第9話「異物」
――見られている。
その感覚は、はっきりしていた。
気配。
匂い。
わずかな動き。
視界に直接映らなくても、分かる。
周囲にいる魔物たちが、こちらを意識している。
警戒。
距離。
動きの鈍り。
明らかに、反応が変わっていた。
牙獣鼠。
腐敗人形。
どちらも同じだ。
近づかない。
逃げもしない。
ただ、様子を見ている。
……妙だ。
普通なら。
弱ければ襲われる。
強ければ逃げる。
だが、今は違う。
中途半端な距離を保っている。
まるで。
“判断できない”ように。
……理解する。
俺が。
異物だからだ。
強さが、分からない。
分類できない。
だから、近づけない。
その結論に至る。
同時に。
それを理解できている自分に、わずかな違和感を覚える。
……まあいい。
問題はない。
むしろ、都合がいい。
襲われない。
なら。
こっちが選べる。
どれを食うか。
どこで狩るか。
すべて。
その時。
視界の端で、動き。
牙獣鼠。
一体。
距離は遠め。
だが、逃げない。
こちらを見ている。
……試す。
ゆっくりと、近づく。
反応する。
だが、逃げない。
距離を取るだけ。
……なるほど。
完全に敵としては見ていない。
だが、安全とも思っていない。
中間。
その状態。
……なら。
踏み込む。
一気に距離を詰める。
牙獣鼠が、ようやく動いた。
遅い。
そのまま覆う。
沈める。
溶かす。
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【システム】
牙獣鼠(F)を捕食しました
経験値を獲得
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……問題なし。
抵抗も、ほとんどない。
他の魔物は、動かない。
ただ、見ている。
……いいな。
その感想が浮かぶ。
狩りやすい。
圧倒的に。
競争がない。
邪魔も入らない。
完全に。
自分のペースで進められる。
その時。
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【エラー】
識別不能個体として認識されています
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……識別不能。
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【エラー】
分類:失敗
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……やはりか。
他の魔物だけじゃない。
“システム側”でも、認識できていない。
つまり。
俺は。
枠の外にいる。
その理解が、静かに広がる。
だが。
それを恐れる感覚は、もうない。
むしろ。
都合がいい。
誰にも、読めない。
誰にも、測れない。
それは。
圧倒的な優位だ。
ゆっくりと、周囲を見渡す。
魔物たちが距離を取る。
道が、空く。
まるで。
避けられている。
……悪くない。
その感想が、自然に浮かぶ。
そして。
さらに奥へ進む。
この領域。
この環境。
すべてが、自分に有利に動いている。
その認識を持ちながら。
俺は、次の獲物へと向かった。




