突然の告白
サンクトスは、商業都市マルトゥスからこの国の首都フィンデンスタインに向かう途中にある小さな町だ。
もともと、首都から貿易港があるマルトゥスまで物資を運送するための中継地点として設立された町なので、規模感は文字通り“街”ではなく“町”だ。
そのサンクトスにある唯一の宿屋で、俺は早速問題に直面していた。
「申し訳ございません。現在空き部屋は1つしかございません。」
これは困った。
さすがに1部屋に2人で宿泊するにはルーシィとの付き合いは日が浅すぎる。
「仕方ない。俺はその辺で野宿するからルーシィが部屋を取って...」
「あら、いいじゃない同じ部屋で。別に構わないわよ?」
「もっと自分を大切にしろよ。旅の仲間になったからと言って出会ったばかりの男と同伴なんて...」
「フィル、ちゃんと言ってなかったけど私はあなたに惚れたのよ?」
「...と、とりあえず部屋をたのむ。宿泊は7日間だ。」
「か、かしこまりました。」
人前で爆弾を落としてくれるなよ。
これ以上の会話をフロントでするのは危険だと判断して、俺たちはとりあえず部屋へ移動した。
「ふふ、フィルが動揺するところなんて初めて見た。」
「勘弁してくれ。いきなりすぎて心臓が破裂しそうだ。」
「フィルは私の事を嫌い?」
「その聞き方は反則だと思うが...まあ、好ましく思っているのは確かだ。正直、そういう感情を抱いたとしても、表に出すのは早いと俺は思っていたが。」
「男の一人旅に女がついていきたいなんて、気がなかったら言わないわよ。短い付き合いだけど、フィルの人柄は分かっているつもりよ。博識だしかっこいいし、ハンターとしても強い、変な虫が近寄らないか心配なくらいだわ。」
「そりゃどうも。」
「相思相愛って分かったなら、同じ部屋でも問題ないでしょ?」
「もう何も言わんさ。」
やったーと声が聞こえてきそうな程ベッドの横でステップを踏むルーシィを見て笑みがこぼれる。
(変な虫が寄り付かないか心配ってのは、こっちのセリフだよ)
翌朝、早速ルーシィの魔導付与習得に向けての特訓が始まった。
「やり方は昨日言ったとおりだ。最初はうまくいかないかもしれないがめげずに頑張れよ。」
「分かったわ。フィルは一緒に来ないの?」
「悪いが、俺は別行動だ。ルーシィの特訓中に俺は鍛冶スキルの習得だ。」
「クラフターにまで手を出すの?欲張りね。」
「せっかく“踏破者の心得”っていう便利なアビリティを持っているんだ。フル活用しないとな。」
「フィルも頑張ってね。じゃあ、また後で。」
そう言ってルーシィはサンクトス近郊のモンスター出現区域に向かっていった。
(さて、それじゃあ始めるとするか)
転生してから、武器や防具などの装備品はすべて失ってしまった。
だが、クラフトに必要な武具のレシピは引き継がれている。おそらく、素材が手に入らないとレシピを持っていても作成できないため、引き継ぎ不可要素から除外になったのだろう。
実際、レアな素材も引き継がれていないため、今の段階から強力な武具を作成することは出来ないし、そもそも鍛冶スキルを持っていない。
それでも、特殊効果が付いていたりと店売りよりハンドメイドの武具の方が強いのは確かだ。
他人に作ってもらうことも可能だが、材料費に加えて工賃が発生してしまう。
この工賃が、強力な武具の作成や強化であるほど高価だ。
ゲーム時代の一番の出費は、ここに掛かる費用といっても過言ではなかった。
任意のタイミングで修理もできるようになるため、自分で出来るに越したことはない。
鍛冶スキルがひと段落ついたら、錬成師のスキルも上げるつもりだ。
クラフター系のスキルを上げるのに近道はない。
自分が今作ることが出来るアイテムを、ひたすら作成・修理・解体する。
解体した武具は素材に戻るが、作成に使用したレアな素材は消滅し、汎用素材も使用した数の3割しか返ってこない。
また、クラフターのジョブには汎用・上位といったものはなくスキルも1種類しかない。
鍛冶師なら鍛冶スキル、錬成師なら錬成スキルといった具合で、それぞれLv.10でマックスとなる。
ルーシィとお昼を一緒に取る約束をしたので、それまでは一心不乱に武具を作っては解体を繰り返した。
スキルレベルが低いうちに作成できる武具の素材は、素材屋と採掘・採集で得られるものがほとんどだ。そのため、このためにかなりの量を買い込んでいる。
午前だけで鍛冶スキルがLv.2になった。本当にチートアビリティだ。
女性を待たせるのはナンセンスなので、予定より早く約束した場所に向かう。
(なんだかんだ、俺も首ったけじゃないか...)
「首尾はどうだい?」
「まだぎこちないけど、ちゃんとステップを踏んでやれば出来るわ。魔法球を作って、使いたい魔法を付与して、敵を狙って放つって感じでね。私が遠距離からいろんな魔法を使って戦えるなんて、本当に夢みたい」
「それが普通の魔術師なんだがな。」
「もう、意地悪言わないで。」
「悪い悪い、正直半日でコツを掴むとは思ってなかったよ。魔法に関してルーシィは本当に天才的だ。」
「取り繕っても遅いわよ。」
昼食を取るために合流した俺たちは、それぞれの進捗を報告していた。
ぷんぷんと頬を膨らませてそっぽを向いた彼女を見ながら、コーヒーを飲む。
(そういう容姿にそぐわない顔をするのは、ずるいよぁ...)
顔に出さないように必死になりながら、俺は昼休憩を取るのだった。
特訓開始から3日が経過した日の夕方、珍しくルーシィが慌てて宿に戻ってきた。
「フィル、見て!新しいアビリティを習得したの!」
ルーシィが開いたステータス欄を覗くと、新しい項目があった。
ルシエール
Lv.33 魔術師
HP:1586 MP:1192
STR:10
INT:127
VIT:22
DEX:47
AGI:37
【習得アビリティ】
術式省略
演算強化
魔導弾
「おめでとうルーシィ。俺も今日、切りのいいところまで終わったところだ。次のステップに移ろうか。」
「切りのいいところ?次のステップ?」
「ルーシィの武器を作り終わったってことさ。明日からこれを使ってみてくれ」
「これって...」
「そう、銃だ。」




