第5話「疑念」
ギルドの中に入った瞬間、これまでのような曖昧な視線ではなく、明確に“何かを確かめようとする意識”がいくつかこちらへ向いていることに気づき、それが単なる違和感の共有を越えて“検証段階”へ入っていると理解する。
軽くはない。
だが、まだ断定でもない。
「……進んだな」
「おう」
声がかかる。
いつもの男。
だが、距離が微妙に遠い。
「……ああ」
「昨日のやつ、どうやった?」
普通の会話。
だが、探っている。
「……普通だ」
短く返す。
「普通であれはねえだろ」
笑う。
だが、目が笑っていない。
「……そうか?」
「お前さ」
止まる。
言葉を選ぶ。
「……何者だ?」
直球。
空気が止まる。
周囲の会話が一瞬だけ遠のく。
「……ただの人間だ」
返す。
迷わない。
「……嘘だな」
即答。
間がない。
「……何を根拠に言ってる」
「分からん」
正直だ。
だが――
「でも違う」
感覚。
確信に近い。
「……そうか」
それでいい。
そこまでだ。
「なあ」
別の男が割って入る。
「さっきの動き、見てた」
視線が増える。
集まる。
「……どう思う?」
最初の男が聞く。
「……おかしい」
即答。
「だよな」
共有される。
疑いが。
「……集まったな」
個人ではない。
集団へ。
「……面倒だな」
「説明できるか?」
男が聞く。
「……できないな」
「じゃあ何だ」
「……分からん」
だが――
「普通じゃない」
繰り返される。
言葉として。
「……そこか」
定義できない。
だが、否定もできない。
「……曖昧だな」
足りない。
確信に。
「……証拠がない」
沈黙。
数秒。
「……まあいい」
誰かが言う。
「今はな」
引く。
だが、終わっていない。
「……残るな」
会話が流れる。
別の話題へ。
無理に戻す。
だが、違う。
空気が変わっている。
「……軽くないな」
視線が残る。
完全には外れない。
男の視点。
確信は持てないが、違和感を無視できない状態になっており、言葉にしたことでそれが現実として固定され始め、もう以前のように“気のせい”として流すことができなくなっている。
「……固定されたな」
疑いが形になる。
消えない。
歩く。
外へ出る。
通り。
人の流れ。
同じ。
だが――
「……違うな」
今までは隠れていた。
溶けていた。
だが、今は。
「……見られてる」
明確に。
視線を上げる。
空間。
向こう側。
観測者。
まだいる。
「……いいな」
人間。
上位存在。
両方が。
「……近い」
気づいている。
違う形で。
歩き出す。
止まらない。
迷わない。
「――まだだ」




