第18話「崩壊」
朝、町の中心に立った瞬間、昨日まで“固定された歪み”として均衡を保っていたはずの構造が限界を越え、抑えきれなくなったズレが一斉に解放される気配を感じ取り、それが回復ではなく完全な崩壊であると確信する。
静かだ。
異常なほど。
「……来るな」
通り。
人の流れ。
一歩。
踏み出す。
その瞬間。
全員が止まる。
完全停止。
音が消える。
風が止まる。
「……始まったな」
次の瞬間。
動き出す。
だが――
バラバラだ。
走る者。
止まる者。
逆方向へ動く者。
「何だこれ!」
叫び声。
「動けねえ!」
衝突。
転倒。
混乱。
「……崩壊だ」
会話が成立しない。
「お前、さっきの――」
「違う、それは――」
「待て、何だこれ」
言葉が混ざる。
意味が消える。
「……壊れてる」
建物。
壁が歪む。
形が揺れる。
窓の位置が一瞬だけズレる。
「……空間もか」
地面がわずかに波打つ。
「……深いな」
人間が膝をつく。
立てない。
「……限界だな」
ギルド。
扉が開いたまま固定される。
中。
全員が同時に話し、同時に止まり、同時に崩れる。
「……終わりだ」
視線を上げる。
空間。
向こう側。
観測者。
大量。
明確に。
「……遅い」
歪みが空から落ちる。
裂け目。
巨大。
「……大きいな」
町全体を覆う。
【システム】
――強制補正:最終段階
「……無理だな」
崩壊を止めようとする。
だが――
間に合わない。
「……壊れてる」
すでに。
裂け目が広がる。
空間が崩れる。
人間が消える。
歪む。
形を失う。
「……綺麗だな」
すべてが崩れていく。
構造。
関係。
意味。
「……終わる」
だが――
「……違うな」
終わりではない。
「……始まりだ」
歩く。
崩れる町の中を。
止まらない。
迷わない。
観測者が近づく。
距離がない。
「……来たな」
初めて。
同じ層に。
「……いい」
手を伸ばす。
裂け目へ。
触れる。
崩れる。
広がる。
「……繋がったな」
境界が消える。
内側と外側が混ざる。
「……もう分かれてない」
視線を上げる。
すべてが見える。
町。
空間。
向こう側。
「……一つだ」
完全に。
「――喰らう」




