第7話「歪み」
ギルドの中に入った瞬間、これまでと同じ空気であるはずなのに、わずかに“揃っていない感覚”が混ざっていることに気づき、それが環境の変化ではなく“認識の側の変化”によって生じているものだと理解する。
視線の数は変わらない。
会話の量も同じ。
だが、その中に含まれる“質”が違う。
「……広がってるな」
カウンターへ向かう。
歩く。
動きは問題ない。
違和感は出ていない。
だが――
「……見てるな」
視線が止まる。
外れない。
複数。
「おう」
昨日の男が声をかける。
軽い。
だが、どこか引っかかる。
「今日はどうする?」
「……適当に受ける」
曖昧に返す。
深く入らない。
「お前、いつもそれだな」
笑う。
だが、視線が残る。
観察が混ざっている。
「……そうか?」
軽く返す。
崩さない。
別の男が口を挟む。
「でもよ、あいつの指示、妙に当たるよな」
軽い調子。
だが、核心に近い。
「……たまたまだろ」
別の声。
否定。
だが弱い。
「いや、何回か見てるけど、外してねえぞ」
重なる。
情報が共有されている。
「……なるほどな」
内側で整理する。
個人の違和感が、会話を通して共有されている。
「……歪んできたな」
「なあ」
また声。
例の男ではない。
別の個体。
「お前、どこで覚えたんだ?」
同じ質問。
別の口から。
繰り返される。
「……忘れた」
答える。
同じように。
理由も同じ。
「頭打った」
「またそれかよ」
笑いが起きる。
軽い。
だが――
「……本当か?」
混ざる。
疑いが。
空気がわずかに重くなる。
完全ではない。
だが、軽くもない。
「……証拠はない」
誰かが言う。
現実的な判断。
「ならいいだろ」
流そうとする。
「……だが」
別の声。
止める。
「変なのは確かだ」
沈黙。
数秒。
完全には崩れない。
だが、完全にも戻らない。
「……面白いな」
内側で思う。
広がる。
歪む。
「……なら」
選択する。
「……抑えるか」
露出を減らす。
目立たない。
流れに埋もれる。
「……それとも」
もう一つの選択。
押す。
利用する。
支配する。
視線を動かす。
全体を見る。
個体ではない。
構造。
「……まだだな」
今は抑える。
崩さない。
カウンターへ向かう。
依頼を取る。
いつも通り。
変えない。
「今日は一緒か?」
さっきの男。
声をかけてくる。
関係は維持されている。
「……ああ」
短く返す。
崩さない。
「……様子見だな」
内側で決める。
強く出ない。
抑える。
ギルドを出る。
外へ。
空気が変わる。
歩く。
人の流れ。
音。
匂い。
「……広がる」
止められない。
自然に。
「……だが」
問題ではない。
まだ。
視線を上げる。
町。
人。
構造。
「――使える」




