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バグ個体に転生した俺、魔物として進化しながら人間社会を喰らう  作者: HATENA 
第1章「異常個体」

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第2話「捕食」

 狭い岩の隙間の奥で、俺はじっと動きを止めていた。


 外には、さっきの黒い狼の気配がまだ残っている。完全に去ったわけではない。だが、こちらを追ってくる様子もない。


 ――助かった。


 そう判断していいはずなのに、安心はできなかった。


 弱い。


 その事実が、思考の底に重く沈んでいる。


 さっきの牙獣鼠ですら、余裕があったわけじゃない。ましてあの狼など、正面からぶつかれば一瞬で終わる。


 生きるには。


 強くなるしかない。


 ならばやることは一つだ。


 ――食う。


 その結論は、驚くほど自然に浮かんだ。


 躊躇は、ほとんどない。


 ほんのわずかに残っている「人間だった頃の感覚」が、引っかかりのように胸の奥に残るだけだ。


 だが、それもすぐに消える。


 飢餓が、すべてを上書きする。


 ゆっくりと、身体を広げる。


 岩の隙間から外へと滲み出るように移動する。


 移動は遅い。


 だが、完全に無音に近い。


 粘液の身体は、地面に沿って這うように進み、影の中に溶け込む。


 ――使える。


 この身体は、弱いだけじゃない。


 隠れるには、都合がいい。


 洞窟の空気は湿っていて、腐臭が強い。その中に紛れれば、多少の気配はごまかせる。


 視界の端に、小さな動きが映った。


 岩陰。


 さっきと同じ、牙獣鼠だ。


 数は二体。


 互いに距離を取りながら、何かを漁っている。


 血の匂い。


 死体か。


 ……いい。


 好都合だ。


 片方に意識を向ける。


 近い。


 だが、さっきのように正面から包めば、もう一体に邪魔される。


 なら。


 少し、考える。


 どうすればいいか。


 思考する。


 それ自体が、妙に新鮮だった。


 前はこんな風に考えていたはずだが、今はそれが“生きるための計算”になっている。


 片方を、先に仕留める。


 もう片方が反応する前に。


 短く、結論が出る。


 身体をわずかに広げる。


 薄く、広く。


 地面に溶けるように。


 ゆっくりと距離を詰める。


 牙獣鼠の一体が、こちらへ背を向けた。


 その瞬間。


 動く。


 弾くように身体を持ち上げ、一気に覆いかぶさる。


 ぐちゅ。


 牙獣鼠が暴れる。


 だが今回は、さっきと違う。


 動きを抑える。


 絡め取るように、包み込む。


 酸分泌。


 内側から溶かす。


 抵抗が弱まる。


 そのまま押し潰す。


 静かに、確実に。


 ――仕留めた。


────────────────────────

【システム】


牙獣鼠(F)を捕食しました

経験値を獲得


────────────────────────


 もう一体が気づいた。


 鳴き声を上げる。


 だが遅い。


 俺はすでに、次の行動に移っていた。


 さっきよりも速い。


 わずかに、だが確実に。


 身体が軽い。


 理解する。


 成長している。


 そのまま二体目にも覆いかぶさる。


 今度は、暴れが強い。


 爪が食い込む。


 身体が裂ける。


 だが。


 離さない。


 締める。


 溶かす。


 押し潰す。


 やがて、動きが止まる。


────────────────────────

【システム】


牙獣鼠(F)を捕食しました

経験値を獲得


────────────────────────


 内側が満たされていく。


 さっきよりも強く。


 濃く。


 熱のような感覚が広がる。


 その瞬間、表示が変わる。


────────────────────────

【システム】


レベルアップ


Lv2 → Lv3


HP   :15 → 18

攻撃  :3 → 4

敏捷  :2 → 3


────────────────────────


 ……上がった。


 確実に。


 数字で理解できる変化が、妙に心地いい。


 強くなっている。


 はっきりと。


 それが分かる。


 その感覚に、わずかに笑いそうになる。


 ――危ないな。


 自分で思う。


 だが、それでも止まらない。


 もっと食えば、もっと強くなる。


 単純だ。


 だが、それでいい。


 この世界では、それが全てだ。


 ふと、違和感が走る。


 視界の奥で、何かが揺れた。


────────────────────────

【システム】


逸脱吸収が発動


特性の一部を取得


────────────────────────

────────────────────────

【システム】


スキルを取得しました


・嗅覚強化 Lv1


────────────────────────


 ……またか。


 普通ではない。


 明らかに。


 捕食するたびに、本来あり得ない何かを取り込んでいる。


 だが。


 今はそれを否定する理由がない。


 むしろ。


 使える。


 強くなる。


 それだけで十分だ。


 周囲の匂いが、よりはっきりと分かるようになる。


 血。


 腐肉。


 そして――


 生きているものの匂い。


 数。


 位置。


 なんとなくだが、把握できる。


 ……いい。


 狩れる。


 確実に。


 視界の奥に、再びステータスが開く。


────────────────────────


個体名:未設定

種族:屍喰いスライム

ランク:F


レベル:3


【ステータス】

HP   :18 / 18

MP   :3 / 3


攻撃  :4

防御  :1

敏捷  :3

知性  :0


【スキル】

・捕食 Lv1

・酸分泌 Lv1

・逸脱吸収 Lv1

・危機感知 Lv1

・嗅覚強化 Lv1


【称号】

・規格外個体

・存在汚染


【状態】

軽度異常


────────────────────────


 少しだけ、理解する。


 自分は、普通じゃない。


 他の魔物とは違う。


 だが。


 だからこそ、生き残れる。


 そう確信する。


 ゆっくりと身体を広げる。


 洞窟の奥へ。


 より多くの獲物がいる方へ。


 ――次は、もっと大きいものを食う。


 その考えが、自然に浮かんだ。


 そして、それに疑問を持つことは、もうなかった。

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