第5話「収束」
外周・内部・中心のすべてで異常が同時に発生し、観測の精度が完全に崩壊したことで一度は分散した調査方針が破綻したものの、その代わりに“どこを見ても同じならば一点に絞るしかない”という結論に至り、全ての視線と判断が一箇所へと収束し始める。
広げても意味がない。
なら――
「……絞る」
本部。
机の上。
地図。
町全体。
「全部同じです」
部下が言う。
「外も中も差がない」
「……そうか」
頷く。
「なら、中心を取る」
「中心?」
「……意味の中心だ」
場所ではない。
位置でもない。
「……最も“歪みが集まる場所”」
部下が黙る。
「……それ、どうやって」
「……人だ」
即答。
「最も影響を受けている人間」
「……つまり」
「……異常が濃い個体を追う」
言葉が落ちる。
「……分かりました」
動き出す。
通り。
人の流れ。
観察する。
「……あれ」
部下が止まる。
「……何だ」
「同じ場所、何度も通ってます」
一人の男。
同じ道を繰り返している。
微妙にズレながら。
「……対象か」
近づく。
「おい」
声をかける。
「……あ?」
男が振り返る。
目が合う。
その瞬間。
視界が揺れる。
「……っ」
「……今の」
部下が息を呑む。
「……感じたか」
「……はい」
初めて。
認識が一致する。
「……来たな」
男が笑う。
理由なく。
「……楽だな」
意味のない言葉。
だが――
「……濃い」
確信する。
「……こいつを追う」
歩き出す。
男が動く。
通りを抜ける。
曲がる。
また同じ場所に出る。
「……ループしてる」
だが――
「……ズレてる」
完全ではない。
少しずつ。
別の場所へ。
「……導かれてるな」
追う。
止まらない。
「……近い」
空気が変わる。
歪みが濃くなる。
「……ここだ」
路地。
人が少ない。
男が止まる。
振り返る。
「……来たか」
目が合う。
再び。
視界が揺れる。
思考が遅れる。
「……っ」
「……見えるか」
「……何がだ」
「……分からん」
だが――
「……ここだ」
確信する。
「……中心だ」
間違っている。
だが――
完全に。
「……掴んだ」
男の視点。
初めて“全員で同じ異常を感じた”ことでそれを真実として固定してしまい、その対象を中心と判断することでようやく調査が前に進むという安堵を覚える。
一方。
路地の奥。
「……来たな」
歩く。
影の中。
見ている。
「……いい」
自分ではない。
だが――
「……近い」
理解に。
「……惜しい」
もう少しで。
だが、届かない。
「……そのまま来い」
動かない。
ただ見ている。
「――寄せる」




