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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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彬・未衣 18

 え?誰?と、今泉と千佳はなぜか未衣を見る。

 未衣は「彬の、彼女」と小声で言った。


 えっ、と驚いて顔を見合わせる今泉と千佳を横目に、未衣は美乃利を見つめている彬の緊張した横顔を見た。

 LINEをブロックされたと言ってた。もう、連絡が取れないと。

 だから、豊島が未衣の部屋に来た日に会うはずの約束をすっぽかして以来のはずだ。

 

 未衣の心は心配と不安でいっぱいになった。

 美乃利ちゃんは彬に何を言うつもりなんだろう。

 彬は、美乃利ちゃんにどう話すんだろう。


 彬は駆けてくる美乃利を見つめながらも、未衣がじっと自分を見ているのを感じていた。

 未衣の前で愁嘆場は避けたい。

 だけど…

 

 彬はぐっと奥歯を噛みしめる。

 今は、未衣に助けてほしい。

 俺に勇気を与えてくれ。


 彬は立ち上がり、それにつられるようにあとの3人も立ち上がった。

 千佳と今泉が手を取り合ってそろそろと離れていく。

 少し離れたベンチに座って、成り行きを見守るつもりのようだ。


 美乃利が彬の目の前に来る直前に、未衣もはっとしたようにその場から離れようとした。

 未衣の手を彬の左手がぱっとつかむ。

 びくっとしてつかまれた腕を引こうとする未衣に、彬は美乃利の方を見たまま「ここにいて頼む」と低く言った。


 未衣は驚いて彬の横顔を見つめた。

 自分が豊島と話し合いの約束をした日、彬に近くにいて欲しいと強く望んだことを思い出した。

 そして、彬が汗だくで部屋に飛び込んできてくれた時、自分の心も身体もどれほど救われたかも。

 未衣は覚悟を決めて、彬に手をつかまれたままその場に留まった。


 美乃利は息を切らせながら「あきらくんっ 会いたかった」と叫んで彬の右腕に抱きついた。

 彬がゆっくり離そうとしても渾身の力を込めて離さず、息を弾ませている。

 彬は困じ果てて「美乃利ちゃん」と声をかける。


 「美由紀が彬くんに会いそうな校内の場所には絶対行かせてくれなくて。

 ママにもなんか言ったみたいで、登下校も家の運転手に送り迎えされて。

 あたし、彬くんに会いたくて気が狂いそうだった」

 彬の腕にしがみついたまま、ぼろぼろ涙を零す。


 涙が頬を流れるままに彬を振り仰ぎ、懸命に言葉を紡ぐ。

 「別れたくない。あたし彬くんを入学式に見かけた時からずっと憧れていて、そのうち本当に恋をして、渋る美由紀を説き伏せてやっと告白してOKもらって彼女になって、夢みたいに幸せだった。

 毎日がすごく輝いてた」

 嗚咽を堪えるように一度下を向いて、また彬の顔を見つめた。

 涙で虹彩の薄い瞳がキラキラと光る。


 「王子様じゃなくていい。竹内彬さんが好きなの。

 会えなかった間に、そう気づいた。

 最初は、あたしの王子様なんだから、囚われのあたしを助けに来てくれると思ってた。

 だけど…現実ってそうじゃない。

 彬くんは王子様じゃなくて、あたしだってアニメに出てくる女の子じゃないって解った。

 あたしは…振られたんだって」


 「だけどそれでも、あたしは彬くんが好き。

 彬くんが今はあたしを好きじゃなくても構わない。

 いつかあたしを好きになってくれるなら。

 傍にいて、いつまでも待ってる」


 彬は天を振り仰ぐ。

 なんでこんなが、俺に惚れてくれるんだ…

 こんな時なのに、俺は美乃利ちゃんを可愛いって思ってしまう。

 傷つけたくないと。


 未衣は美乃利の真摯で純粋な思いを感じて、涙が止まらなくなってしまった。

 彬が美乃利ちゃんの想いに応えてあげて欲しいとも思ってしまう。

 しかし彬と美乃利が寄り添う姿を想像すると胸がぎゅっと苦しくなって、それはイヤだ!と強く思う。

 あたしはどうしたらいいんだろう。

 未衣は目を瞑り、思わず彬の手を握りしめた。

 

 彬ははっとしたように未衣を見た。

 未衣…泣いてる…

 きっと美乃利ちゃんの想いに共感しているんだろう。

 本当に優しい奴だなあ。

 俺に美乃利ちゃんとつきあってやれとか言い出すんだろうな。

 そうしたら、また話せなくなっちゃうのに。

 

 美乃利は一瞬、彬の腕を離して彬の身体に抱きつく。

 背に手を回しきつく抱きしめる。

 彬は戸惑って未衣の手を離し、美乃利の肩に手を置いて身体を離そうとするが、美乃利は力を込めてイヤイヤと首を振って抵抗する。


 「彬くんが中野さんを好きなのはわかってる。

 最初から、入学式の時から中野さんと一緒にいる処しか見たことがない。

 中野さんに向ける笑顔が最高に素敵なのも知ってる。

 あたしには一度も向けてくれたことのない、笑顔…」


 彬は、噛みしめた顎から力を抜き、ほっと大きく息を吐いた。

 もう誤魔化せない。

 この期に及んで、美乃利ちゃんに嘘はつけない。


 彬は美乃利の背を優しく叩きながら言った。

 「美乃利ちゃん、ありがとう。

 俺みたいなしょうもない人間をそんなに想ってくれて。

 俺なんかには本当にもったいない人だと思う」


 未衣が涙を溜めた瞳で自分を見ているのが判る。

 彬は少し笑って、美乃利に向けて言葉を続ける。

 

 「君の言うとおりだな。

 俺はずっと前から、未衣に惚れてるんだと思う。

 初めて会った時からかもしれない。

 自覚がなかっただけなのに、親友だ悪友だって思い込もうとして。

 今の関係を壊すのが怖くて、無意識に認めまいとしてたんだ」


 未衣は驚いて彬を見つめた。

 なに…言ってるの?


 彬の言葉をゆっくり理解して、未衣は両手で口を覆った。

 そして、自分の心にも同じ思いがあることを、やっと自覚する。

 

 彬は未衣にの方へ顔を傾け、照れたように微笑む。

 美乃利は彬にしがみついたまま泣き出した。

 彬は美乃利の身体を持て余し、身体の脇に手を下げたまま途方に暮れている。


 未衣は、美乃利の肩に手を置いた。

 「美乃利ちゃん…

 あたしにも責任の一端があると思う。

 ずっと彬のことが好きだったのに、無自覚なままに彬は友達だと自分自身も誤魔化して他の人とつきあったりして。

 結局いろんな人を傷つけて、彬にも美乃利ちゃんにも迷惑かけて」


 「美乃利ちゃんの気持ちには痛いほど共感する。

 だけど…彬に、美乃利ちゃんとつきあってあげなよとは、言えない。

 どうしても言えない。

 ごめんね…」

 

 彬は目を見張って未衣を見ていた。

 「未衣…本当に?」思わず呟きが漏れる。


 彬の嬉しさを隠せない声音を聴いて、美乃利は崩れ落ちるように彬の足元にしゃがみこんだ。

 

 その時「みのり!」と声がして、美由紀が走ってきた。

 芝生に膝をついて美乃利を抱き起し、美乃利は泣きながら美由紀にしがみついた。


 美由紀はキッと彬と未衣を見上げる。

 「美乃利に何を言ったんですか?

 どういうつもりなのよ!

 あんなに傷つけておいてまだ足りないの?」

 

 言葉を失う未衣と彬をにらみつける。

 美乃利を抱き上げるように立ち上がらせ、肩に手を回す。

 「美乃利、判ったでしょ?美乃利をこれだけ傷つけて平気なのよ。

 この人たちは美乃利のつきあうような人たちじゃないの。

 これからはもっとちゃんと選ばないとだめよ」


 美由紀は彬と未衣には目もくれずに、美乃利を支えながらゆっくりと歩き去っていった。

 残されたふたりは呆然と見送った。


 しばらくして、彬は我に返ったように未衣を見た。

 「あの…さっき言ったこと、ほんと?」


 未衣は両手を頬にあて、赤くなってしまった頬を見られないように俯く。

 「あ、彬こそ、…どうなのよ」


 「俺は…」彬は頭に手をやって、呟くように「未衣に惚れてるよ。本当だよ」と言い、俯いている未衣を抱き寄せた。

 未衣の頭に頬を寄せて、顔を上げた未衣の額に唇を触れさせる。。

 未衣は笑って彬の身体に手を回した。

 ぎゅっと抱きしめ合う。


 彬は未衣の顎に手をかけて仰向かせ、顔を傾けて近づく。

 唇と唇が触れる直前に、未衣は彬の頬をぐいーっと横から押して遠ざけた。


 「ちょっ…なんで…」彬は信じられないというように呟く。

 「調子に乗るな」未衣は彬の身体を離し「まだまだ早いよ」と笑った。


 そして周りを見回し、誰もいないことに気づいて腕時計を見る。

 「あっ!彬!3限始まってる!」

 と言うなり、校舎に向かって走り出した。


 「今泉と千佳ちゃんもいなくなってる。あいつら~~」

 彬も走り出し、未衣に追いつくと未衣の手を取って引っ張っていった。

 

 

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