第6話「新人冒険者の評判と次なる依頼」
ジェノバの街にある冒険者ギルドでは、朝から多くの冒険者たちが依頼掲示板の前に集まっていた。
その一角で、受付嬢のフィーネは前日に提出された討伐報告書を確認していた。報告書には、Gランク冒険者である柾木和雄の名前と、ゴブリン七匹の討伐記録が記されている。
「……やっぱり、七匹なんですよね」
フィーネが小さく呟くと、隣の受付にいた猫獣人の少女ミーニャが耳をぴくりと動かした。
「フィー、どうしたの?」
「昨日登録したばかりの冒険者さんが、ゴブリンを七匹も討伐してきたんです」
「えっ、七匹!? それって本当にGランクなの?」
ミーニャは驚いて身を乗り出した。
「はい。登録したばかりなので、まだGランクです。ただ、剣術の経験があるそうで……」
「へえ! 面白そうな新人さんだね!」
ミーニャは尻尾を楽しそうに揺らした。
フィーネは報告書を閉じながら、少し考え込んだ。
和雄は確かに新人冒険者だ。しかし、魔物を倒した際の傷が少なく、解体場の職員も剣の腕前を褒めていたという。
「無理をしていなければいいんですけど……」
フィーネは心配そうに呟いた。
その頃、和雄は《銀の麦亭》で朝食を取っていた。
「カズさん、今日は何をするんですか?」
食事を運んできたマリアが尋ねると、和雄はパンをちぎりながら答えた。
「今日は薬草採取の依頼を受けようと思っています。昨日はゴブリン討伐だったので、少しのんびりした仕事にしようかなと」
「それはいいですね。森には危険な魔物もいますから、気をつけてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
和雄は朝食を食べ終えると、マリアに礼を言って宿を出た。
街の大通りを歩きながら、昨日の戦闘を思い返す。
ゴブリン七匹を倒したものの、特に苦戦することはなかった。日本で身につけたブレイドアーツに身体強化魔法を組み合わせれば、相手の動きは十分に見切れる。
「まあ、あまり目立つのもよくないよな」
和雄はそう呟いたが、自分がすでにギルド職員の間で話題になっていることなど知る由もなかった。
冒険者ギルドに到着すると、受付にはフィーネが立っていた。
「おはようございます、フィーネさん」
「あっ、カズさん。おはようございます」
フィーネは和雄の姿を見ると、ほっとしたように微笑んだ。
「昨日はお疲れさまでした。お身体は大丈夫ですか?」
「はい。特に問題ありませんよ」
「それならよかったです。今日はどんな依頼をお探しですか?」
「薬草採取にしようと思っています。Gランクの昇格には採取実績も必要なんですよね?」
「はい。薬草採取などの実績を積んでいただく必要があります。カズさんはすでにゴブリンを八匹討伐されていますので、討伐条件まではあと二匹ですね」
「なるほど。じゃあ、今日は採取を頑張ります」
フィーネは依頼書を取り出した。
「それでしたら、南の草原で薬草を二十束採取する依頼があります。報酬は六十ゴルです」
「二十束ですか。分かりました。それをお願いします」
「かしこまりました」
フィーネは受注処理を済ませ、和雄へ依頼書を渡した。
「カズさん、今日は森の奥へ入らないでくださいね」
「はい。草原で採取してきます」
和雄が笑顔で答えると、フィーネも安心したように頷いた。
受付を離れようとしたところで、隣から元気な声が響いた。
「ねえねえ、君がカズくん?」
和雄が振り返ると、猫の耳と尻尾を持つ少女がこちらを見ていた。
「えっと……そうですけど?」
「あたしはミーニャ! ここの受付と素材査定を担当してるんだ。よろしくね!」
ミーニャは満面の笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします。カズです」
「昨日、ゴブリンを七匹も倒したんでしょ? すごいね!」
「いや、そんな大したことじゃ……」
和雄が苦笑すると、ミーニャは首を傾げた。
「えー? 普通のGランク冒険者なら、七匹も倒したら大騒ぎだよ?」
「そうなんですか?」
「そうだよ! しかも一人でしょ?」
和雄は少し困ったように笑った。
「まあ、剣術には慣れているので」
「へえ! 今度、どんな剣術なのか教えてよ!」
「機会があれば、ぜひ」
二人の会話を聞いていたフィーネは、思わず小さくため息をついた。
「ミーニャ、カズさんはこれから依頼に向かわれるんですよ」
「あっ、そうだった! ごめんね、カズくん!」
「いえ、大丈夫ですよ」
和雄は二人に挨拶し、ギルドを後にした。
南門から街の外へ出ると、穏やかな風が草原を吹き抜けていた。
「さて、二十束か。昨日より多いけど、何とかなるだろう」
和雄は草原を歩きながら、薬草を探し始めた。
一度採取した経験があるため、見つけるのはそれほど難しくない。
鑑定能力で確認しながら、丁寧に薬草を摘んでいく。
「これで五束……十束……」
和雄は根を残すように注意しながら、次々と採取していった。
しばらくすると、依頼分の二十束が揃った。
「よし、これで達成だな」
和雄は立ち上がり、周囲を見渡した。
まだ昼前だったため、少し余裕がある。
「追加で採取しておくか」
そう考えて歩き始めたとき、近くの茂みから物音が聞こえてきた。
「……ん?」
和雄が振り返ると、二匹のゴブリンが草むらから姿を現した。
「ギャギャッ!」
ゴブリンたちは和雄を見つけると、棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
「おっと、ちょうど二匹か」
和雄は腰の刀を抜いた。
一匹目が棍棒を振り下ろす。和雄は半歩横へ移動して攻撃をかわし、そのまま刀を振るった。
鋭い斬撃が走り、ゴブリンが倒れる。
続く二匹目は、横から棍棒を突き出してきた。
和雄は刀の柄頭で棍棒を弾き、身体を半回転させた。
「リバーススティンガー!」
相手の攻撃を受け流した勢いを利用し、鋭い突きを放つ。
二匹目のゴブリンも、そのまま地面へ崩れ落ちた。
「よし、これで十匹だな」
和雄は刀を鞘へ収め、周囲の安全を確認した。
目の前には、経験値獲得の表示が浮かび上がっている。
【魔物討伐】
ゴブリン二匹を討伐しました。
《経験値2倍》が適用されました。
和雄は表示を閉じると、ゴブリンをアイテムボックスへ収納した。
「これで討伐条件は達成か。あとは採取実績だな」
その後、追加で薬草を十束採取した和雄は、ジェノバの街へ戻った。
冒険者ギルドに到着すると、フィーネが受付で書類を整理していた。
「ただいま戻りました」
「あっ、カズさん。お帰りなさい。薬草採取はいかがでしたか?」
「無事に二十束集まりました。追加で十束あるので、そちらも買い取りをお願いします」
「はい。確認しますね」
フィーネは薬草の状態を確認し、満足そうに頷いた。
「今回も綺麗に採取されていますね。依頼報酬が六十ゴル、追加の薬草十束で三十ゴルです」
「ありがとうございます」
和雄は報酬を受け取った。
「それと、帰りにゴブリンが二匹出てきたので、倒してきました」
「……えっ?」
フィーネは思わず手を止めた。
「二匹、ですか?」
「はい。ちょうど二匹だったので、これで討伐実績が十匹になりましたよね?」
「そ、そうですね……」
フィーネは少し困ったように微笑んだ。
「では、解体場で確認してもらってください」
和雄は解体場へ向かい、ゴブリン二匹を提出した。
担当職員は慣れた様子で確認を済ませ、十ゴルを支払った。
受付へ戻ると、フィーネがギルドカードを受け取り、討伐実績を更新してくれた。
「これでゴブリン十匹の討伐条件は達成です。ただし、Fランクへの昇格には採取実績も必要ですので、引き続き依頼を受けてくださいね」
「分かりました。焦らず頑張ります」
和雄が笑顔で答えると、フィーネは小さく頷いた。
その様子を少し離れた場所から見ていたミーニャが、楽しそうに尻尾を揺らした。
「ねえ、フィー。カズくんって、やっぱり面白いね」
「ええ……本当に」
フィーネは苦笑した。
一方の和雄は、今日も無事に依頼を終えられたことに満足していた。
自分が少しずつギルド内で注目され始めていることには、まったく気づいていない。
「さて、今日は早めに宿へ戻ろうかな」
そう呟いた和雄は、ギルドを後にした。
冒険者としての実績は着実に積み重なっている。
そして、彼の知らないところで、新人冒険者カズの名前は少しずつ広まり始めていた。




