第4話「綻び」
森の中を進みながら、いつも通りに周囲の気配と仲間の動きを同時に把握していると、これまで自然に補正できていたはずの“ズレ”の一部が処理しきれずに残り始めていることに気づき、それが意識的な調整をすり抜けて外に滲み出ていると理解する。
小さい。
だが、確実だ。
「……漏れてるな」
「今回、少し深いぞ」
前を歩く男が言う。
警戒している。
だが、判断が甘い。
「……問題ない」
短く返す。
森の奥。
気配。
複数。
「……来るな」
敵が現れる。
数が多い。
位置も悪い。
「囲まれるぞ!」
誰かが叫ぶ。
遅い。
すでに半分囲まれている。
「右、崩れる」
声を出す。
短く。
だが――
「……え?」
反応が遅れる。
ズレがある。
伝達が噛み合わない。
「……左も来る」
続ける。
「どっちだよ!」
混乱。
「……綻びか」
流れが崩れる。
判断が分散する。
男が一歩遅れる。
敵の攻撃。
「――遅い」
踏み込む。
距離を詰める。
その瞬間。
「……速すぎる」
抑えきれない。
反射的に動く。
敵を切る。
終わる。
一瞬で。
「……」
沈黙。
空気が止まる。
「……今の」
男が呟く。
「……見えなかった」
別の声。
「……やりすぎたな」
戻す。
呼吸を整える。
速度を落とす。
「……運だ」
短く言う。
「いや、今のは――」
言葉が止まる。
「……何でもない」
引く。
だが、消えない。
戦闘が続く。
だが、空気が違う。
視線が増える。
意識されている。
「……見られてるな」
動く。
今度は抑える。
遅く。
自然に。
敵を倒す。
時間をかける。
「……問題ない」
戦闘終了。
「助かった……けど」
男が言う。
「さっきの何だ?」
「……何がだ」
「動きだよ」
沈黙。
数秒。
「……焦っただけだ」
理由を置く。
単純に。
「……そうか?」
納得していない。
「……そうだ」
押す。
軽く。
「……まあいい」
引く。
だが――
「……残ったな」
町へ戻る。
通り。
人の流れ。
同じ。
だが、違う。
「……濃くなってる」
違和感が。
明確に。
ギルドへ入る。
視線が集まる。
いつもより。
「お前、さっきのどうやったんだ?」
別の男。
「……何の話だ」
「いや、戦闘の」
「……普通だ」
「……普通じゃねえだろ」
言葉が重くなる。
「……綻びだな」
完全ではない。
だが、隠せない。
男の視点。
今まで感じていた違和感が“気のせい”ではなく“具体的な何か”として浮かび上がり始め、それを言葉にしようとするがうまく説明できず、代わりに警戒だけが強くなる。
「……来たな」
疑いが形になる。
「……まだだが」
視線を上げる。
空間。
向こう側。
観測者は動かない。
だが、見ている。
「……揃ってきたな」
人間。
上位存在。
両方が。
「――気づき始めてる」




