マルチシューターとマルチスタイル
「俺が知っているランドタートルとは様子が違うな」
「あのモンスターを知っているの?」
「ああ、本来は最低でももう二回りは小さくて、鉄のように鈍い鼠色のはずなんだがな。」
「ということは、突然変異種ね。いつまでたってもクエストがクリアされないわけだわ。」
「突然変異種?」
俺が知らない情報が新たに出てきた。
ゲーム時代には、モンスターの名称は同じなのに風貌や体格が異なるということはなかった。
「何らかの理由で、通常とは異なる特性や耐性を身に付けた個体の事よ。大体の場合、普通より厄介になるわ。」
「見れば大体分かるが...なるほどな、こいつは森に不法投棄されたゴミやら排水を摂取した結果変異した個体らしい。」
鑑識眼の効果が発揮される。
考えてみれば、有体な話だ。この世界では習慣や環境がリアルに反映されるようになっている。
環境汚染という現象が起こり得るのも当然だろう。
「今回の場合は、サンクトスとマルトゥスを行き来する行商人が、不要になったゴミや期限の切れたポーションを森に投棄したのが原因ってところか、生々しい話だ。」
「どうするの?」
「もちろん戦うさ、強敵が難敵になっただけだ。俺がパラディンでいる間は、なるべく離れずにいてくれ、アサルトナイトの時は射線が被らないようにしつつ各個攻撃だ。ランドタートルは物理耐性が高いから、実弾はあまり使うなよ。」
「了解したわ。先手はもらうわね!」
ルーシィが俺の横から【ボルテックス】を付与した魔導弾を放つ。
相手が気付いていない初手に高威力の攻撃を当てるのは基本だ。
だが、どうやら効きは悪いらしい。
変異のせいで雷属性耐性は上がっているらしい。
「水棲生物特融の雷弱点という考えは捨てたほうが良さそうだな、来るぞ!」
「ギュアァァア!!」
カミツキガメのような顔が怒りの形相に変わり、咆哮と共に大きな口を開くと炎の魔力を収束させた。
その直後、成人と同じくらいの大きさの火球を放ってきた。
「炎属性の攻撃とは、もうめちゃくちゃだな。」
【不退転の構え】
一定時間、自身の攻撃力の一定値を防御力に変換する
【ワイドカバー】
範囲攻撃を防御した際に、メンバーへの被害を軽減する。
2種類のスキルを発動させ火球を大楯で受け止める。
問題なく防御できるレベルだ。すかさずアサルトナイトにジョブチェンジする。
片手剣と大楯のスタイルから、両手剣へと装備を変更する。
立ち込めた白煙の中から飛び出しランドタートルを強襲する。
ランドタートルは巨大な牙で応戦しようと噛みついて来ようとするが、足元から岩がせり出しバランスを崩した。
ルーシィが【ロックブレイク】を付与した弾丸を地面に打ち込んでいた。
「最高のタイミングだっ!」
ジャンプして集めた力を、降下の勢いに合わせて振り下ろす斬撃技【バーストグレイブ】を発動させて、バランスを崩したランドタートルの側頭部に叩き込む。
完璧に決まった一撃だが、元から高い物理防御力のせいで勝負が決まるほどのダメージにはならず、体勢を立て直したランドタートルとのにらみ合いに戻る。
戦闘中は、ジョブチェンジを行った後に30秒のクールタイムが発生するため、すぐにパラディンに戻ることはできない。
ランドタートルが再び口を開けて炎の魔力を充填させる。
「苛立つのは勝手だが、俺だけ見てると危ないぞ?」
横から魔法の弾丸が軌道を変化させながら飛来し、大口を開けたランドタートルの顎の下に着弾した。
同時に、着弾点が炸裂し反動で口を閉じたランドタールは自ら練った炎の魔力で口内を焼くことになった。
「随分とうまくなったもんじゃないか。」
「明後日の方向を向いて悠長に魔力を練ってる奴の顎を撃ち抜くなんて、簡単だわ。」
多少傷ついた様子を見せたランドタートルは、標的をルーシィに変えてその容姿と体格からは想像できないスピードで突進し始めた。
再びジョブをパラディンに戻し、大楯を装備し直してルーシィとの間に割って入る。
【ファランクス】を発動させて突進を受け止める。
体格差故に数メートル後方に押し出されたが、ランドタートルの前進を止める。
モンスターの敵視を上昇させ、自分に狙いを集中させるスキル【プロボーグ】を使用し、俺との力比べをランドタートルに強制させる。
その隙に、ルーシィが魔法弾をランドタートルに撃ち込み続ける。
(いいぞ、パターンにはまればこっちのもんだ)
大量の魔法弾を食らったランドタートルは軽くのけぞり痛がるモーションを見せ、その巨体を丸々格納できる甲羅へと身を隠した。
アサルトナイトにチェンジし、防御を固めたランドタートルへ追撃すべく肉薄する。
だが、直後に前足に魔力を溜めた状態で勢いよく再び四肢を出現させ、その勢いのまま俺を踏みつけようとしてきた。
【カウンタースラッシュ】を発動させる為に、振り下ろされる足に向かって剣を水平に構える。
だが、足は途中で起動を変えて俺の横へと振り下ろされ、踏み抜かれた大地が衝撃を纏ってルーシィ目掛けて飛んで行った。
(こいつ...フェイントをかけやがったっ!!)
「ルーシィ、避けろっ!!」
だが、俺のカウンターに合わせて攻撃を重ねようとしたルーシィは攻撃の準備動作に入っており避けることができない。
(くそっ、クールタイムでパラディンになることができない!)
“アビリティ 【アーリーシフト】を獲得しました。”
(このタイミングでアビリティ!?しかもこの効果は、どっかで神様でも見てやがんのかよ!)
両手を交差させ攻撃に備えていたルーシィの目の前に、“パラディンとなって大楯を装備した”状態で立ち塞がる。
【固き血の守護】
メンバーをターゲットとした攻撃が発動された時、一定量のHPを消費して、該当のメンバーの前に移動して防御態勢を取る。
地を這う衝撃破を受け止め、ルーシィに指示をする。
「次に俺が一撃を加えたら、さっきみたいに【ロックブレイク】であいつの足元を撃ってくれ。」
そう言って俺はランドタートルへ駆け出し、頭部へ【シールドバッシュ】を叩き込む。
同時に、ルーシィが【ロックブレイク】を付与した弾丸を足元に再び打ち込んだ。
短い時間スタンの状態異常となったランドタートルが、再び岩でせりあがる。
ランドタールは意識を失っているため盛り上がる岩にされるがまま体を傾け、ついには最も防御の薄い腹の部分を露出させた。
“アサルトナイトになり両手剣を準備していた”俺は、弱点目掛けて渾身の連続突きスキル
【サヴェージストライク】を使用する。
「ギュヤァアァァ...」
お腹側から複数個所貫かれたランドタートルは、力ない断末魔を残し息絶えた。
「必死過ぎて途中から話す余裕もなかったけど、何とか勝てたわね。」
「そうだな、これだけの強敵だ、経験値も期待できそうだ。」
俺とルーシィはお互い座り込みながら、それぞれのステータス画面を眺めた。
「フィル、新しいジョブが解放されたわ!しかも聞いたことがないジョブよ!“魔導銃士”ですって。」
「おめでとう、ルーシィ。最終ステップクリアだ。」
そう言った俺のステータス画面にも、以前とは異なる表記があった。
(アビリティが変化するなんて、聞いたことないが...まだまだ知る必要がある事は多そうだ)
〇アビリティ 【アーリーシフト】を獲得しました。
ジョブチェンジと装備変更を行う際のディレイとクールタイムを無効にする。
〇【アジテーター】が【マス・コンダクター】へ変化しました。
(自身がパーティーリーダーの状態にある場合、全能力値が50%上昇する。)
(自身がパーティーリーダーの状態にある場合、パーティーメンバーの能力値に自身の能力値の30%を加算する。)
New パーティーメンバーの獲得する経験値と装備熟練度にボーナスが発生する
New 戦闘中に限り、当スキルの自身とメンバーの能力値上昇効果が上昇する




