遠くからでも
ルーシィに制作したばかりの1丁の銃を手渡す。
マスケット銃のような形状をしているが、回転弾倉式のリボルバー銃だ。
バレルとストック部分は木、マズルから銃身の上部全体に銀色のカバーを装着し、クレマチスの蔓が巻き付いて花が咲く装飾を施してある。
「明日からルーシィにはガンナーのジョブの習得とレベル上げをしてもらう。」
「私が習得した魔導弾に関係があるってことね?」
「そういうことだ。君が習得した魔導弾は、核となるものに魔法を付与して放つもので、その核は魔法で作り出したものでも“実際の弾丸”でも問題はない。さらに、通常のガンナーとしても立ち回ることができれば、ルーシィは遠距離物理・魔法両方を扱うことが出来るハンターになる。」
「素晴らしい話だけど、そんなにうまくいくかしら?」
「それは頑張り次第だ。両立することが出来ればこの先必ず役に立つ。モンスターに対しては相手の魔法・物理防御の高さによって攻撃種別を切り替えられる。対人においては、向かってくる弾丸が実弾なのか魔法弾なのか分からないっていうのは脅威になる。ガンナーと魔術師を複合させた存在は、それだけ強力なんだ。」
「まるで知っているかのような言い方ね?」
(知っているし、実在するからな。いや、実在したといったほうが正しいか...)
ルーシィの場合は、アビリティの効果も相まって弾丸に付与せずとも自分で生み出した魔法の核に魔法を付与して撃ち出すことも可能だ。
彼女なら俺が考えている高みまで必ず上ってくれるはずだ。
「それで、この素敵な銃の名前はなんて言うの?」
「“カウリール”だ。」
翌日、俺たちはサンクトス周辺のモンスターが出現するフィールドに来た。
「今日から俺も特訓に参加する。俺はレベル上げとスキルの獲得、ルーシィは銃を使った戦い方に慣れつつガンナーのジョブ解放を目指す。まずは敵に弾を当てられるようになる事からだな。」
「道のりは遠いわね。」
「そう言うな。誰だって最初は初心者っていう意味で、俺たちは“ノービス”なんだから。それじゃ開始だ。」
この世界に来て一番ゲーム時代と異なる点は、モンスターの出現する分布だ。
店売りの武具の時も話したが、“物語の後半になるにしたがって”という配慮がこちらでは必要ない。
駆け出しのハンターからしてみれば、街から出た瞬間に自分の何十倍と強力なモンスターにいきなり遭遇するなど、たまったもんじゃないだろう。
つまり、基本的にはモンスターはどの街でも周辺では弱く、遠い場所に行けば行くほど強力な個体が出現するようになっている。
レベルの上がりやすい俺は無理をして強力な個体を倒す必要はないし、ルーシィは武具の熟練度を上げることが第一優先なので、周囲のモンスターで事足りる。
武具の熟練度上昇は、どれだけその武器種を“使い込んだか”の値なので、倒すモンスターのレベルは関係ない。
「ルーシィのやつ、もうかなり高い精度で弾丸を命中させるようになってやがる。」
効率を上昇させるために、少し離れた位置でそれぞれ狩りをしていた俺は、1時間経過したくらいのタイミングでルーシィの様子を観察した。
DEXの値がなかなか高いということもあり、銃の扱いに慣れてきたならば命中精度に問題はなさそうだ
(それに、教えようと思った戦法も何も言わずに実践するとは...脱帽だな)
ガンナーにとって、最大の短所はリロード時に生まれる隙だ。
だが、魔導弾のスキルを持っているルーシィは“実弾が無くても魔法弾を生成して放つ”ことが可能だ。
リロード時も受け手に回ることなく攻撃継続可能なことが、優秀なガンナーの条件でもある。
魔法に魔法を付与して撃ち出すというプロセスを自然に行うことが出来るよう、ここ数日はルーシィにそれだけを特訓してもらった。
弾倉に弾を込めつつ魔法球を生成して術式付与して放つという並行処理なんて、普通なら思いついても誰もやらないだろう。
声を掛ける必要はなさそうだと判断した俺は、自分の特訓に戻った。
宿に戻った俺たちは、今日の成果について話し合っていた。
「すごく新鮮な感覚ね、今までと違う戦い方をするのって。狙った場所に撃つのってとても難しいわ。」
「その割にはバシバシ当てていたじゃないか。魔導弾もうまいこと活用していたみたいだし。その調子で武器の熟練度をどんどん上げてくれ。」
「フィルじゃないんだから、そんなにすぐには上がらないわよ。フィルはパラディンの熟練度を上げているの?」
「基本的にはそうだが、剣術スキルも上げている。さすがに防御一辺倒じゃきついだろうしせっかくのSTRを無駄にしたくないしな。」
「いいじゃない、防御特化で私を守る騎士様になってくれたって。」
「多少攻撃にウェイトを傾けても、ルーシィを守るのに問題ないさ。」
「騎士になるってのは否定しないのね。」
彼女は少し赤面しながら言った。
「パラディンに攻撃するときは、カウンターに気を付けろよ?」
ささやかな反撃が、今日は成功した。
「いずれにしても、後2日はお互い今日と同じように特訓だ。最終日は街のクエストを1つ受注する。気になるクエストを1つ見つけたんだ。」
「どんなクエスト?」
「町の近くの湖に、大型の“ランドタートル”が住み着いたらしい。エリアに見合わない強さのモンスターということで、討伐対象になっているみたいだ。」
「大丈夫なの?クエストがまだ残ってるっていることは、達成できずに失敗した人たちもいるんじゃないのかしら?」
「俺たちも無理そうだと感じたら逃げればいいさ。実害を出している訳ではないから緊急性はないし途中リタイアによる違約金もない。完了できるハンターに任せればいいさ。今回の目的は新しいジョブで強敵と戦闘する練習だ。討伐出来たらラッキーくらいに考えとくのが丁度いいさ。」
「なるほどね。ランドタートルは、防御力は高いけれど敏捷性が低いから、逃げられないリスクが少ない、新戦術の相手にはぴったりってことね。」
「そうゆうことだ、最終日に向けて頑張ろうか。」
2日間の結果を報告しよう。
ルーシィは無事に【ガンナー】のジョブを習得した。
銃術スキルもいくつか獲得してガンナーとしての立ち回りも問題ないレベルに達してきた。
俺の方は、剣術スキルの上昇に伴って、【アサルトナイト】のジョブを習得した。
これは、【パラディン】とは逆に攻撃に補正のかかる【ナイト】の上位ジョブだ。
大楯は装備できなくなるが、それなりの耐久力をもって近距離火力を出すことが出来る。
限界はあるが、これで俺も戦術の幅が広がるだろう。
非常に幸運なことに、俺とルーシィのジョブ構成は相性がいい。
牽制と高火力が両立可能なルーシィと、引きつけ防御と削りが可能な俺は適材適所で役割を果たせば、そうそう遅れを取ることはない。
けっこうな勝算をもって、クエスト依頼の湖に向かっていた。
「のどかなところね。湖の主なんて本当にいるのかしら。」
「...わざと言ってるだろそのフラグ立て。のどかでもここはモンスターの出現地帯だ。本来ならここまで来る間に何回かエンカウントがあってもおかしくないはずだが。」
「真面目ねぇ、大事な時こそリラックスよ?」
「一理あるが、程よい緊張感も大切だ。ほら、お出ましだぞ。」
湖に着くや否や、その巨体が視界に入ってきた。
「こいつは、予想以上に苦戦しそうだ。」
そこにいたランドタートルは、俺が知っているランドタートルよりも2倍以上は体が大きく、鈍色の鉄のように光っているはずの体色は、鮮血の様な黒い赤色に染まっていた。




