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ブレイドアーツマスターの異世界冒険譚  作者: バモス
第三章 Gランク冒険者仕事を開始する。

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第16話「森の奥に潜む気配」

ジェノバの街に朝日が差し込む頃、柾木和雄は宿屋《銀の麦亭》の食堂で朝食を取っていた。


昨日はDランク冒険者のバルクとともに西側の農地を巡回し、三匹の森鼠を討伐した。依頼そのものは無事に終わったが、最近は街の周辺で魔物の目撃が増えている。


「南の森に西の林……。何か原因があるのかな」


和雄が呟くと、食事を運んできたマリアが心配そうに尋ねた。


「カズさん、また魔物が増えているんですか?」


「そうみたいです。ただ、ギルドも巡回を増やしているので、今のところ大きな被害は出ていませんよ」


「それならいいんですけど……。父も仕入れの荷車を心配しているんです」


「何かあればギルドへ知らせてください。俺もできることは手伝いますから」


和雄が笑顔で答えると、マリアは少し安心したように頷いた。


朝食を終えた和雄は、いつものように冒険者ギルドへ向かった。


建物へ入ると、依頼掲示板の前には普段より多くの冒険者が集まっていた。南の森に関する調査依頼が追加されたらしく、数人の冒険者が真剣な表情で話し合っている。


和雄が受付へ向かうと、フィーネが笑顔で迎えてくれた。


「おはようございます、カズさん」


「おはようございます、フィーネさん。今日はずいぶん賑やかですね」


「はい。南の森の警戒区域について、追加調査が決まったんです」


フィーネは声を少し落とした。


「昨日、巡回していた冒険者から、大型の魔物が移動したような痕跡が見つかったと報告がありました」


「大型の魔物ですか?」


「ええ。ただ、まだ種類は分かっていません」


和雄は以前、ガレスと南の森を調査したときのことを思い出した。


あのときは複数のオークが集団で行動しており、そのうち一匹を討伐した。残りのオークたちがどうなったのかは、まだ分かっていない。


「もしかすると、あのオークたちと関係があるのかもしれませんね」


「その可能性もあります。ですが、今回はCランク以上の冒険者を中心に調査する予定です」


「分かりました。俺は別の依頼を探しますね」


和雄が頷くと、フィーネは安心したように微笑んだ。


そのとき、受付の奥からクラリスが姿を現した。


「カズさん、少しよろしいかしら?」


「はい。何でしょう?」


「実は、あなたにお願いしたいことがあるの」


クラリスは一枚の依頼書を差し出した。


「南の森の外周にある薬草採取区域で、周辺の安全確認をお願いしたいのよ。危険区域には入らず、異常があればすぐに戻って報告するという内容ね」


和雄は依頼書を確認した。


「なるほど。採取区域の巡回ですね」


「ええ。今回はCランク冒険者のディルさんが同行するわ。彼は斥候としての経験が豊富だから、森の調査についても勉強になると思うわよ」


「分かりました。ぜひお願いします」


和雄が答えると、クラリスは頷いた。


「報酬は一人九十ゴル。討伐は主目的ではないから、無理に魔物を追わないこと。それだけは守ってね」


「はい」


手続きを終えた和雄は、ギルドの入口付近で同行者を待つことになった。


しばらくすると、茶色の革鎧を身につけた細身の男性が歩いてきた。


腰には短剣を差し、背中には小型の弓を背負っている。周囲を観察するような鋭い目つきが印象的だった。


「君がカズか?」


「はい。柾木和雄です。よろしくお願いします」


「俺はディル・フォレスト。Cランク冒険者だ。今日はよろしく頼む」


ディルは軽く手を差し出した。


和雄も握手を交わした。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「君の話は聞いている。オークを一撃で倒したそうだな」


「たまたま上手く間合いに入れただけですよ」


ディルは小さく笑った。


「なるほど。噂どおり、ずいぶん謙虚なんだな」


二人は装備を確認し、ジェノバの南門へ向かった。


街を出ると、広い草原の向こうに南の森が見えていた。


以前訪れたときと変わらず、木々が生い茂る深い森だったが、今日はどこか静かに感じられた。


「カズ、森へ入る前に一つ覚えておいてくれ」


ディルが足を止めた。


「森の調査では、目に見えるものだけを頼りにしないことだ。音、匂い、風の流れ、それに動物の気配も重要な情報になる」


「なるほど」


「特に、普段いるはずの小動物がいない場所には注意したほうがいい」


和雄は真剣に頷いた。


「分かりました。気をつけます」


二人は森の外周に沿って歩き始めた。


薬草採取区域には細い獣道がいくつもあり、ところどころに冒険者が残した目印がついている。


ディルは地面の足跡や木の幹についた傷を確認しながら進んだ。


和雄も周囲を観察し、気になる場所があれば声をかけた。


「ディルさん、あの木の根元に足跡があります」


「どれ……」


ディルはしゃがみ込んで確認した。


「ゴブリンの足跡だな。しかも、比較的新しい」


「一匹でしょうか?」


「いや、少なくとも三匹はいる。足跡の大きさが違うからな」


和雄も地面を見つめた。


確かに、似た形の足跡がいくつも重なっている。


「こういうところまで分かるんですね」


「慣れれば君にもできるさ」


ディルは微笑んだ。


その後、二人は森の外周を調べながら進んだ。


しばらくすると、和雄は妙な違和感を覚えた。


「……静かですね」


「気づいたか」


ディルも足を止めた。


周囲には木々が生い茂っているにもかかわらず、鳥の鳴き声がほとんど聞こえない。


風に揺れる葉の音だけが、森の中に響いていた。


「普段なら、この辺りには鳥や小動物がいるはずなんだが……」


ディルは慎重に周囲を見渡した。


「何かが近くを通ったのかもしれないな」


そのとき、少し離れた茂みから物音が聞こえた。


ガサッ。


和雄は刀へ手を添えた。


「何かいます」


「ああ。動くな」


ディルは弓を構え、茂みの奥を見つめた。


やがて、一匹のゴブリンが姿を現した。


しかし、その様子は普通ではなかった。


ゴブリンは肩に傷を負い、何かから逃げるように周囲を見回していた。


「ギギッ……!」


和雄たちに気づくと、ゴブリンは一瞬身構えたものの、すぐに反対方向へ逃げ出した。


「追いますか?」


和雄が尋ねると、ディルは首を横に振った。


「いや。今は調査が優先だ。それに、あのゴブリンは明らかに何かから逃げていた」


「そうですね……」


二人はゴブリンが現れた方向を確認した。


その先には、森の奥へ続く獣道がある。


ディルは地面へ視線を落とし、表情を引き締めた。


「……これは」


「どうしました?」


和雄が近づくと、ディルは地面に残された大きな足跡を指さした。


人間のものより明らかに大きく、深く土へ沈み込んでいる。


「オークの足跡でしょうか?」


「似ているが、少し違うな」


ディルは慎重に確認した。


「通常のオークよりも大きい。しかも、かなり重い個体らしい」


和雄は鑑定を使って足跡を調べようとしたが、対象が魔物そのものではないため、詳しい情報までは得られなかった。


「大型のオークでしょうか?」


「可能性はある。ただ、ここで判断するのは危険だ」


ディルは立ち上がった。


「これ以上は進まない。ギルドへ戻って報告しよう」


「分かりました」


和雄は素直に頷いた。


二人は足跡の位置を記録し、来た道を引き返した。


その途中、森の奥から低い唸り声のような音が聞こえた。


「……グオオ……」


和雄は思わず足を止めた。


「今の声……」


「ああ。聞こえたな」


ディルは表情を険しくした。


「かなり大きな魔物かもしれない。だが、姿を確認できていない以上、無理に近づく必要はない」


「そうですね」


和雄は森の奥を一度だけ振り返った。


木々の向こうには、何かが潜んでいるような気配があった。


しかし、姿は見えない。


二人は警戒を続けながら森を離れ、ジェノバへ戻った。


夕方、冒険者ギルドへ到着すると、フィーネが受付で迎えてくれた。


「お帰りなさい、カズさん、ディルさん」


「ただいま戻りました」


和雄が答えると、ディルは調査記録を差し出した。


「南の森の外周で、複数のゴブリンの足跡と、大型の魔物と思われる足跡を確認した。さらに、負傷したゴブリンが何かから逃げている様子も見られた」


フィーネは真剣な表情になった。


「大型の魔物……ですか?」


「ああ。通常のオークより大きな足跡だった。正体は分からないが、注意したほうがいい」


和雄も補足した。


「森の奥から、低い唸り声のような音も聞こえました。かなり大きな魔物かもしれません」


「分かりました。すぐにクラリス主任へ報告します」


フィーネは記録をまとめ、奥の事務室へ向かった。


しばらくすると、クラリスが姿を現した。


「お二人とも、お疲れさまでした。報告は確認しました」


クラリスは真剣な表情で続けた。


「今回の情報は重要です。ギルドマスターと副ギルドマスターにも、すぐに伝えます」


「お願いします」


ディルが頷いた。


「依頼はこれで完了です。報酬はお一人九十ゴルになります」


和雄とディルはそれぞれ報酬を受け取った。


「カズ、今日は助かった」


ディルが声をかけた。


「こちらこそ、ありがとうございました。森の調査について、いろいろ勉強になりました」


「また機会があれば、一緒に仕事をしよう」


「はい。よろしくお願いします」


二人は握手を交わし、別れた。


その日の夜、冒険者ギルドの二階では、ガルドとシルヴィアが新たな報告書を確認していた。


「通常のオークより大きな足跡……か」


ガルドは腕を組んだ。


シルヴィアは静かに頷いた。


「はい。ディルさんの見立てでは、大型のオーク、あるいは別種の魔物である可能性があります」


「オークの上位種かもしれねえな」


「その可能性はあります。ただ、現時点では断定できません」


ガルドは地図へ視線を落とした。


「南の森でオークが集団行動を始めた理由も、まだ分かっていない。もし上位種が群れをまとめているなら、厄介なことになるぞ」


「ええ。西側の魔物の移動とも関係があるかもしれません」


「よし。明日から南の森の調査を強化する。Cランク以上の冒険者を中心に、複数の班を編成しろ」


「承知しました」


シルヴィアは報告書をまとめ、静かに頷いた。


一方、その頃。


宿屋《銀の麦亭》へ戻った和雄は、夕食を終えて部屋で休んでいた。


「大型のオークか……。何がいるんだろうな」


和雄は窓の外を眺めた。


ジェノバの街には、いつもどおり穏やかな夜が訪れている。


しかし、南の森の奥には、まだ正体の分からない何かが潜んでいた。


「まあ、明日もできることを頑張ろう」


和雄はそう呟き、明日に備えて眠りについた。


その頃、南の森の深部では、大きな影がゆっくりと動いていた。


周囲には複数のオークが集まり、その影を避けるように距離を取っている。


「グルルル……」


低い唸り声が森に響き、木々の間から鳥たちが一斉に飛び立った。


ジェノバ周辺で起こり始めた魔物の異変。


その中心にいる存在が、少しずつ姿を現そうとしていた。

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