二周目の目標
「……寝過ぎた……体痛……くねえ」
気づけば朝。あのままソファーで寝落ちしたらしい。なのに絶好調な体に感謝。若さって素晴らしい。
あくびを噛み締めながら風呂場にトテトテ。鏡の前でスウェットを脱ぎ、自分の姿に目を奪われる。
「腰のくびれエグ。胸もけっこう膨らんできたし、ブラ替えねえとな」
宝石みたいに目がキラキラ。人形みたいに小さい鼻と口。あどけなさと美しさが完全に調和した姿は、人類の宝に相応しい。
だけど腹の奥がチクチク痛い。ちょうど月の終わり、女の苦しみが襲ってくる時期だ。
「……シャワー浴びたら薬飲むか」
終わるまで休業確定。元カノたちもこんな痛みを我慢してたなら、そりゃあれだけ不機嫌になる。この辺りは男の体が羨ましい。
熱々のシャワーを頭から被る。自慢の肌はボディーソープと手で念入りに。長い髪は洗うのがダルい。
「いっそ切りてえ。けど私のイメージ崩れるよなぁ」
人気者は辛い。買い物は芸能人みたいな変装セット必須だし、気付かれたら愛想を振り撒く生活。有名税って言葉も納得してしまう。
髪を洗い流し、次はトリートメント。高いだけあって良い匂いに癒される。
「よし、綺麗サッパリ聖女ちゃんっと」
浴室を出て体をふきふき。服着るついでにナプキンもセット完了。聖女とはいえ人間。しかも年頃の女の子。TSモノに興味はなかったが、自分がこうなるとは思わなかった。
「……前世の私が見たら鼻血噴くな。ってアホか」
変な気分を振り払う。オレンジのジャージに袖を通し、魔石ドライヤーで髪を乾かす。赤い魔石が光り、吐き出された熱風が黄金の髪を撫で散らかす。
「こんなもんか。今日は何しよ……の前に飯、ポテチ」
うんしょと立ち上がりキッチンへ。パントリーからカルボナーラポテチをむずっと掴んでソファーにダイブ。うつ伏せのままバリバリ頬張りスマホを眺める。
「マックスのトレンドは……はい、私の名前発見。これもう世界の覇者だろ。…………ん?」
スクロールしてた指がピタッと止まる。目をコシコシ擦り、可憐な声で読み上げる。
「……どこかのダンジョンに不老長寿の妙薬の噂あり。それを口にしたものは魔族と同じ、いつまでも若い肉体を得る……か……ふーん」
馬鹿馬鹿しい。発信元不明の噂だ。なのに本能が叫ぶ。これだ、と。
(私の可愛さは全人類の宝……死ねないのはなんか嫌だけど、あくまで不老長寿ねぇ……)
んっと喉を整える。眉間に皺を寄せ、可憐な声を精一杯低くする。
「悪魔的ッ! 悪魔的誘惑ッ! 不老不死は悪役が求めるお決まりの目的! だが不老長寿とはこれ以上ない塩梅ッ!」
イメージは懐かしいギャンブルアニメのナレーター。私の周りからザワ……ザワ……とSEが流れる。もちろん脳内で。
「美少女聖女セイラに落ちる雷鳴ッ! これを求めずして生きる価値なし! ……可愛さは……命より重いッ!」
まさに天啓。二週目人生に目標ができた。金は腐るほど貯まったし、次はこれだ。
そうと決まればやることは一つ。マインの『みんなで頑張ろう』グルチャを開いて細い指を動かす。
『皆さん、昨日はお疲れ様です。ちょっと気になることがあるんですが……』
送信。三秒経たずに既読が三つ。炎のアイコンがメッセージを吐き出す。
『セイラさん、どうしたの⁉︎ 俺でよければ何でも聞いてよ!』
『がっつきすぎだぞフレイ。……セイラ、僕が相談に乗る』
眼鏡のアイコンも便乗。サガもかなりがっついてる。
『マチョが聞くマチョ。今からマンション行くマチョ』
角刈り筋肉も参戦。どいつもこいつも必死で可愛い。こうなったらいつものパターンだろう。
『待てよマチョ。俺もセイラさんとこ行く』『僕もだ。セイラ、今からお邪魔しても良いか?』
どうせもう準備してるんだろう。衣装部屋に向かいながら三人に答える。
『皆さんありがとうございます。ちょっとお部屋を片付けるので、五分待ってください』
到着。大きなクローゼットが埋め尽くす専用部屋。クローゼットから白いフリルが付いたノースリーブを選択。下は適当に水色のプリーツスカート。白タイツと合わせたら聖女の私服っぽいだろう。知らんけど。
『了解です!』『分かった、五分後きっかりに』『マチョ!』
返事をチラリと見ながら急いで着替える。姿見の前でクルリと回転。可愛すぎてビビった。
「うっし、んじゃ行きますか」
そのままスマホだけ持って玄関へ。白いパンプスの踵を履きつぶして扉ガチャ。ここからは姫モード。聖女確変に突入だ。
「うんっ。今日も良い天気っ」
すぐ隣、『聖女部屋』の扉にスマホをかざしてピロン。廊下を進むとキラキラした小物やぬいぐるみ、カラフルで可愛い家具に迎えられる。
「みんな早く来ないかなー」
なんて言ったそばからインターホンの音。壁のカメラを確認し、一階のオートロックを解除する。
「はーいっ。どうぞー!」
タオルを用意した途端、扉がカチャリと開かれた。階段猛ダッシュしたのがバレバレすぎ。そのままゾロゾロ部屋に雪崩れ込んでくるオオカミたち。
「お、お待たせ……セイラ、さん……」「はぁ……はぁ……フレイ、必死に走りすぎ……だ」「大腿四頭筋が喜んでるマチョ」
「すごいです。みんなのお家、ここから五キロ以上離れてるのに。あ、タオルどうぞ」
すごいというか怖い。熱血スポーツ系イケメンと大人カジュアルイケメン。二人とも私の可憐な笑顔に頬を染め、「「……ありがと」」とタオルを受け取った。
柔軟剤のCMみたいな光景。
「マチョさんもどーぞっ」
「ありがとマチョ、セイラ」
天井スレスレの筋肉巨人がタオルを受け取る。
いつでもどこでも黒のブーメランパンツ一丁。私の腰より太い腕、鋼鉄のような光沢を放つ褐色の筋肉がピクピク喜んでいる。
「セイラは今日も可愛いマチョね」
「ふ、普通です! ……マチョさんの筋肉こそ……キレキレで黒光りしててすごいです」
「マチョ!」
ニカリと真っ白な歯を見せられる。こっちは一人だけ世界が違う。けど面白いから普通に好き。
羨ましそうに立ち尽くすイケメンズにもニコリ。役者が揃ったところで真っ白なソファーに腰掛ける。デレ顔の三人がズイッと近寄ってきた。
「集まってくれてありがとうございます。早速なんですが、この噂のことなんですけど……」
こうして新たな目標を得た私は、可愛い下僕たちになんか良い感じに想いを語った――。




