第2話「薬草採取と初めての依頼達成」
ジェノバの街の南門を出た柾木和雄は、街道から少し離れた草原を歩いていた。
頭上には青空が広がり、穏やかな風が草花を揺らしている。遠くには森が見え、その手前には背の低い草が一面に生い茂っていた。
「さて、薬草十束だったな。まずは見つけるところから始めるか」
和雄は冒険者ギルドで借りた図鑑の内容を思い出しながら、足元の植物を観察した。
薬草は細長い葉を持ち、茎の根元がわずかに赤みを帯びているらしい。日当たりがよく、適度に湿った場所に生えることが多いという。
「この辺りならありそうだけど……」
和雄はしゃがみ込み、近くに生えていた植物へ意識を向けた。
すると、視界に半透明の文字が浮かび上がった。
【鑑定】
名称:野草
分類:植物
用途:家畜の飼料など
「違うか。じゃあ、こっちは?」
隣の植物を鑑定すると、今度は別の表示が現れた。
【鑑定】
名称:薬草
分類:薬用植物
品質:普通
用途:傷薬や回復薬の材料
「おっ、当たりだ!」
和雄は思わず笑顔になった。
図鑑で見た特徴とも一致している。葉の形や茎の色を確認すると、確かに普通の野草とは少し違っていた。
「なるほど。こうして実物を見ると分かりやすいな」
和雄は根を残すように注意しながら、必要な部分だけを採取した。
採った薬草はアイテムボックスへ収納する。時間停止機能があるため、採取したばかりの状態を保てるのがありがたい。
「これなら品質も落ちないし、持ち運びも楽だな」
和雄は周囲を見渡し、似た植物を探し始めた。
一度特徴を覚えてしまえば、次からは見つけるのも難しくなかった。鑑定能力で確認しながら、丁寧に薬草を採取していく。
しばらくすると、必要な十束が揃った。
「よし、これで依頼は達成だな」
和雄は立ち上がり、軽く腰を伸ばした。
まだ昼を少し過ぎた程度で、時間には余裕がある。
「せっかくだし、もう少し周囲を見てみるか。追加で採取した分も買い取ってもらえるかもしれないし」
そう考えた和雄は、森へ近づきすぎない範囲で草原を歩き始めた。
途中、薬草のほかにも小さな赤い実をつけた植物を見つけた。
「これは何だろう?」
鑑定してみると、薬用果実という表示が現れた。
【鑑定】
名称:薬用果実
分類:薬用植物
品質:良好
用途:回復薬や滋養薬の材料
「へえ、これも薬の材料になるのか」
和雄は果実をいくつか採取し、アイテムボックスへ収納した。
さらに歩いていると、近くの茂みが不自然に揺れた。
「……ん?」
和雄は足を止め、静かに周囲を確認した。
茂みの奥から現れたのは、灰色の毛並みをした小型の獣だった。大きな前歯と長い尻尾を持ち、普通の鼠よりもかなり大きい。
「鼠……にしては大きいな」
和雄が鑑定すると、すぐに情報が表示された。
【鑑定】
名称:森鼠
分類:魔物
危険度:低
特徴:森や草原に生息する小型魔物。鋭い前歯で噛みつく。
「なるほど。森鼠っていうのか」
森鼠は和雄に気づくと、甲高い鳴き声を上げて飛びかかってきた。
「おっと!」
和雄は軽く身体をひねり、攻撃をかわした。
森鼠は着地するとすぐに方向を変え、再び突進してくる。
「結構素早いな。でも……」
和雄は腰の刀に手を添えた。
相手の動きを見極め、余分な力を抜く。足裏から伝わる地面の感触を利用し、身体全体を滑らかに連動させた。
森鼠が跳び上がった瞬間、和雄は半歩踏み込んだ。
鋭い一閃が走り、森鼠はそのまま地面へ落ちた。
「よし」
和雄は刀を鞘に収め、周囲にほかの魔物がいないことを確認した。
すると、目の前に半透明の表示が現れた。
【魔物討伐】
森鼠を討伐しました。
経験値を獲得しました。
《経験値2倍》が適用されました。
「やっぱり魔物を倒すと経験値が入るんだな」
和雄は表示を確認してから、森鼠をアイテムボックスへ収納した。
「確か、森鼠も素材の買い取り対象だったはずだ。ギルドで確認してみよう」
これ以上長居する必要もないと判断し、和雄はジェノバの街へ戻ることにした。
南門でギルドカードを提示すると、門番は軽く頷いて通してくれた。
街へ入った和雄は、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けると、午前中よりも多くの冒険者が集まっていた。依頼を終えた者たちが受付に並び、酒場では早くも食事を楽しんでいる者もいる。
和雄は空いている受付へ向かった。
「こんにちは、フィーネさん」
声をかけると、フィーネは顔を上げて微笑んだ。
「あら、カズさん。お帰りなさい。薬草採取はいかがでしたか?」
「無事に十束集まりました。確認をお願いします」
「はい。それでは、こちらへどうぞ」
和雄は受付の作業台に薬草を取り出した。
フィーネは一本ずつ状態を確認していく。
「まあ……とても綺麗ですね」
「そうですか?」
「はい。葉も傷んでいませんし、採取方法も丁寧です。これなら問題なく納品できますよ」
フィーネは嬉しそうに頷いた。
「薬草十束、確かに受け取りました。こちらが今回の報酬、三十ゴルです」
和雄は差し出された銅板三枚を受け取った。
「ありがとうございます」
「おめでとうございます、カズさん。これで初めての依頼達成ですね」
フィーネの言葉に、和雄は自然と笑みを浮かべた。
「はい。何だか嬉しいですね」
「ふふっ。最初の依頼は、やっぱり特別ですから」
和雄は受け取った報酬をアイテムボックスへ収納した。
「そういえば、依頼分とは別に薬草と薬用果実も採ってきたんですが、買い取ってもらえますか?」
「もちろんです。薬草は一本三ゴル、薬用果実は一つ四ゴルで買い取っています」
「それなら、こちらもお願いします」
和雄は追加で採取した薬草五本と薬用果実三つを取り出した。
フィーネは数量と品質を確認し、帳簿に記録した。
「薬草五本で十五ゴル、薬用果実三つで十二ゴルですね。合計二十七ゴルになります」
「ありがとうございます」
和雄は追加の報酬を受け取った。
「それと、帰り道で森鼠に襲われたので、一匹倒したんですが……」
「森鼠ですか?」
フィーネは少し驚いた顔をした。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、大丈夫です」
「それならよかったです。森鼠の討伐証明は尻尾になりますので、解体場で確認してもらってくださいね」
「分かりました」
和雄はギルドの裏手にある解体場へ向かった。
午前中にも会った男性職員が、作業台の前に立っていた。
「おっ、さっきの坊主じゃないか。今度は何を持ってきた?」
「森鼠を一匹です」
和雄がアイテムボックスから森鼠を取り出すと、男性は感心したように頷いた。
「ほう、これまた綺麗に倒してるな。尻尾も無傷だ」
男性は手早く確認を済ませ、銅貨三枚を差し出した。
「森鼠の討伐証明、三ゴルだ」
「ありがとうございます」
和雄は報酬を受け取り、解体場を後にした。
受付へ戻ると、フィーネが笑顔で迎えてくれた。
「お疲れさまでした、カズさん。初めての依頼はいかがでしたか?」
「思っていたより楽しかったです。薬草を探すのも面白かったですし、少しずつこの世界のことが分かってきました」
「それはよかったです」
フィーネは微笑みながら、ギルドカードを返してくれた。
和雄は今日の収入を頭の中で計算した。
薬草採取の報酬が三十ゴル。追加の買い取りが二十七ゴル。森鼠の討伐証明が三ゴル。
合計六十ゴル。
「初日としては悪くないかな」
和雄が呟くと、フィーネは楽しそうに笑った。
「十分ですよ。無理をせず、これからも少しずつ実績を積んでいってくださいね」
「はい。そうします」
和雄はギルドカードを大切にしまい、窓の外へ目を向けた。
夕方にはまだ少し早いが、そろそろ今夜泊まる宿を探したほうがよさそうだった。
「フィーネさん、最後に一つ聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
「この近くで、おすすめの宿ってありますか?」
フィーネは少し考えてから、にっこりと微笑んだ。
「それでしたら、冒険者の方がよく利用する宿がありますよ。お値段も手頃ですし、お料理も美味しいんです」
「おっ、それはいいですね」
料理が得意な和雄にとって、この世界の食事は興味深いものだった。
「ぜひ教えてください」
こうして、初めての依頼を無事に終えた和雄は、異世界で最初の宿を探すことになった。
冒険者としての生活は、少しずつ形になり始めていた。




