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バグ個体に転生した俺、魔物として進化しながら人間社会を喰らう  作者: HATENA 
第1章「異常個体」

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第3話「違和感」

 ――嗅える。


 さっきまで曖昧だった匂いが、はっきりと線を持って感じ取れる。


 血の匂い。


 腐肉の匂い。


 そして、生きているものの匂い。


 数も、方向も、なんとなくだが分かる。


 洞窟の奥。


 複数。


 小型の反応。


 牙獣鼠か、それに近いもの。


 ……いい。


 狩れる。


 そう判断するまでに、ほとんど時間はかからなかった。


 思考が早い。


 いや、違う。


 迷いがない。


 以前なら、もう少し躊躇があったはずだ。


 だが今は。


 “どうすれば効率よく殺せるか”だけを考えている。


 それが自然だと感じている自分に、ほんの一瞬だけ違和感を覚える。


 ……まあいい。


 考えても意味はない。


 身体を低く広げ、地面に沿うように移動する。


 粘液の身体は、影と区別がつかない。


 匂いを辿る。


 ゆっくりと。


 確実に。


 やがて、開けた空間に出た。


 少し広い。


 中央に、黒ずんだ肉塊が転がっている。


 その周りに、牙獣鼠が三体。


 互いに距離を取りながら、肉を奪い合っている。


 争っている。


 ――好都合だ。


 注意が散っている。


 狙うなら今。


 思考は、もう完全に“狩り”のそれだった。


 一体。


 距離が近い個体を選ぶ。


 動きは速い。


 だが、視線は肉に集中している。


 ……いける。


 身体をさらに薄く広げる。


 音を立てず、匂いを殺し、じわじわと距離を詰める。


 牙獣鼠の一体が、肉にかぶりついた。


 その瞬間。


 動く。


 地面から跳ね上がるように、全体を一気に押し広げる。


 覆う。


 沈める。


 反応する間もなく、牙獣鼠の上半身を飲み込む。


 ぐちゅ、と音のない衝撃。


 暴れる。


 だが、すでに遅い。


 締める。


 溶かす。


 短時間で処理する。


 そのまま引き込む。


────────────────────────

【システム】


牙獣鼠(F)を捕食しました

経験値を獲得


────────────────────────


 残りの二体が、こちらに気づいた。


 威嚇の鳴き声。


 だが、逃げない。


 ……逃げない?


 一瞬、思考が止まる。


 普通なら、逃げるはずだ。


 仲間が一瞬で消えた。


 それを見て、逃げない。


 むしろ、こちらを囲むように動く。


 ……なるほど。


 理解する。


 こいつらは、弱い個体を狩る習性がある。


 つまり今、俺は“獲物”として認識されている。


 面白い。


 そう思った。


 その感覚に、自分でわずかに驚く。


 だが、もう止まらない。


 片方が飛びかかってくる。


 速い。


 だが。


 見える。


 嗅覚と、わずかな気配で、動きが分かる。


 身体を横に流す。


 掠める。


 そのまま包み込む。


 もう一体が背後から来る。


 だが遅い。


 先に一体を潰す。


 締める。


 溶かす。


 そのまま引き込む。


────────────────────────

【システム】


牙獣鼠(F)を捕食しました

経験値を獲得


────────────────────────


 最後の一体。


 わずかに躊躇した。


 その一瞬で十分だった。


 逃げようとしたところを、追いつく。


 覆う。


 沈める。


 終わりだ。


────────────────────────

【システム】


牙獣鼠(F)を捕食しました

経験値を獲得


────────────────────────


 静かになる。


 空間に、俺だけが残る。


 内側が満たされていく。


 強く。


 濃く。


 さっきまでとは明らかに違う。


 その時、表示が割り込む。


────────────────────────

【システム】


レベルアップ


Lv3 → Lv4


HP   :18 → 22

攻撃  :4 → 5

敏捷  :3 → 4


────────────────────────


 ……速い。


 成長が。


 明らかに。


 普通よりも。


 その認識と同時に、別の表示が出る。


────────────────────────

【システム】


逸脱吸収が発動


────────────────────────


 ……来る。


 そう思った瞬間。


────────────────────────

【システム】


スキルを取得しました


・反応強化 Lv1


────────────────────────


 まただ。


 おかしい。


 明らかに。


 捕食するたびに、何かを“取りすぎている”。


 普通の魔物は、こんな風にはならないはずだ。


 ……比較対象はないが、それでも分かる。


 これは異常だ。


 だが。


 ――強い。


 それも、事実だった。


 思考が、より速くなる。


 動きが、より正確になる。


 狩りが、簡単になる。


 それが気持ちいい。


 その感覚に、わずかに寒気が走る。


 ……人間だった頃。


 こんな風に思ったことがあったか?


 ない。


 断言できる。


 これは違う。


 確実に。


 だが。


 それでも。


 やめる理由がない。


 むしろ、進む理由しかない。


 その時。


 視界の奥で、何かが揺れた。


 ノイズ。


 わずかに、だが確かに。


────────────────────────

【エラー】


不明な成長補正を検出


再計算を試行


────────────────────────


 ……エラー?


 初めて見る表示。


 【システム】ではない。


 違う。


 何かがズレている。


────────────────────────

【エラー】


補正失敗


処理を継続します


────────────────────────


 ……継続?


 何を?


 理解しようとする。


 だが、答えは出ない。


 ただ一つ分かるのは。


 自分の成長は、正常ではない。


 そして。


 それは、止まらない。


 ゆっくりと身体を広げる。


 洞窟の奥へ。


 さらに濃い匂いの方へ。


 獲物はまだいる。


 食える。


 強くなれる。


 その思考が、自然に流れる。


 そして、それを“おかしい”と感じる感覚が、少しずつ薄れていることに気づく。


 ……まあいい。


 どうでもいい。


 生きるためだ。


 そう結論づける。


 だが、その思考の奥で。


 わずかに、別の感覚が残っていた。


 ――これは、本当に“生きている”のか?


 その疑問は、すぐに消えた。


 次の獲物の匂いが、強くなったからだ。

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