オフ聖女
私は、ネトゲが趣味の会社員だった。
友達は普通にいたし、女とも何人か付き合った。リアルの付き合いは楽しかったが、それよりアホな男どもにチヤホヤされるネカマが一番面白かった。
女キャラでそれっぽい喋り方をすれば勝手に勘違いされ、レアアイテムや効率的な狩場も手に入る。
たまにストーカーになるやつもいたが、それはそれで楽しめた。
――そんな私が今じゃ、世界一可愛い聖女だってのは驚きだ。
「んー……やっぱ思い出せねえ」
一人暮らしのマンション。夕日が差し込むリビング。自分の金髪をクリクリ転がし、窓の外の大都会をしみじみ眺める。
ぱっと見は東京や大阪と遜色ない街並み。だがここは日本じゃなければ地球でもない。異世界、もしくは多元宇宙の地球みたいな星『アースリア』だ。
「なんで私死んじまったかねえ。誰かに会いに行ったのは覚えてんだけどなぁ」
聖女の衣装は洗濯しながら、ダルダルのスウェットでまったりタイム。右手に持ったスルメイカをポリポリ咥える。
夕焼けに浮かぶ両親の顔。友達、元カノ。さらに彼らを押しのけ、唯一絶対のパートナーを思い出す。
「……ヤニ吸いてえ」
パチンコに匹敵する人生の友。転生してかれこれ十六年。こんなに禁煙できてる自分を褒めてやりたい。……まあこの体で吸う気はないけど、多分。
窓から離れ、水色のソファーに体を沈める。ついでにテレビのリモコンもポチ。ニュースをBGMにスマホもポチポチ。
『聖女セイラ率いるパーティがゲモン荒野に出現したダンジョンをクリアしました。この場所は過去、屈強な冒険者たちを追い返してきた地上型ダンジョンで――』
「へいへい、もっと褒めろ。私を崇め奉れ」
腹をボリボリ掻きながらスマホを眺める。過去の配信アーカイブ、切り抜かせた動画、他のダンジョン配信者とは再生数の桁が違う。全てはこの顔のお陰だ。
指を滑らせSNSマックスを開く。検索画面に『セイラ 聖女』と入力。エゴサに余念はない。
「お? このアンチババア、クソ叩かれてて草」
ネットの怖さを思いしれ。私の下僕への悪口は許す。だが私への悪口は微塵も許さない。
アカウントを裏垢に切り替える。
「セイラ様を叩いてるやつ……総じてオバさんで大草原……っと」
書き込み完了。今日も良いことした。気分良くチャンネルを切り替える。
『世界各地、定期的に出現する魔界由来の構造物――謂わゆるダンジョンについて、研究チームが新たな調査チームを発足いたしました。チームを率いるのは最強の冒険家と名高い――』
「はいはい最強チート人権かっけー。誰か知らんが私の魔石残しとけよー」
今はタバコより魔石がベストフレンド。ダンジョンでたくさん採れるくせに高価で売れる。この星の文明を支える縁の下の金ズルってやつだ。
こんな感じに二度目の人生は順風満帆。唯一の悩みは、全てがヌルゲーすぎて暇を持て余すことくらい。前世の私が聞いたら憤死するくらい贅沢な悩みだろう。
「さ〜て、このまま夕寝すっかぁ……お気楽な二週目に乾杯……なんてな」
目を閉じてソファーでゴロゴロ。風呂は起きてから入ろう。飯は……まあポテチがあるし。
「……おやすみ……可憐で世界一可愛い……私……」
込み上げる睡魔に抗いもせず、私は惰眠を貪ることにした――。




