第1話「日常」
朝、ギルドの前に立った瞬間、これまでと同じ建物であるはずなのに、自分の中での位置づけが明確に変わっていることに気づき、“外から入る場所”ではなく“戻ってくる場所”として認識されている感覚が自然に定着している。
違和感はない。
調整もいらない。
「……馴染んだな」
扉を開ける。
中へ。
「おう、来たか」
声が飛ぶ。
いつもの男。
軽い調子。
「……ああ」
短く返す。
「今日の依頼、決めてるか?」
自然な会話。
「……まだだ」
「じゃあ一緒に見るか」
距離が近い。
疑いはない。
「……いいな」
掲示板の前に立つ。
依頼書が並ぶ。
討伐。
採取。
護衛。
「……浅いな」
内容は単純。
だが――
「……足りる」
「どれにする?」
男が聞く。
「……これだな」
適当に一枚を指す。
「分かった」
即座に決まる。
「……従うな」
カウンターへ。
処理。
完了。
「昼には戻れるな」
男が言う。
「……そうだな」
外へ出る。
通り。
人の流れ。
日常。
「……問題ない」
森へ向かう。
歩く。
並ぶ。
「最近、調子いいな」
男が言う。
「……そうか?」
「動きが安定してる」
「……慣れただけだ」
嘘ではない。
だが、全てでもない。
戦闘。
始まる。
敵が出る。
小型。
「……遅いな」
だが、合わせる。
人間の範囲に。
剣を振る。
当てる。
倒す。
「ナイス」
男が言う。
「……問題ない」
戦闘が終わる。
静かになる。
「……普通だな」
違和感はない。
異常もない。
「……表は」
戻る。
町へ。
ギルド。
報告。
「はい、完了確認」
受付が言う。
報酬が渡される。
「……通る」
席に戻る。
座る。
会話が始まる。
他愛ない話。
「次どこ行く?」
「夜どうする?」
「……どこでもいい」
笑いが起きる。
「お前ほんと適当だな」
「……そうか?」
自然だ。
完全に。
「……これが日常か」
だが――
夜。
外に出る。
人が減る。
音が落ちる。
「……ここからだな」
路地へ入る。
暗い。
静か。
気配。
人間。
一人。
「……いるな」
距離を詰める。
音を消す。
背後。
「……っ」
気づく。
遅い。
押さえる。
引く。
終わる。
喰う。
記憶。
思考。
流れる。
「……浅いな」
処理。
終わる。
外へ出る。
通りへ戻る。
「……問題ない」
誰も気づかない。
「……回るな」
昼。
人間として動く。
夜。
捕食者として動く。
「……両立する」
視線を上げる。
町。
構造。
「――喰らいながら、生きる」




