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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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未衣・彬 17 

 

 佳境に入ってきた演劇部の稽古をブッチしてディズニーシーで丸一日遊んできた演出補の二人は、部員たちから羨望交じりの非難ごうごうの嵐を浴びた。

 

 未衣と彬は昼に部室に行って部員に平謝りでお土産を配り歩き、本番まで休みなし!と皆から厳命され、這う這うの体で逃げ出して芝生の広場に寝転がった。

 「あー…参ったなあ。なんでこんなことになっちゃったんだ…」

 「あと1カ月強、あたしたち休みなしよ…」

 二人で空を見上げて嘆く。


 「今泉から昨夜LINEが来た。ありがとうってさ」

 彬は苦々しげに言う。

 「あ、そう。千佳からは別に何もなかったわ」

 未衣は日差しの眩しさに目を瞑り、興味ないといったふうに呟く。

 

 彬は身体を回転させて未衣の方へ向き、肘を立てて頭を乗せた。

 目を瞑っている未衣の顔を見下ろす。

 

 「なんだよ、あのふたり付き合うことになったんだろ?」

 「え、知らない。今朝も別に何も言ってなかったよ。今泉君、例によってサボりだったし」

 「訊かないのかよ?」

 彬は驚いて言った。

 昨日はすごく関心がある感じだったのに…


 未衣は目を開け、てのひらで日差しを避けながら彬の方へ顔を向けた。

 「訊いたって、千佳がちゃんと答えるか判らない。はぐらかされて終わりってこともあるし。

 あれで結構照れ屋だから。言いたくなったら言うでしょ」


 はあ…女友達って面倒だなあ。

 彬は呆れてまた寝転がり後頭部で手を組んで、抜けるように晴れた空を見上げた。

 

 昨日はあの後、無事に合流し(未衣は泣いた後だったのでトイレに行って遅れたが)一緒に夕食を摂って夜のショーと花火を見て帰ってきた。

 朝とは明らかに雰囲気の違う千佳と今泉に、彬と未衣はあてられ気味な感じでビールを飲みすぎてしまった。


 帰りの電車の中で、酔っていた彬と未衣は悪ノリして二人のキスの画像を4人のLINEグループにUPした。

 案に相違してなかなか既読がつかず、これってもしかしてふたりで泊まったりしてない…?と顔を見合わせ、なんとなく気まずくなって目を逸らした。

 バカみたいだなあ俺ら。うん。彬が呟いて、未衣は頷いた。

 

 ふたりが泊まったりせずに各々の家に帰ったことは、今泉が彬にLINEしてきたことで判った。

 今泉もはっきりとはつきあうとは書いていなかったけど、彬はその文面から漂うラブラブなオーラに、返事する気を失くした。


 「あー。いたいた」と声がして、未衣と彬がそちらに顔を向けると、今泉がやってくるところだった。

 ダッフィーと鍵のぶら下がったキーチェーンをベルト穴に通しているので、歩くたびにジャラジャラと音がする。


 二人は起きあがって今泉を待つ。

 徐々に枯れかけている芝が未衣の髪についていて、彬はそっと払ってやる。

 

 「よっ!昨日はどーも」今泉は二人の横に腰を下ろした。

 「いきな恰好ね…」未衣がジーンズからぶら下がったダッフィーを見ながら言った。

 彬は思わず吹き出す。


 「あー、やっぱしこれ、ちょっと邪魔だよねえ…

 スマホに付け替えるかな」今泉もダッフィーを眺めて苦笑する。

 「スマホに?女子高生みたい」と未衣が言うと、うーんと唸って頭をがりがり掻いた。


 「千佳ちゃんとはどうすんだよ、つきあうのか?」彬が訊くと、今泉は「うん、たぶん」と自信なさそうに言った。

 「たぶん?」未衣と彬が声を揃えて訊く。

 「はぐらかされて、はっきりとは…だけど俺が告ったら嬉しいって言ったし、キスもしたし」声が小さくなる。


 「らしいと言えば、らしいね…」未衣が言うと「未衣ちゃん、千佳から何か聞いてない?」と縋るような目で訊いてくる。

 「悪いけど…何も」未衣はちょっと申し訳なさそうに言う。

 興味ないように言っていたのに、未衣は本当にお人好しだなあと彬は呆れる。

 そんなだから、豊島さんの気持ちに引きずられちゃうんだよ…

 

 まあいいや、俺たちのことはさておいて、と今泉が彬と未衣を眺めながら腕を組む。

 「未衣ちゃんと彬が俺に告らせようと画策してたみたいに、昨日は俺と千佳もお前らをどうにかくっつけちゃおうと相談してたんだよね」

 「えーっ」彬と未衣は声を揃える。

 道理で…朝遅れてくるとか、行きたいところが全然違うとか、なかなか連絡とれないとか、不自然なところが多いと思った…

 

 「千佳は今泉くんが好きっていう演技してたってこと?」未衣が思わず呟くと、今泉は思い切りへこんだ。

 「それは言わないでくれる?その可能性については、蓋然性が高すぎて逆に考えないようにしてるんだから…」頭を抱える。

 「あ、ごめん」未衣が口を手で覆う。

 「それで?何を話そうとしてたんだ?」彬は先を促した。

 

 ああ、と今泉は気を取り直したように口を開こうとした。

 その時「あ、皆ここだったんだ」と千佳が現れて、今泉の隣に座った。

 バッグにダッフィーがぶら下がっていて、今泉が判りやすくにやける。


 「何の話?」と千佳が可愛らしく首を傾げ、今泉は千佳に身体を寄せ、千佳の方を向いて話す。

 「昨日、千佳と俺が話してたこと。彬と未衣ちゃんって頑固だねって。

 どう見たって相思相愛なのに、頑として友達スタンスを貫こうとしててさ」

 「本当にね~。見ててイライラしちゃうのよねっ」

 千佳も今泉の方を向き、二人でにっこり笑い合う。


 あーあ。見てられない。

 未衣と彬は顔を見合わせ、ため息をつく。

 昨日の続きか?


 「千佳はどうなのよ。今泉くんとつきあうの?」

 未衣がイライラしたように訊く。今泉がぐっと緊張するのが判り、彬は笑いだしそうになった。

 千佳はえ~?あたし~?と微笑んだ。

 「未衣と彬くん次第って言ったでしょ?」


 「だからそれはずるいって!」未衣は怒ったように言う。

 彬は、千佳は自分で決める子だから、気にしなくていいと言っていた未衣の言葉を思い出す。

 なんだよー、千佳ちゃん俺たち次第ってマジで言ってたんじゃん。

 どうすんだよ…


 「あたしたちはあたしたち、千佳と今泉くんがつきあうのとは関係ないでしょう」

 「だって。あたしと今泉だけがつきあうってことになったら、昨日のダブルデートの意味ないじゃない」

 「別に意味なくないわよ。彬は判らないけど少なくともあたしは楽しかったし。千佳と今泉くんが昨日で上手くいったなら、それは何よりって思うよ。そもそも、あたしと彬はそれが目的だったんだから」


 女同士がにらみ合うような感じになり、彬と今泉は顔を見合わせる。

 どーしよう…お前何とか言えよ、いやお前がどうにかしろ。目顔で言い合う。

 今泉が意を決したように千佳に向き直った。


 「俺は当事者だと思うから言わせてもらうけど…

 俺は、千佳が好きだからつきあいたいと思ってる。

 彬と未衣ちゃんの関係に千佳の意思が影響されちゃうのはちょっと、悲しいかな…」

 千佳にじっと見つめられ、言葉がだんだん尻すぼみになってくる。

 情けねえ…彬は自分を棚に上げて思う。


 千佳は「昨日も言ったけど、あたしは今泉が好きって言ってくれて嬉しいよ。つきあってもいいと思ってる。だけど、こういうことでもないと、この人たち絶対自分に素直にならないから。意地張って互いに違う人とつきあって、結局互いが気になって恋人と別れたくせに、まだ認めようとしないんだから…」未衣と彬をちらっと見ながら言った。


 未衣と彬は「それは違う」とこもごもに文句を述べながらも、千佳の指摘に動揺を隠せなかった。

 互いに彼氏彼女ができて、あいつは友達だと自分に言い聞かせながらも、相手が気になって仕方なかった。

 様々な事があったけれど、互いの存在の大きさを再認識した2か月間だった。

 だけど、その感情が何なのか、認めるのにはまだ時間がかかる。きっかけが必要だと思う。


 「確かに、千佳ちゃんの言う通り、俺と未衣は友達にしては異質かもしれない。歪なのかもしれない。

 けど…そのことと俺らがつきあうかどうかは関係ないし、ましてや千佳ちゃんと今泉の恋愛とはまったく無関係だろ。

 今泉の気持ちに応える気があるんなら、どうか、俺たちのことは抜きにして、今泉の気持ちにまっすぐに向かい合ってやって欲しい」

 彬は千佳の思いを有り難いと思いながら、今の素直な気持ちを千佳に話す。

 未衣も彬の隣で頷いている。彬は、未衣もきっと自分と同じ気持ちだと確信する。


 「あきらくんっ」遠くで彬を呼ぶ大きな声がして、4人は声の方を振り向く。

 美乃利がこちらへ駆けてくるのが見えて、彬は動揺した。

 なぜ…? 

 


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