彬 16(2)
昼食はザンビーニブラザーズで落ち合うことになっていたが、今泉と千佳ちゃんは先に行っているという連絡が来て俺と未衣は海底2万マイルに行ってから合流した。
2階の眺めのいい場所に今泉と千佳ちゃんは陣取っていて、昼間っからワインを飲んでいた。
「何、お前らもう酒飲んでんの?」俺が驚いて訊くと、「いっぱい歩いて喉乾いちゃってさ〜」今泉がえへらと笑う。もうできあがってないか?この時間でヤバくね?
「あれっ それお揃いじゃないの?」未衣が千佳ちゃんのバッグに目を留めて言った。
バッグにキーチェーンのついたダッフィーのぬいぐるみがぶら下がっている。
今泉がこれ見よがしにテーブルの上に置いているキーホルダーにも同じものが付いていた。
「そうこれ可愛いでしょー」今泉がやに下がる。みっともないぞその顔…
「だってぇ、今泉ってばお揃いの帽子買おうとか言うんだよぉ。この暑いのに絶対イヤ!って言ったらこれになったの」千佳ちゃんが口を尖らせる。問題はそこか?
「だって千佳がお揃いのカチューシャもイヤだって言うから…」
「キモイ!」と俺たちは声を揃えて罵倒する。
お前、自分のゴツイ顔に可愛らしい耳のついたカチューシャが似合うとでも思ってるのか?
今泉は平然と「俺には見えないもん。似合ってなくても関係ないもん」とぬかしやがった。
そりゃお前はそうかもしれないが…はっきり言って犯罪だぞそれ。
食べ終わって外に出ると、少し秋めいているがまだ暑い日差しが照りつけて来た。
4人で写真を撮ろうということになり、精一杯腕を伸ばしてスマホのフレーム内に4人でくっつき収まって撮った。
今泉が通りがかりの人に頼んで、海をバックに4人で撮ってもらう。
これから先、友達関係がどうなるかわからないけど、いい思い出になるなぁと思った。
ビッグバンドビートに当選したから観に行くという二人と別れて、俺と未衣はファストパスを取っていたセンターオブジアースに向かった。
「千佳と今泉くん、ずいぶん打ち解けてるって言うか、なんかいい感じだったね」未衣は歩きながら言った。
「うん…」と言いかけた時、俺と未衣のスマホが同時に震えた。
見ると、4人のLINEグループに今泉が画像を送信してくれている。
先ほどの4人での写真だった。
「あ、俺も自撮りバージョン送ろう」と壁際に寄って立ち止まり、画像をUPする。
スマホの画像をじっと見ていた未衣が「千佳、今泉君のこと好きだよね」と呟いた。
画像の今泉はしっかり千佳ちゃんの肩を抱いている。千佳ちゃんも今泉に身体を預けるように寄り添っている。
「千佳がこういうふうに男の子が近づくのを許すなんて考えられない。プライド高いし、自分を見せない子だから」
「つきあっちゃえばいいのにな」俺は、自分も未衣の肩くらい抱いて撮ればよかったなあと思いながら言った。寄り添う今泉と千佳ちゃんに比べると、ずいぶんよそよそしいなあ俺たち。
「そうだね…千佳が素直になると良いね」と未衣は言い、俺たちはしばらく黙って歩いた。
「なあ、未衣…」俺が言いかけると未衣は「うん。多分、今同じこと考えてる」と俺の言葉を遮った
「あたしたちも周りから見たら、千佳と今泉君みたいに見えてるってことだよね。
あの二人絶対両想いだ、つきあっちゃえばいいのにって」
「うん、そういうこと…」
俺と未衣が話すだけで、豊島さんや美乃利ちゃんの嫉妬は凄まじいほどだった。
俺や未衣がいくら友達と言っても聞く耳を持たなかった。
大学やサークルの友人、先輩後輩も、最初みんな俺たちが付き合ってると思ってた。
今だって事あるごとに言われる。
「なんでかなあ。異性で仲良かったら、友達とは思ってもらえないなんてな。
美乃利ちゃんと美由紀さんは同性だから、疑似恋愛の関係でも表向きみんなただの仲良しだと思ってる」
「それが世間一般の見方なんでしょうね。解りやすいものね」
未衣はため息をつく。
洞窟のような場所に入り、少し涼しくなった。
センターオブジアースの入口が見えてくる。
「俺たちは世間に抗ってやるぞ」俺が未衣の方を向いて言うと、未衣は「そうね」と微笑んだ。
「バンピーだね。あたしたちのこれまでも。これからも。」
未衣が言い、ははっと思わず俺は笑った。
「本当だBumpy Roadだな。でこぼこ道かぁその通りだ」
「結婚とか遠そうだよな〜」
「男友達が原因で嫁き遅れなんて嫌だわ」
未衣は頰に手をあてて呟く。
そりゃお互い様。
なかなか時間が合わず、今泉と千佳ちゃんに次に合流できたのは、もう薄暮の頃だった。
マーメイドラグーンとアラビアンコーストを繋ぐ橋の上にいると言われて、俺と未衣はその場所に向かった。
ライトアップが始まって一気に幻想的な雰囲気になった園内を、俺は未衣の手を取って混雑を避けながら歩いた。
「見つかるかな」未衣が言う。確かにすごい混雑だ。
「まあ、場所は解ってるんだし、向こうだって気をつけて探してるだろ…おっ」
俺は2人を見つけて、思わず立ちどまった。
橋の上でキスしている2人が黄昏の淡い光と、ライトアップにシルエットになって浮かび上がる。
こんなところで堂々と…
声かけられないぞ。
未衣も気づいたらしく、俺たちはなんとなくオブジェの陰に隠れた。
「どうしよう…」未衣が俺の顔を見る。
どうしようって言われても。
俺はスマホを取り出して、カメラを起動しズームして2人を撮った。
「彬っ」未衣が驚いたように制止する。
「だってなんか、すごくいい感じじゃん。恋人オーラっての?気持ちが溢れてて」
「…そうだね…」未衣も2人を見つめている。
その瞳から涙が零れて、俺は驚いて「どうした?」と顔を覗き込んだ。
未衣は口許を手で押さえて、嗚咽しそうなのを堪えている。
「好きだったら、自然とああいうふうにキスしたくなるんだよね、きっと。
あたしには、溢れる気持ちは無かったなあと思って。豊島さんに申し訳なかったなって…」
俺は黙って未衣を抱きしめた。
未衣は俺の胸に額を押しあてて嗚咽している。
未衣のこの、深い心の傷が癒えるのはいったいいつになるんだろう。
未衣に誰か好きな人が現れるまで、俺は誰も好きになれない気がする…




