分無いレベルまで上げることと、行動拠点の確保も兼ねているからな。」
「わぉ、ついに同棲生活スタートね。」
「絶対言うと思った...何か意見はあるか?」
「賛成よ、首都からなら何か目的が出来た時他の場所へのアクセスもしやすいしね。」
冒険らしくなってきたな。
この世界のフィンデンスタインが拠点にするのに向いていないと判断したなら、家を引き払って再び旅に出ればいい。
引き継ぎ得点のおかげで、資金には困っていないしな。
「ねぇ、フィルが元居た世界の事を教えてよ。」
「明日から長旅なんだから、その時にゆっくり話してやるよ。」
「少しくらい、いいじゃない。」
(そう言われても、何から話したもんか...)
「そうだなぁ、俺の本当の名前は“入間 風吾”って言うんだ。一部を抜き出して順番を入れ替えて“フィル”だ。安直だろ?」
「素敵な名前だと思うわ。」
「ありがとう。俺が元居た世界で、ルシエールは“天空・大空”を意味する言葉だ。君の名前の方がよっぽど素敵さ。」
だから、俺は彼女に「駆ける」を意味する“カウリール”の名を付けた銃を渡した。
“創意工夫”の花言葉を持つクレマチスの花を装飾に施して。




