彬 16(1)
今泉と千佳ちゃんからは意外にもOKの返事が来た。
ただ文化祭の準備やサークル活動、勉強とバイトでなかなか予定が揃わず、みんな無理矢理こじ開けるような感じで予定を組んだ。
どこに行くかでも結構モメた。
今泉のやつ、自分がハリーポッター好きだからってUSJとか無理言い出して、千佳ちゃんは渋谷のT4 TOKYOに行きたいとか言うし(誰が卓球なんてやるんだよ!と皆に突っ込まれた)、未衣は砧公園からの下北沢本多劇場だと(それはちょっと楽しそう)。
結局俺が未衣と行きたかったディズニーシーに決めてしまった。
未衣はとても楽しみにしてくれているようで、俺は嬉しかった。
豊島さんのことをまだ気に病んでいて、ともすれば沈みがちな未衣の気分が、少しでもあがってくれることを祈るような気持ちで俺は毎日過ごしている。
当日はよく晴れて朝7時の時点でもう暑かった。
俺は未衣と最寄り駅で待ち合わせして、一緒に行った。
今泉は千葉の自宅に住んでるし、千佳ちゃんは俺たちとは沿線が違うので現地集合になった。
未衣はノースリーブのチュニックにレースのチュニックを重ね、丈の短いジーンズと編み上げのサンダルを合わせて、俺が夏合宿であげた貝殻とパールのペンダントをしていた。
俺は照れてしまって何も言えず、気づかないふりを決め込んだ。
とても似合ってる。可愛いよ。
そう言いたかったんだけど、どうしても言えなかった。
言うと、他のことも言ってしまいそうで…
「千佳はあまりアトラクションは好きじゃないって言ってたし、今泉君は千佳と一緒にいたがるだろうから、あたしたちは積極的にアトラクション回ろう」
未衣が吊革につかまって窓の外を見ながら言う。
眩しそうに目を細めている横顔に目を奪われながら、俺は「え?別行動するってこと?」と訊く。
未衣は俺を見あげて「だって、今日は千佳と今泉君の距離を縮める会でしょ。彬、ちゃんと今泉君を焚きつけた?」凄いことを平気な顔で言う。
俺はしどろもどろになり「あ、、うん。まあ…」とか適当に答えてしまい、未衣に足を踏まれた。
「痛って!」俺は思わず叫んで、座席に座っている人に睨まれた。
笑っている未衣を見ながら、俺は未衣と行きたいところばかり考えていて、あの二人はまるで蚊帳の外に置いていたことに気づいた。
ダメだなもう…はしゃぎすぎだぞ俺…
未衣は俺の方を向いて「あのね、あたしトイマニ行きたいの!彬、インパしたらすぐにファストパス走ってね♡」とにっこり笑って命令し「それからタワテラ行って…タートルトークと、ジェラのショーも見たいし。シーライダーはスタンバイでも大丈夫そう」とかスマホでディズニーのサイトを見ながらブツブツ言っている。
俺はため息をつき、今日はもう、未衣の言うがままに動こうと決めた。
せめて可愛い写真をいっぱい撮ってやる。
リゾートラインを降りてディズニーシーの前に着くと、俺は今泉にLINEした。
今泉が寝坊して今やっと千佳ちゃんと合流したとのことで、1時間くらいかかるとメッセージが来た。
まったく何やってんだあいつはもう…
チケットを先に渡しといてよかった。
俺は未衣とさっさと入園の列に並び、やがて開園時間になって中に入り、ファストパスゲットのため走り出す。
その後二人となんとか合流し、朝ご飯を食べていないという今泉のために皆でマンマ・ビスコッティーズ・ベーカリーに行った。
テラス席で風が吹き抜けてとても気持ちよく、平謝りの今泉におごらせて今日の予定を話す。
俺や未衣が行きたいところと、千佳ちゃんと今泉のプランは見事にミスマッチだった。
まあ、未衣がそういうふうに仕組んだんだろうけど。
いくつかのアトラクションは一緒に回ることにし、LINEで随時連絡を取りながら基本的に別行動ということにした。
その時、今泉がふと未衣に目を留めて言った。
「あれ?未衣ちゃんのペンダント、どこかで…
あっ!彬のストラップと同じ?」
「あ、彬が夏合宿で…」と言いかけて未衣は赤くなってしまった。
今泉は驚いたように「え?訊いちゃいけなかった?」と言って千佳ちゃんに「もー、デリカシーなぁい!」と怒られている。
「たまたま未衣に似合いそうなペンダントがあって、それがストラップとペアだっただけ」
俺は何げなく言う。だって本当だし。
そりゃ、全然下心がなかったわけじゃないけど…
「ストラップごとあげてもよかったんじゃ…」と今泉が言いかけ「まあいいか。でもペアっていいな。千佳、俺たちも何か買おうか?」千佳ちゃんに訊く。
「うーん、どうしようか…」千佳ちゃんは苦笑して首を傾げた。
ああ、嫌なんだな。
俺と未衣は顔を見合わせて苦笑いした。
今泉は目に見えてヘコんだ。
可哀相なヤツ。
ゴンドラに乗るという千佳と今泉と別れて、未衣と俺はタワー・オブ・テラに向かった。
千佳ちゃんはあまり激しい動きのあるようなアトラクションには興味がないようで、どちらかと言えば俺たち寄りの今泉は残念がっていたが、それでも千佳とショー系のものを見て歩くというのがなんかいじらしい。
未衣はあちらこちらと俺を引っ張りまわし、すごく楽しそうだった。
最近、塞ぎがちな気分も上がっているようで、俺は秘かにグッジョブ俺!と自賛していた。
俺はかなり無理矢理な感じで、未衣と自撮りのツーショットを撮って歩いた。
手を繋いだり肩を抱こうとしては「あっつい!」と振り払われ、その都度友達なんだからそりゃそうかとも考えるけれど、そのうちなんだか俺は欲求不満のようになってしまって、友達って難しいな…とため息をついた。
レイジングスピリッツに行こうとトランジットスチーマーラインに乗って並んで座り、風に吹かれながら景色を眺めていた未衣が呟くように言った。
「あたし、豊島さんとこういうとこに来たことなかった。
スクリプトを書くのにつきあってもらったり、大学やバイトの帰りにどこかへ寄ったりするくらいで。
もっとデートらしいデートとかしてあげれば良かった。
そうしたらあたしも、豊島さんのこと好きになれたかな…」
未衣は忘れてない。
豊島さんを傷つけたこと、好きになれなかったことで自分を責めている。悔やんでいる。
俺は心臓をぎゅっとつかまれるような、焦燥感にも似た感情に苛まれた。
嫉妬…?
俺は船の前方にある、スチーマーを見ながら言う。
「俺は、美乃利ちゃんとディズニーランドに行ったり映画を観たり、いろいろ出かけたけど、それでも好きにはなれなかった。
未衣とだって、今まで芝居を観に行ったり買い物に行ったりしたけど、だからって好きになるわけじゃない。
それとこれとは関係ないよ」
「だいたい、好きな人とだったらどこに行かなくたって何もしてなくたって、一緒にいられればそれだけで嬉しいし楽しいんじゃないのかな。
豊島さんはバイト先についてって一日中未衣の働く姿を眺めていたり、一緒にイチから考えてスクリプト書いたり、それで充分楽しかったと思うし」
未衣が自分を責めることはない。
俺はそう言いたかった。
未衣は少し笑って「彬って意外とロマンチストだね」と言った。
そして俺に寄りかかり肩に頭を乗せて「…ありがと」と小さく呟いた。
俺は未衣の額に頬を寄せて目を瞑り、未衣の香りに包まれるような気分に浸った。




