第12話「崩れ」
朝の通りに出た瞬間、いつもと同じ時間、同じ人の流れであるはずなのに、動きと音がわずかに噛み合っておらず、歩幅や会話のリズムが互いに干渉し合って“正常な流れ”を維持できていないことに気づく。
人はいる。
数も変わらない。
だが――
「……遅れてるな」
全体が、わずかに。
パンを売る店。
客が並ぶ。
だが、順番が噛み合っていない。
「次の人――」
店主が言う。
だが、誰も前に出ない。
数秒。
沈黙。
「あ……」
客が気づく。
遅れて動く。
「……ズレてる」
判断が、遅れている。
歩く。
通りを抜ける。
人とすれ違う。
男がこちらを見る。
目が合う。
「……」
言葉が出ない。
何かを言おうとしている。
だが、繋がらない。
そのまま通り過ぎる。
振り返らない。
「……崩れてるな」
完全ではない。
だが、戻らない。
ギルドに入る。
扉を開ける。
音が遅れる。
会話が途切れる。
「……昨日の――」
誰かが話し始める。
止まる。
「……何だっけ」
続かない。
「……またか」
別の声。
苛立ちが混ざる。
「……おかしいぞ」
言葉になる。
違和感が。
「……病気か?」
誰かが言う。
原因を探す。
「……違う」
否定する声。
だが、理由は出ない。
「……分からねえ」
結論は出ない。
「……崩壊前だな」
内側で判断する。
構造が維持できていない。
歩く。
テーブルの横。
男が椅子を引く。
座る。
だが、動きが遅れる。
「……っ」
一瞬止まる。
何かを思い出そうとする。
「……何でもねえ」
誤魔化す。
「……深いな」
カウンターへ向かう。
受付が顔を上げる。
「今日は……」
言葉が止まる。
数秒。
沈黙。
「……何でもいい」
自分で繋げる。
流れを補正する。
「……助かる」
受付が言う。
小さく。
安堵が混ざる。
「……依存してるな」
気づく。
自分に。
「……支点か」
振り返る。
全体を見る。
人。
会話。
流れ。
崩れている。
だが――
「……回ってる」
完全には止まらない。
理由は一つ。
「……俺か」
外に出る。
空気が変わる。
通りも同じ。
ズレている。
だが、止まらない。
子供が転ぶ。
立ち上がる。
少し遅れる。
母親が気づく。
抱き上げる。
だが、動きがぎこちない。
「……限界が近いな」
空を見上げる。
意味はない。
「……壊れる」
確実に。
視線を戻す。
町。
人。
構造。
「――もう戻らない」




