第16話「異変」
町の中心を歩きながら、これまで“ズレ”として認識されていた歪みが一定の閾値を越え、もはや内部処理では吸収しきれず外側へ溢れ出そうとしている兆候を感じ取り、それが不可逆な現象として現れる直前であると理解する。
蓄積している。
逃げ場がない。
「……来るな」
通り。
人の流れ。
一瞬。
全員が同時に止まる。
完全停止。
音が消える。
「……固定か」
次の瞬間。
全員が同時に動く。
だが――
方向が揃っていない。
衝突。
混線。
転倒。
「……出たな」
“ズレ”が可視化される。
「何だこれ!」
誰かが叫ぶ。
「動けねえ!」
初めて、明確な異常として認識される。
「……遅いな」
別の場所。
建物の影。
壁が一瞬だけ歪む。
形が崩れる。
すぐ戻る。
「……空間もか」
視界が揺れる。
色がズレる。
「……深いな」
ギルドへ向かう。
扉。
一瞬、位置がズレる。
開く。
中へ。
空気が重い。
だが、静かではない。
「……崩れてるな」
会話が成立しない。
「お前、さっきの――」
「違う、それは――」
「いや、待て」
言葉が重なる。
繋がらない。
「……形がない」
判断がバラバラになる。
「……限界だな」
人間が“同期”できなくなっている。
「……壊れる」
男がこちらを見る。
「……お前だろ」
初めて。
明確な言葉。
「……何がだ」
「全部だよ」
今回は止まらない。
「……分かる」
「……証拠は?」
「ねえ!」
だが――
「……確信か」
証拠はない。
だが、否定もできない。
「……遅い」
空間が揺れる。
上。
向こう側。
観測者。
「……来るな」
だが――
今回は違う。
歪みが“内側”から溢れている。
「……間に合わない」
補正では止められない。
「……終わりだな」
通りに戻る。
人間が混乱している。
転ぶ。
ぶつかる。
叫ぶ。
「……表に出た」
もう隠れていない。
「……いい」
必要ない。
視線を上げる。
空間。
向こう側。
観測者。
再び集まり始めている。
「……遅い」
すでに。
「……壊れてる」
歩き出す。
止まらない。
迷わない。
「――始まったな」




