第8話「選択2」
ギルドを出て人の流れに紛れたまま、さっきの会話の残響を頭の中で反復していると、個人の違和感が言葉を介して共有され、曖昧だった認識が少しずつ輪郭を持ち始めていることを理解する。
完全ではない。
だが、止まってもいない。
「……広がってるな」
放置すれば、いずれ確信に近づく。
それは時間の問題だ。
歩く。
速度は一定。
視線も自然。
だが、思考は別の方向へ進む。
「……二択か」
抑える。
違和感を消す。
目立たない。
埋もれる。
支配する。
違和感ごと利用する。
流れを握る。
個体を動かす。
「……どっちでもいいな」
どちらも可能だ。
制御できる範囲にある。
足を止める。
通りの端。
人の流れから半歩外れる。
「……なら」
「……両方か」
抑えるだけでは遅い。
支配だけでは露出する。
「……混ぜる」
結論が出る。
曖昧ではない。
明確だ。
「……一つ、消すか」
対象は決まっている。
例の男。
最初に違和感を拾った個体。
歩き出す。
ギルドへ戻る。
迷いはない。
扉を開ける。
中へ。
空気が流れる。
視線。
複数。
だが、問題ない。
「……いるな」
例の男。
いつもの位置。
こちらを見ていない。
だが、意識は向いている。
近づく。
自然に。
流れの中で。
「……少し、いいか」
声をかける。
軽く。
警戒されない距離で。
男が振り向く。
目が合う。
一瞬。
「……なんだ」
短い。
だが、警戒はある。
「……外で話す」
それだけ言う。
理由は出さない。
だが、拒否させない。
数秒。
沈黙。
「……いいだろう」
男が立つ。
ついてくる。
「……動いたな」
内側で確認する。
誘導は成立している。
外へ出る。
通り。
人の流れ。
そのまま進む。
「どこだ」
男が聞く。
短く。
「……こっちだ」
路地へ入る。
人が減る。
音が落ちる。
「……用は何だ」
男が止まる。
距離を取る。
警戒。
当然だ。
振り返る。
視線を合わせる。
外さない。
「……お前、気づいてるだろ」
先に言う。
曖昧にしない。
男の目が細くなる。
「……何をだ」
返す。
だが、探っている。
「……違うことだ」
一言。
それだけで十分だ。
沈黙。
空気が張る。
「……やっぱりな」
男が言う。
確信が混ざる。
「……何だと思う」
問い返す。
情報を引き出す。
「分からん」
正直だ。
だが――
「だが、普通じゃない」
戻る。
結論へ。
「……そうか」
それでいい。
そこまでだ。
距離を詰める。
一歩。
自然に。
「……!」
男が反応する。
遅い。
手を伸ばす。
口を塞ぐ。
引く。
音は出ない。
抵抗。
一瞬。
終わる。
「……静かだな」
問題はない。
喰う。
躊躇はない。
情報が流れる。
思考。
観察。
疑い。
すべてが入る。
「……近かったな」
かなり。
だが――
届いていない。
終わる。
静かに。
死体を見る。
処理はしない。
流れに任せる。
路地を出る。
人の中へ戻る。
何も変わらない。
ギルドへ戻る。
扉を開ける。
「……あれ?」
誰かが言う。
小さく。
「さっきのやつは?」
別の声。
「……知らん」
答える。
自然に。
「……そうか」
流れる。
完全ではない。
だが、止まらない。
「……一つ、消えたな」
内側で確認する。
視線を動かす。
残りの個体。
関係。
流れ。
「……これでいい」
抑えた。
同時に――
「……動かせる」
歩く。
止まらない。
迷わない。
「――次だ」




